希望を胸に 空へ ~この春、旅立つ雛鳥たちに送るエール~
私の名前はふじわらしのぶ、北の大地北海道に住むジャイアントスイングをこよなく愛するジャイアントスイング研究家だ。
ジャイアントスイングは素晴らしい。相手の足を両脇で掴んでぶん回すだけで成立する強力な必殺技だ。
だがジャイアントスイングの素晴らしさはそれだけに止まらない。敵を回す事で生まれる敵味方を超えた一体感、敵を手放す事で生まれる愛別離苦、会者定離というこの世の真理をも体験できる。
素晴らしい。実に素晴らしい。
今日はこの日本一のジャイアントスインガーである私がジャイアントスイングにまつわる深くて、いい話。――即ち、深いいい話を迷える子羊どもに披露してやろう。
覚悟はいいか?ティッシュをたくさん用意しておけよ?
あれはそう私が十代の頃…おっと私は十八歳だった。という事はつい昨日の出来事でもあるわけだな。失敬、失敬。
アルバイトの帰り道、札幌テルメ近くにあるバス停前でバスを待つ傍ら腹筋をしていた時の話だ。
何?札幌テルメはもうないだって?おかしいな…。私が工事現場で働いていた頃は出来たばっかのはずだが…。
はっはっは!間違えた、ガトーキングダムだ。
ガトーキングダムの近くで腹筋をしていた時の話だ。やたらと体つきのよい男に声をかけられた。
「ハーイ!私アメリカ人デース!アナタ、現地人デスカ?トラピスト修道院ヘノ行キ方、教エテオクンナマシヤデー?」
(何て流暢な日本語なんだ。おそらくは相当、日本語が好きなんだろうな)
私は挨拶代わりに相手の背後を取ったと同時に羽交い絞めする。そして伝家の宝刀、ドラゴンスープレックスを決める。
「ぬんっ‼」
外人は後頭部を地面にぶつけ、頭蓋骨を破壊される。その後、地面に赤とオレンジ色がほどよく混ざったゲル状の何かがぶちまけられた。
「大丈夫。みね打ちでござる」
私はエルボードロップで止めをさしてからフォールを取った。
「1…ッッ!2…ッッ!3…ウィナー、ふじわらしのぶ‼」
「うおおおおッ!俺はいつ何時、どこでも誰の挑戦でも受けるッッ‼‼」
とにかく私の圧勝で試合(?)は終わった。
「ザオリク」
試合の後は恨みっこ無しという事で私は復活魔法で外人を元通りにしてやった。
「流石は極東最強ハジャイアントスインガーふじわらしのぶさんデス。私、目カラ鱗ガ取レテシマイマシター」
「ところでトラピスト修道院は函館だ。大通りにも教会(石狩街道沿いのやつ)があるけどそっちで済ますか?」
「ノー。私バター飴、食べタイデース」
「なるほど。あの飴はうまいからな…」
北海道函館市の銘菓、トラピスト修道院のバター飴は美味い。私も好物だ。
新千歳空港や札幌駅、各種道産食材ショップでも飼えるような気がするが野暮は言うまい。
「オ願イデース!ドーカ私ヲ凾館マデ、ジャイアントスイングフォーエバーシテクダサーイ!」
ジャイアントスイングフォーエヴァーだって⁉こいつまさか俺と同じセガ信者なのか‼
いや任天堂やソニーが放った刺客という可能性もある。まずは軽い小手調べだ。
「貴公、好きなミュージシャンは?」
「光吉猛修」
「アキラ、裡門で?」
「エクスプロード‼」
「合格だ。真の仲間よ。さあ俺がウルフばりのジャストジャイス(ジャスト入力ジャイアントスイングの事)で貴様をッ函館に送ってやろう…」
私は外人の両足を掴んだ。そして円盤のようにブンブン回す。
「ふんぬおおおおおおおおおおッッ‼‼‼」
「オー‼スゴイネ、ゴイスネ‼マルデ”マッドライダーサンマンヨ。トコロデふじわらさん、貴方ノ持チキャラハ?」
「ジェフリー一筋三十年。浮気した事は無いな」
「ひえええええええええッ‼」
「ぬんっ‼…着地する時は受け身を取れよ?」
かくして謎の外人は私のジャイスで旅立った。私は己の善行にかつてない充実感を覚え、その日は家に帰ると百回床オナニーをした。
その日の夜、ジャイスでぶん投げた外人からLINEが届いた。彼は怒った様子で語尾に(怒)をつけている。
「ココハ函館ジャナクテ、網走ネ‼ドーシテクレルノヨ‼」
「知らん」
こうして私の冒険は終わった。今回の冒険でわかった事、それは床オナニーはちっとも気持ち良くないという事だ。こうした一つ一つの小さな積み重ねが大きな結果に繋がり、やがては進化の秘宝でダークドレアムになった私が地上を征服する日も遠くはない。