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夫人
夫が赤ん坊を連れて仕事から帰って来たのは寒い寒い雪の降る夜だった。
「この子を十五まで育てるぞ」
「はい」
夫は余り喋らない人だったし、私もそうだった。
私達夫婦には元々会話らしい会話などほとんどなかった。
夫がこう言っているのだから私がこの子を育てるのは決まっていたし、私も何も不自然だとは思わなかった。
春に次男を産んだばかりだったけれど、長男は七歳になっていて手のかからない子だし、双子を産んだと思って育てようと思い、夫の腕から受け取った。
赤ん坊は何も知らずに静かに眠っている。
「何も聞かないのか?」
「聞いて欲しいんですか?」
「人質だ」
「人質?」
「敵の大将の娘だ」
そうか、この子は女の子か。
三人目は女の子がいいと思っていたので丁度いい。
「大事にするんだぞ」
「はい」
この家に嫁いで一番長く夫と話した気がした。
夫が部屋を出て行ってすぐに、娘は泣き出した。
私はこの子の名を聞くのを忘れたと気づいたが、夫を追いかけたりはしなかった。




