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9 魔法空間


「環境設定はどうする?」

「じゃあ、シルスタヴィア平原で。あの日のことを思い出しながらやりたいから」

「了解。じゃあ、送信っと」


 携帯用の魔石板から指示が飛び、魔法空間の形が変わる。

 どこまでも白く平坦な床は緑豊かな地面へと変わり、天井は透き通った青に染まった。

 いつ見てもどういう仕組みで成立しているのかさっぱりな魔法技術だ。


「設定完了だよ。どう? 上手く行きそう?」

「感じは掴めたかな。よし」


 病院のベッドの上でただ暇をしていたわけじゃない。

 ニイハがいない間はずっと自分の魔法について考えていた。

 静電気程度の出力しか出せない雷魔法。

 なにをどう努力しても改善せず、周囲の嘲笑に晒され続けた原因。

 この魔法を憎く思ったこともある。

 けど、それは間違いだった。

 俺の魔法の本質が蓄電なら、魔力はなんのためにある?


「魔力を電気に変換して……溜め込む。いや、違う。体の中に流れる電気を、増幅させる」


 人体を流れる微少な生体電気。

 それには魔法の解釈を間違っていた頃でさえ干渉できていた。

 本質を理解した今なら、正しく使えるはず。


天紫雲パープルスカイ


 稲妻が弾ける音がして、全身に電気が満ちる。

 体の奥底から力が溢れてくる感覚は、どうしてか初めてではないような気がした。

 なんだか不思議な気分だ。


「イナくん、目が」

「目?」

「うん。紫色に光ってるよ、ほら」


 差し出された手鏡に映る自分の目はたしかに紫色に発光していた。


「そう言えば、ちょっと目の辺りがピリピリするような。大丈夫かな」

「大丈夫じゃない? ほら、雷龍のブレスも平気だったんだし」

「たしかに、それもそうか。」


 瞬きが多少多くなるけど、まぁ、すぐになれるか。

 このくらいなら。


「光るのは目だけなんだね、今は」

「ん、なにか言った?」

「ううん、なんでもない。それより魔法の性能をたしかめてみたくない?」

「それはもちろん」

「じゃあ、設定は任せて! えーっと、最初はこのくらいかな」


 魔石板から送信された指示が、透明の魔物を計五体ほど顕現させる。

 それは水に絵の具が混ざるように色付くと身を震わせて本物さながらに吠えた。

 外見からしてサラフィード火山にも生息しているサラマンダーウルフに酷似している。

 相違点は恐らく生息地による生態の違い。

 サラマンダーウルフの毛並みは防火性を獲得していて重いのに対して、こちらのウルフは風に靡くほど軽やかだ。

 シルスタヴィア平原の固有種、シルフウルフってところか。


「ターゲットをイナくんに限定。中立状態から敵対状態へ移行。三秒前、二、一、今!」


 ニイハの合図でシルフウルフが動く。

 長毛を靡かせて風の如く疾く草原を駆ける。

 取り囲むように旋回すると、こちらの死角から仕掛けてきた。

 身に迫り、跳び上がり、牙を剥く。

 その様を紫に光る目で視認した瞬間、身に纏う稲妻が激しく音を立てた。

 紫電を引いた腕の裏拳が、シルフウルフのこめかみを捉えて砕く。

 続けざま、背後から飛び掛かる二体目を紙一重で躱し、側にまで来ていた三体目を蹴り飛ばす。靴越しに伝わった感触で会心の一撃を確信し、蹴った足で地面を蹴る。

 この体は風よりも速く駆けて一直線に四体目をこの片膝で捉え、体をくの字に折り曲げた。

 着地。

 同時に手の平に紫電を集中させ、一振りの剣とする。

 それを振り向き様に薙ぎ払うと、残りの二体の魔物が焼き切れた。

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