8 退院
「こいつは凄ぇな。あの雷龍が真っ二つで地面まで割れてら」
雷龍も地面も断面が溶けてやがる。
斬ったってより焼いたってほうがしっくりくるな、こりゃ。
「いったいいつからこんな芸当ができるようになったんだ? ニイハの奴」
「あぁ、それ実は違うみたいだよ」
「違う? 違うってなんだよ、アイラ」
赤黒い髪と目に、薄っぺらな笑み。
教えてあげるととでも言いたげな表情はいつも通り感に障る。
「やったのは最近入って来た新人ちゃんなんだってさ。面白いよね、サラマンダーギルドだったかな? そこにいた時はかなりのポンコツちゃんだったみたいなのに」
「そんな奴がこれを、か……なんでお前、そんなこと知ってんだ?」
「ギルマスが話してるの聞いちゃったから」
「盗み聞きかよ」
「人聞きが悪いなぁ。聞こえちゃったんだよ、たまたま。でも、妙だよね。その新人ちゃんの手柄がニイハちゃんに移動してるなんて。それもギルマスの意向で」
「たしかに妙だがアルカルドさんのやることだ、なんか意図があんだろ。それよりサボってねぇでさっさと仕事を済ませろ、アイラ」
「わかってるよ。ハバネちゃんは相変わらずせっかちだよねぇ」
「お前がのろまなんだよ」
「けど、残念。のろまな僕のほうが先に見付けちゃいました。ここだよ、ここ」
アイラの言動に苛つきを憶えつつ指差された場所へ。
二つに割れた雷龍の左側、こめかみにそれはあった。
龍鱗を砕き、骨を貫き、内部に侵食している。
「今月はこれで何体目だ?」
「シルスタヴィア平原だけでも十七件。未発見もあるだろうし、保護区全土になるとかなりの数になるんじゃない?」
「面倒なことになりそうだな。寄生生物なんてよ」
花が咲いたみたいに肉の花弁を開いた寄生生物。
寄生された魔物にどんな変化が現れるのか、人に寄生するのか、どこから保護区に来たのか。まだ詳細はわからないが数が増える前に対策を打つ必要がある。
なにか起こってからじゃ、何もかもが遅い。
「じゃ、ハバネちゃん回収よろしくね」
「あ、おい! なんで俺が!」
「だって見付けたの僕だもん。そればっちいし。ほら、サボってないで仕事してよ、仕事」
「てめぇ……あとで憶えとけよ!」
触るのには抵抗がある仕事は仕事だ。
しようなく寄生生物の花弁部分を掴んで引き抜く。
ねっとりとした粘液に塗れた根っ子状の触手がぬるりと現れ、思わず身が震えた。
「気色が悪いったらありゃしねぇな」
回収用の瓶に手早く詰めるとキツく蓋を閉める。
出来ればここから二度と出てきて欲しくないもんだが。
「あれ? それ」
「あ?」
「動いてない? まだ生きてるよ」
「……マジか」
瓶の中でのたうち回っている。
「やったね、ハバネ。寄生生物の捕獲例第一号だよ」
「これでこいつのことが少しでもわかってくれりゃいいんだがな」
眺めているとまた鳥肌が立ってきた。
さっさと仕舞って帰るか。
§
「退院おめでとう! イナくん!」
「退院って言っても短い期間だったけど。ありがと、ニイハ」
意識を取り戻した翌日から丸一日の経過観察を終えて無事退院と相成った。
心も体も健康そのもので、異常はどこにも見られなかったらしい。
人生初めての入院生活は、短かったこととニイハがお見舞いに来てくれたお陰で退屈しなかった。どこからどう見ても一人じゃ食べきれない量のフルーツの盛り合わせを渡された時は正直困ってしまったけれど。
「お仕事は明日からになってるから、今日一日は自由に過ごして大丈夫だよ」
「なら、魔法の訓練がしたいな。入院している間、ずっとうずうずしてたんだ」
「そう言うと思ってギルドの訓練場を予約しておいたよ」
「ほんとに? ニイハに隠し事はできないな。ありがと」
「えへへ。どう致しまして」
退院したその足でシルフギルドまで戻り、そのままギルドの訓練場へ。
シルフギルドの本拠地である多層構造の巨大建築物の内部には様々な施設が設けられている。そのうちの一つが魔法使いが日々鍛錬に活用している訓練場だ。
ここは広い空間に無数の扉が規則正しく並んでいる。
「訓練場はどこも似たようなもんなんだな」
「えーっと、七十二番だから……あったここだよ」
七十二番の扉に鍵を差し込むとがちゃりと開錠の音がする。
扉が押し開かれると、その先に広がるのは真っ白な別世界。
それは魔法によって拡張された空間であり、扉の枠を境にして異なる世界が両立していた。
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