6 魔法の真価
「なんだ? ――これ」
最初に認識したのは紫色の光だった。
両手が、腕が、体が、全身が、発光している。
それに何故だか止めどなく力が湧く。
まるで自分自身が雷にでもなっているかのような、不可思議な感覚。
「いったいなにが――」
咆哮が鼓膜を揺らし、視界いっぱいにドラゴンが映る。
今はあれこれと考えている時間はない。
両翼を羽ばたいて滑空するように突進するドラゴン。
その一撃が俺まで到達する寸前、体は反射的に動いていた。
ドラゴンの顎を爪先で捉え、力尽くで蹴り上げる。
天を仰いだところへ畳みかけ、一瞬にして頭部の側面に移動。
握り締めた拳を叩き込むと砕け散った鱗が宙に舞い、その巨体ごと吹き飛ぶ。
地面を転がったドラゴンが体勢を立て直した頃には、紫色の残光を引いてその背後に回っていた。
「ゆっくりだ」
吹き荒ぶ風も、ドラゴンの動きも、降り注ぐ雨さえも、ゆっくりに感じる。
今ならなんだってできてしまいそうだ。
「雷を、武器に」
右手に集いし稲妻が一振りの剣となって顕現する。
握り締め、息を吐き、力の限りに振り下ろす紫の一閃。
それは目に見える景色のすべてを両断し、雨雲を裂いて大地を二つに割る。
ドラゴンはその身を二つに分かち、雷鳴がその命を奪い去っていった。
「勝った……のか」
二つになったドラゴンの亡骸を見て、自分が生き残ったことを知る。
割れた雨雲から夕日が差し、見上げた空は紫色に染まっていた。
「見付けた! よかった、まだ生きてる!」
ニイハの声がして振り返ると、そのバイクにはクラウドウールが繋がれていた。
首輪にワイヤーが駆けられ、ふわふわと浮かんでいる。
これでまたクラウドウールを探しにいかなくて済む。
「よかっ……た」
安心したからか、スイッチが切れたように魔法が消える。
それに引きずられるように意識も沈み、地面に倒れ込む衝撃と一緒に瞼を閉じた。
「イナくん!」
§
「雷龍を真っ二つにした? たった一人で? 彼が?」
「はい。状況からして間違いないと思います」
「うっそでしょ。はっは! ほらね! やっぱり僕の見立ては間違ってなかったんだ! ひゅー! 最高! 僕って人の才能を見抜く天才じゃないかな!」
「アルカルドさん? ここは病室ですよ」
「おっと、これは失敬」
立ち上がってわちゃわちゃしていたアルカルドさんはしゅんとなって丸椅子に腰掛ける。今はお見舞いの最中だってこと、忘れちゃってたみたい。
「しかし、なんだって急にそんな強くなったんだろうね?」
「私が駆けつけた時にはもうドラゴン――雷龍は真っ二つでした。気になることと言えば……」
「言えば?」
「イナくん、全身が紫色に光ってたんです。稲妻も凄かったし、なんだか雷そのものになっちゃってるみたいで」
「なるほど……」
アルカルドさんが腕組みをする時は、決まって考えごとをする時。
俯いてうんうんと唸っているかと思えば、次の瞬間には表が上がる。
「恐らくだけど、イナくんの魔法は――」
「ううん……」
唸り声と一緒にイナくんが目を覚ます。
天井を見つめていた眼差しは私たちのほうへ
「ここは……病院?」
「そう、ここはイナくんの病室だよ。体は平気? どこか痛む?」
「いや、大丈夫。自分でも驚くくらい体調はいいよ」
「よかったぁ。中々、目を覚まさないからちょっと心配しちゃった」
「どのくらい?」
「えーっと、丸一日くらいかな」
「そんなに……あれ、俺ってなんで病院に? たしか……そうだ。ドラゴンの雷に飲み込まれて……それで」
「それで?」
アルカルドさんに促されても、イナくんはしばらく口を開かなかった。
「ダメだ、思い出せない。俺はどうやって助かったんだ? こんなほぼ無傷みたいな状態で」
「それは――」
「どうやって助かったかと言えば、ニイハくんがドラゴンを斃したからだよ。ねぇ、ニイハくん」
こちらに振り返ったアルカルドさんは口元で人差し指を立てていた。
明らかに事実と違うことを話しているのに追究するな、なんて。
けど、アルカルドさんのことだからなにか考えがあるはず。
嘘を吐くのも、イナくんの手柄を横取りするのも気が引けちゃうけど、しようがない。
「まぁ……はい」
「そうだったのか。ありがとう、ニイハ。助かったよ、本当に」
「う、うん。どう致しまして……」
心が痛いよ。
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