5 運命共同体
「あれは……」
視界の端に白色を見付け、バイクを停める。
目をこらして見て見ると、木の根元でもぞもぞと白い毛玉が動いていた。
「見付けたッ! ニイハ! 見付かった!」
「ホント! よかったぁ。かなりギリギリだよ、今にも雨が降っちゃいそうだもん」
「たしかにな」
周囲はすでに薄暗く、雨こそ降っていないが空は薄い雲に覆われている。
すぐに空が灰色に染まり、雨や雷が降ってくるのも遠くない。
「色もまだ白い。すぐに連れて返る」
「なるべく急いで!」
エンジンは掛けたままバイクを降り、クラウドウールの側に駆け寄る。
「捕まえた!」
「メェー!」
ふわふわの毛玉を持ち上げると、本当に雲のように浮かぶ。
首輪も外れていないし、ワイヤーを取り付ければすぐに出発できる。
「家に帰してやるからな」
首輪を持ってバイクへと走る途中、冷たい雫が鼻を打つ。
「降って来やがった」
けど、大丈夫。
クラウドウールの体毛はまだ白いままだ。
雨が降っても、雷鳴が鳴っても、雷は俺たちを見付けられない。
このまま何事もなく。
そう願いながら走る最中、思わず心臓が跳ねるような轟音が響く。
「雷ッ……じゃ、ない」
雷鳴にも似た、酷く大きな声。
たしかに雨雲から響いたそれには稲光が伴っていなかった。
音と光の速度差の関係上、雷鳴の前には必ず稲光がある。
それがなかったということは、音を鳴らした何かが雨雲の向こうにあるということ。
無意識のうちに天を仰ぎ、全身で雨を浴びながら、雲の隙間に垣間見る。
空を渡り、雷鳴と共に駆け、風と共に舞う、雄々しい翼。
それはドラゴンと呼ばれる大いなる魔物。
「なんッ――でだよッ! ドラゴンなんて!」
急降下するドラゴンから逃げるように駆けだしたが遅く、ドラゴンはまずバイクを踏み潰した。爆ぜた部品から格納されていたウィル・オ・ウィスプとスカイフィッシュが逃げて行く。
これで足を潰された。逃げ切れない。
「くそッ」
バイクが壊れたことでニイハのほうに通知が入ったはず。
けれど、遠く離れた場所からここまで最速で来られたとしても、その頃にはドラゴンの腹の中だ。
万事休す。
ここから打開策があるとすれば――
「そうだよな。ストレスだよな、こんなのに襲われちゃ」
バチバチと音が鳴り、クラウドウールの体毛が黒く染まった。
「運命共同体だ。一緒に飛び込もうぜ」
地上の雷雲が、天空の雨雲から引き寄せる。
薄暗いシルスタヴィア平原を引き裂く一条の落雷。
それがクラウドウールに落ちるその前に駆けだした。
「電走」
極限状態の只中にいるからか、いつもより唱えた魔法は冴えていた。
通常では静電気程度の出力しか出せないが、今はほんのすこしだけ上がっている。
そんな実感を持ちながら稲妻を見に纏い、ドラゴンを見ることに専念した。
呼吸の感覚、瞳孔の動き、鱗の一枚一枚に至るまで、一挙手一投足を見る。
この魔法は稲妻を身に纏うことで俺自身の神経伝達速度を上昇させることが可能。
簡単に言えば反射神経が格段によくなる効果を持っている。
攻撃力に直結しないが故に弱い魔法。
だけど、この一瞬だけはそれが役に立つ。
「――今ッ」
鉤爪で地面を削り、その巨体が動く。
大きく開かれた口、剥き出しとなった牙。
それがこの身に迫り、噛み砕こうとした刹那。
強化された反射神経によって紙一重で回避する。
「抜けたッ!」
ドラゴンの顎を越えて懐へ。
その瞬間、雨雲に稲妻が満ちる。
帯電したクラウドウールに導かれ、天から落ちる一条の光。
天地に轟く雷鳴と共に落雷がドラゴンを撃ち抜いた。
「よし! いくらドラゴンでも――」
それは淡い期待だった。
魔物の中でも特別視されるドラゴン。
その耐久力と生命力は並外れたものであり、尚且つこの個体は――
「雷を……操って」
元々、雨雲の中を飛んでいたんだ。
思い至るべきだった。
このドラゴンは雷の扱いに長けていると。
頭部に生えた二本角が稲光で発光し、それらは口腔にて圧縮される。
「お前は……逃げられるかもな」
白く戻ったクラウドウールを高く投げてこの場から逃がす。
上手く風に乗れればニイハが回収してくれるかも知れない。
「俺はここまでだ」
見上げた雨雲に白い毛玉が舞う。
それを人生最後の光景として目にしながら稲妻の奔流に飲み込まれた。
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