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3 放牧場


「風除けの術式、ちゃんと機能してる?」


 バイクからニイハの音声が響く。


「あぁ、大丈夫。目も口も渇いてない」

「なら、よかった。通信もできてるし、問題はなさそうだね」


 ギルドから支給された丈夫な戦闘服の裏側には様々な便利機能が術式として施されている。環境の変化が激しい保護区で活動する魔法使いのために必要な処置だ。


「イナくんって元はサラマンダーギルドの人なんだよね? 管轄区のサラフィード火山ってどんなところだったの?」

「あそこは……とにかく暑いところだったよ。焼けた地面と溶岩の川ばっかりでさ。そう言えば歓迎会の時に岩の上でバーベキューしたっけ」

「へー! 楽しそう、バーベキュー!」


 ひょっとして食べるのが好きだったりするのか。


「焼き加減から食べる順番まで、丸ごと全部お世話したいなぁ」


 ちょっと違ったみたいだ。


「あ、そうだ。イナくんの歓迎会もバーベキューにしよ! 私、張り切って準備するから!」

「楽しみにしてる」


 焼き肉奉行的な気質があるようで、その辺のことは口出しせずに任せよう。

 でも、歓迎会か。あの時は楽しかった記憶があるけど、それも最後のほうではあんなに歓迎してもらったのに、という罪悪感に化けるのだから自分の至らなさに辟易する。

 今回はそうならないように、心機一転して頑張ってみよう。

 観光ががらりと変われば、どん詰まりだった自分もなにか変われるかも知れないから。


「――ついた。ここがシルフギルド管轄のシルスタヴィア平原だよ」


 太陽の日差しを浴びて黄緑色に染まる大平原。

 ぽつりぽつりと深緑の絵の具を垂らしたように木々が生え、大地の起伏が波のようにうねる。よくよく目をこらせば放牧場のような施設もいくつか発見できた。

 遮蔽物が少ない分、吹き抜ける風が伸び伸びとしているような気さえする。

 風の精霊の名を冠するシルフギルドがこの保護区を管轄しているのも頷けた。

 この見渡す限りの平原のどこかに、本当にシルフがいても可笑しくない。

 そう思わせる絶景だった。


「えーっと、今日は……あっ、クラウドウールの放牧場が人手不足だって。行ってみよっか。イナくんは初めてだから基本的に見てるだけで大丈夫だよ。もしかしたらちょっとだけ手伝ってもらうかもだけど」

「その時は喜んで手伝わせてもらうよ。見て学ぶのも大事だとは思うけどさ」

「そうだね。じゃあ目的地を入力してっと」


 バイクに取り付けられた魔石板に触れて座標が入力されると、こちらのバイクにも同期された。タイヤが自動的に動き出し、目的地へと俺たちを運ぶ。行き着く先で俺たちを待っていたのは、雲を見に纏った羊だった。


「あれがクラウドウールか」

「そうだよ。クラウドウールの毛ってふわふわでもこもこでひんやりしてるんだぁ。お布団なんて本当に雲の上で寝てる気分になれるんだよ。お高いけどね」

「そう聞くと一度、使ってみたくなるな。雲のベッド」


 目的地に到着し、エンジン音が鳴り止む。

 バイクから降りるとすぐに牧場主である小太りの男が出迎えてくれた。


「キミたちがそうかな? よく来てくれたね」

「はい! シルフギルドのニイハとイナくんです。お仕事の内容はクラウドウールの追い込みでよかったですよね?」

「あぁ、牧羊犬として飼ってるクー・シーが風邪を引いてしまってね」

「大変、大丈夫なんですか? よかったらお世話しますけど」

「いやいや、多忙なギルドの魔法使いさんにそんなことは頼めんよ。気持ちだけありがたーく受け取らせてもらおう。で、だ」


 牧場主が目を向けた先には数多くのクラウドウールが思い思いに寛いでいる。

 燦々と輝く太陽の下、草を食み、昼寝をし、とことこと歩く。

 実に牧歌的な風景で欠伸が出そうになる。


「そろそろクラウドウールたちを柵の中に戻したいんだ。追い込みはそのゴーレムでやってくれればいい。寝てる子も飛び起きるだろう」

「ちょっと可愛そうな気もしちゃいますけど、わかりました。イナくん、早速だけど手伝ってくれるかな?」

「喜んで。要はエンジン音でクラウドウールたちを誘導すればいいってことだよな」

「そういうことです。じゃあ、始めよっか」


 再びバイクに乗り、自動運転から手動運転へと設定を切り替えた。

 ゴーレム乗りの免許は魔法使いの必須条件、もちろん俺も持っている。

 実際に手動運転で走るのは数ヶ月ぶりだけど。

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