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2 魔法使い


 魔物の起源は未だに定かではなく、人が文化を築く以前から存在している。

 人類が今日まで生き残れたのは、上手くこの魔物と共存して来たからに他ならない。

 牛、豚、鳥の肉を一頭から取れるキメラ。

 土を食べて鋼の鱗を生やすリザードマン。

 永遠に燃え続けるウィル・オ・ウィスプ。

 これらの魔物たちは国の財産であり、人の生活に必要不可欠なもの。

 システィアギナ自然保護区はこの国の三割を絞める広大な面積を誇っている。

 そんな魔物たちの保護と管理、そして保護区外からやってくる有害な魔物の駆除。

 それがギルド、引いては魔法使いの勤めだ。


「お世話掛かり……あぁ、指導係ってこと?」


 先頭を歩くニイハの背中に言葉を投げる。


「そうだよ。私はお世話掛かりって響きのほうが好きだからそう呼んでるの」


 なんだか子供扱いされているような気がしないでもないけど。


「具体的にはどんなことを?」

「んーと、そうだね。例えばこのシルフギルドの規則だったたり、施設の利用法だったりを教えたりかな。あと戦闘訓練にも付き合うし、実際の仕事では私とペアになって行動してもらうことになってるよ」

「つきっきりで教えてもらえるってことか。それはありがたいな」


 魔法陣に差し掛かり、それが淡く輝くと共に階段が動く。

 魔法によって人が階段を登るのではなく、階段が人を運んでくれる。

 最近ではギルド以外の施設や店舗でもこの動く階段が採用され始めている。

 これが民家でも当たり前になる日も遠くないのかも知れない。


「けど、ニイハの負担が大きくないか?」

「ううん、そんなことないよ。私、誰かのお世話をするの大好きだし、頼って貰えるのはすっごく嬉しいから。イナくんも遠慮せずに困ったことがあったらなんでも言ってね」

「ありがとう。その時が来たら相談するよ」

「任せて!」


 正直、ニイハの性格には戸惑いを憶えていた。

 これまで出会ったことのない人種で、彼女には善意しかないのではとさえ思う。

 交わした言葉はまだ少ないけど、それでも言葉の節々に慈愛に満ちていることくらいはわかる。

 だからこそ、不安になった。

 自分の底知れないダメさ加減に、いつか愛想を尽かされてはしまわないか。

 そんなことを思いながら動く階段に運ばれ終えた。


「じゃーん! ここが今日からイナくんが暮らすお部屋だよ」


 案内された俺の部屋は、思った以上に広いものだった。

 生活に不可欠な家具を置いてもまだゆとりがあり、風呂とトイレが別。

 日当たりもよく、この部屋にいて不便に思うことはなさそうだ。


「荷物はもう届いてるから、あとで荷ほどきしてね」

「了解。次はどこに?」

「んー……このままギルドの中を案内してもいいけど、それじゃちょっと退屈かな。あ、そうだ。これから二人で出かけよっか」


 良い案が閃いたと、ニイハはにっと笑う。


「出かけるって、もしかして」

「そう! シルスタヴィア平原、シルフギルドの管轄区だよ」


§


 ギルドの一階には魔法使い専用の駐車場が設けられている。


「ウィル・オ・ウィスプ格納よし! スケルトンフィッシュの格納もよし!」


 永遠に燃え続ける魔物、ウィル・オ・ウィスプ。

 水を生成し続ける魔物、スケルトンフィッシュ。

 その二体を格納したことによってゴーレムが起動する。

 装甲の表面を蒼白い光が迸り、排気筒が水蒸気を吐く。

 二輪式走行用ゴーレム、バイク。

 広大な保護区を管理するギルドにとって無くてはならない移動手段だ。


「ツーリングに行こっか、イナくん」

「自動運転だけどな」


 エンジン音が重く響き、二台のバイクが風を切って駐車場を飛び出す。

 景色が目まぐるしく過ぎて行き、すぐに文明の気配は消えてしまう。

 風景は自然と置き換わり、タイヤによって踏み固められた道を駆け抜けていく。


「気持ちいい」


 この速度で風を感じるのは久しぶりだ。

 将来の不安とか、自分の情けなさとか、そういう負の感情もこのまま消し飛べばいいのに。

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