12 岩
外見通り森の足下は薄暗く、けれど所々から木漏れ日が差している。
そのお陰で思ったより視界は確保されていてありがたい。
膝丈ほどある植物を爪先で掻き分けて、目的であるフラワーを探して歩く。
「フラワーの発見例が一番多い場所がこの森なんです。宿主はいずれも魔物という共通点があり、けれども種類は多岐に渡ります。まだ魔物以外の生物に対して寄生できるかどうかはわかりませんがもし人に寄生できるなら一大事です!」
「魔物に寄生されるのはたしかに嫌だな。寄生生物ってたしか宿主の行動を制御できる奴もいるんだろ?」
「はい。宿主の思考を制御して繁殖に適した行動を取らせることもありますね。他には体の奥底に潜り込んで大量の卵を産み付け、帰った子供たちが内側を食い荒らしながらやがて皮膚を突き破って――」
「わかった! もういい」
鳥肌か立ってきた。
「でも、フラワーって小さいよね。寄生された魔物がいたとして、見付けるのは大変そう」
「見極めのポイントはこめかみです! フラワーは大体そこに寄生して脳に触手を張り巡らせているのでわかりやすいですよ!」
「ありがとう、でも詳細な説明のほうは聞きたくなかったかなー」
ニイハは身震いしている。
「むぅ、二人とも耐性が足りていませんよ。これは知識として持っておいて損はない情報ですよ。もしかしたら今回のフラワー捕獲にも役立つかも――あいたっ」
後ろ向きに歩いていたミラは、そのまま苔生した大岩で背中を打つ。
「大丈夫? 頭、打たなかった?」
「はい、平気です。けど、あれ? 痛くない?」
「あいたって言わなかったか?」
「言いました。言いましたけど、それはぶつかった時の反射で。というか、むしろ柔らかかったような?」
「柔らかかった? 苔がクッションになったとか――」
苔生した大岩が動く。
近くに生えた木の幹を杖代わりにして立ち上がる。
その体格は見上げるほど大きく形状は熊に近い。
灰色の毛並みには色の濃淡があって動いていなければ生物だとは気づけないだろう。
「不味いな、やるか」
「待ってください、イナ! ロックサーフェスなら大丈夫です、温厚な魔物なので!」
「そうだよ! 大きな音を立てたりして刺激しない限りは人を見ても襲いから!」
「だったらもうちょっと小声で話してくれ!」
その場から動くことなく、じっとその動向を窺う。
ロックサーフェスの視界に捉えられて思わず息を呑んだ。
このままどこかへ移動するか、そのまままた眠ってくれると助かるんだけど。
そんな淡い希望は、ロックサーフェスの怒号によって打ち砕かれた。
「温厚な魔物って話じゃなかったか?」
「そのはずだけど……怒らせちゃったみたい」
「ミラ、またやらかしちゃいましたぁ!」
ロックサーフェスが両手を振り上げるのと、俺たちが走りだしたのはほぼ同時だった。
背後で派手な音と衝撃が響き、土の飛沫が天を舞う。
「直撃したらパンケーキになっちまう!」
「パンケーキは好きですけどぺちゃんこは嫌です! もっとふっくら焼いてください!」
「よーし。じゃあ帰ったら私が人数分、ううんその倍焼いてあげるね」
「わーい、やったー!」
「余裕あるなぁ! 二人とも!」
草木を掻き分け、木の幹を躱し、一目散に逃げる逃げる。
ロックサーフェスの鋭い爪が幾度も振るわれ、木々は倒れて木片が背中を叩く。
「なぁ! 襲ってきてるんだから斃してもいいだろ!」
「ダメだよ。ロックサーフェスは保護対象だから、本当にどうしてもって時じゃないと傷つけちゃダメ」
「本当にどうしてもって状況じゃないのか? いま!」
「イナ、逃げるんです! 逃げて逃げて森の外にまで出ればこっちのものですよ! ロックサーフィスは森の外までは追ってこないはずです!」
「ああもう! だったら斃せないな!」
怒り狂うロックサーフィスから逃げ続け、どうにか森の外が見えてくる。
「わわっ!」
「ミラちゃん!?」
あともう少し、というところでミラが木の根に躓いた。
「やると思った!」
ミラがドジなのはもう知ってる。
この局面でもぽかをやらかすかもと身構えていた。
そのお陰で体勢を崩したミラを素早く抱えることに成功する。
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして!」
ミラを小脇に抱えたままニイハと一緒に森の外へ。
久々に感じるまともな日光を浴びて、視線は真後ろに。
ロックサーフェスはたしかに勢いを失い、日を嫌うように森の縁で立ち止まっていた。
ほっと一息をついて抱えていたミラを地面に下ろす。
だが。
「おいおいおい」
ロックサーフェスはゆっくりと森の外へと踏み出した。
よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。




