11 森林
流れ星を束ねたような白く長い髪と宝石のような紅い瞳。
ミラの顔つきは幼くて外見から判断するに年下であろうことは間違いなさそうだ。
「寄生生物、か。そう言う魔物がいることは知ってるけど」
「はい。今回の寄生生物はまったくの新種なんです。最終宿主がどんな生物で、寄生中に宿主に与える影響や繁殖方法もまるで未知数です。名前も決まったばかりなんですよ、フラワーって言うんですけど」
花の姿に似ているからフラワーか。
安直だけどシンプルでわかりやすい名前だ。
「その貴重な捕獲第一号が俺たちの不注意で死んでしまったわけで」
「はいぃ……」
これからその寄生生物、フラワーを捕まえに行くため、一階の駐車場に向かっている。
「昨日はあのあと大丈夫だったの、ミラちゃん。怒られたりとか」
「大目玉で……ミラ、怖くて泣いちゃいました」
「そんな、可愛そうに。でも、挽回しようって頑張ってるんだもんね。えらいえらい」
「えへへー」
ミラの頭を撫でるニイハ。
端から見ると姉妹のようで微笑ましく思う。
撫でられているミナも満更でもなさそうだ。
「あ」
駐車場の目の前まで来て、ふと思い出して足が止まる。
「どうかしましたか?」
「いや、そう言えばなんだけど……俺、バイク一台ぶっ壊したんだった」
飛来してきた雷龍に踏み潰されて、格納されていたウィル・オ・ウィスプもスケルトンフィッシュも逃がしてしまった。
「シルフギルドの場合、これってもしかして自腹?」
「安心して、イナくん。大丈夫、ちゃんとギルドのほうで新しいの用意してくれるから。というか、もうイナくんのバイクは納品されてるから今日から乗れちゃうよ」
「マジ? はぁ……移籍して早々借金抱えるところだった」
心からの安堵の息が漏れる。
「ちなみに一台、幾らくらいするんだ?」
「うーんと、聞かないほうがいいかも」
「……仕事、頑張らないと。いや、ホントに、マジで」
「そうだね」
「ミラもイナも、誰も彼も問題を抱えているんですね。世知辛い世の中です」
若干、暗い雰囲気に陥りつつも気を取り直して駐車場へ。
ガレージに自身のギルドカードを読み込ませると、地下からバイクがせり上がり、シャッターが開く。
真新しいバイクに内心、心を躍らせていた少し前とは違って、今は身が引き締まる思いがした。
とにかく壊さないように丁重に扱おう。
「ウィル・オ・ウィスプとスケルトンフィッシュの格納よし」
「こっちも準備万端です!」
「それじゃあ行こっか。今度は三人でツーリングだね」
バイクに跨がり、エンジンを掛け、排気筒から水蒸気が噴き出す。
自動運転機能が正常に起動し、俺たちは揃って駐車場から飛び出した。
シルフギルドに入って二度目の仕事。
初日は最後まで仕事をこなせなかった。
思えば、最後まで仕事を満足にこなせた例しがない。
だから今度こそは最後までやり通そう。
自動運転とわかっていても、ハンドルを握る手に力が入った。
§
「つきました。ここが目的地です」
「森か」
シルスタヴィア平原の南部に位置する森林。
鬱蒼とした木々が立ち並び、思い思いに伸びた枝葉が天井のように広がり、日光を遮っている。お陰で木の根元は暗く落ちていて、晴天の昼間だというのに曇天の下にいるようだった。
「アネモネギルドが管理するアネルクエティア大森林と比べれば小規模もいいところですけど、うっかりしてると遭難してしまうくらいには面積がありますので、くれぐれも注意してくださいね」
「遭難か。視界も悪そうだし、気を付けてないと本当に迷いそうだな」
「遭難してもいいように非常食を沢山用意したから安心してね。三人でも一週間は生きられるよ」
「その雑嚢鞄にどれだけ詰め込んだんだ?」
魔法使いの装備の一つには空間拡張の術式が施された雑嚢鞄がある。
サイズは腰に巻き付けて邪魔にならない程度。
雑嚢鞄の口に入る大きさ限定ではあるものの、底なしかと思うくらいよく物が入る。
おまけに手を突っ込めば欲しいものがすぐに取れる検索機能付きだ。
「ニイハ。ミラは甘いのがいいです」
「じゃあ、そんなミラちゃんにはチョコレートを上げるね」
「わーい、やったー! ふんふん……でふぁ、いきまひょう!」
「あぁ、口の中のチョコがなくなってからな」
「ふふっ、まだまだいっぱいあるからね」
可笑しいな、遠足に来たわけじゃないはずだけど。
「バイクはここに置いていくのか?」
「んぐ、はい。障害物が多すぎてバイクではとても」
「そうか……大丈夫かな? ここに置いて。魔物に壊されたりしない?」
「大丈夫だよ、イナくん。ちょっと突かれたくらいじゃ壊れないし、魔物が近づいたら自動で逃げてくれるから」
「なら、いいんだけど……ちゃんと逃げてくれよ。直近で二台も壊したとあっちゃ立つ瀬が無いからな、ホントに」
居場所がなくなる。
「ほらほら! 行きますよ!」
「わかったよ」
最後にバイクを一撫でしてミラとニイハの背中を追い掛けて森へと足を踏み入れた。
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