10 捕獲第一号
「わぁ! 凄い、凄いよイナくん! 格好良かったよ!」
「はは、ありがと。サボらずに戦闘訓練だけは受けてたから、その甲斐はあったかな」
「サラマンダーギルドの戦闘訓練ってどんな感じなの?」
「スパルタだよ。こっちは魔法が使い物にならないから、正直ついていけないことも多かったけど。俺は人より劣ってるから、その分、頑張らないといけないんだ」
一つ一つこなして行くしかない。
その認識は魔法の本質に気がつけた今も変わってない。
やっとスタートラインに立てたんだ。
舞い上がって驕っているような時間はない。
「頑張ったんだね、イナくん。えらいえらい」
「子供扱いしてない?」
紫電の剣を掻き消し、残光が散る。
「でも、自分の魔法に振り回されてる感じがしたな。ニイハ、もう一回。回数を重ねて慣らしたい」
「うん、わかった。じゃあ次は数を増やしちゃおっかな」
思ったところで止まれない、必要以上に回避距離が伸びる、攻撃に移る際に力み過ぎてしまう。そんな自分の感覚と魔法のズレを修正する作業を一日掛けて行った。
概ね感覚は掴めたと言っていい。明日からの仕事でも結果が残せそうだ。
そう、あの喉から手が出るほどほしかった結果が。
「あらら、もうこんな時間。そろそろ次の人に鍵を渡さないとだね」
「付き合ってくれてありがとう。助かったよ、本当に」
「ううん、私が好きでやってることだもん、気にしないで。イナくんが喜んでくれると私も嬉しいから」
七十二番の扉を開けて魔法空間を出ると、すでに次の使用者が待っていた。
ニイハが彼らに鍵を渡し、俺たちはその足で訓練場を後にする。
「はぁー……流石に疲れた。腹も減ったな」
「それなら食堂に行こっか。私のおすすめは特盛胃袋破壊セットだよ」
「とても客に提供するような名称じゃない気がするけど」
頼んだが最後、どんな量の料理が出てくるのか。
怖い物見たさで試しに頼んでみたいとすこしは思ったけれど、やっぱり無しだ。
一つしかない自分の胃袋を大事にしないと。
「ほかにおすすめは?」
「うーん、そうだね。あ、そこの角を左だよ。じゃあ、イナくんが好きそうなのだと――」
角を曲がった拍子に、軽い衝撃が胸の辺りに響く。
人とぶつかったと認識した頃には遅く、彼女は派手に尻餅をついていた。
「わ、悪い。大丈夫か?」
「いたた。だ、大丈夫です。こちらこそすみません、急いでいたもので――あぁ!」
見開かれた彼女の目が映しているのは割れてしまった瓶だった。
中に入っていたのは魔物か?
花弁のような姿をしていて、根っこのような触手が無数に伸びている。
だが、すでに死んでいるようでぴくりとも動かない。
というか、瓶の破片が刺さってたった今、生命活動を終えたように見える。
これはまさか、やってしまったのか。
「ど、どうしましょう!? 貴重な生きた個体だったのに! あぁ、もう終わりです! ミラはもうお終いです! こんな簡単なこともできないなんてぇ!」
「お、落ち着いて、ミラちゃん。その瓶に入ってた魔物ってそんなに貴重だったの」
「そうです! 捕獲第一号だったんです! これからこの魔物を研究して色々とわかるはずだったのに、ミラがドジなばかりに全部お終いなんです!」
泣き崩れるミラという少女と、それを慰めるニイハ。
俺はいま途轍もない罪悪感に見舞われていた。
「わ、わかった。とりあえず、その魔物をもう一度捕獲すればいいってことだよな」
「ぐすっ、それはそうですけど……でも、生きて捕獲するのがとっても難しいんです。今回だってたまたまで」
「一回捕獲できたなら次もできるってことだ。俺に手伝わせてくれ、一緒にその魔物を捕まえよう」
「もちろん私も協力するよ、人手は多い方がいいもんね」
「ニイハ……それに知らない人」
「イナだ」
「イナ。親切にありがとうございます、ミラはミラです。お言葉に甘えて、ミナを手伝ってください」
「あぁ」
握手代わりにミナの手を取り、立ち上がらせる。
明日の予定がこれで決まった。
死なせてしまったのと同じ魔物を捕まえに行こう。
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