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義理の兄妹になっても僕らは両想いなので、学園でも家でも隠れて付き合うことにしました。  作者: まさな
■第三章 紫陽花の季節

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●第六話 黄昏のほろ苦カレー

 時間になったので僕らは夕食のカレーを準備した。班ごとに分かれて持ち寄った野菜を使い、飯ごうでご飯も炊く。自主性や食べ物のありがたみやサバイバルテクニックを学ぶという趣旨なのだろうが、アウトドア派でキャンプ好きならともかく、僕には二度と縁が無さそうだ。いや、大学でもまた林間学校とかやるのかな? やれやれだ。


「葵、頼むぞ。お前だけが頼りなんだからな。アタシはもう腹が減って死にそうだぜ」


 真夜は葵の料理の腕を頼りにしているようだ。僕もだけど。


「え、ええ?」


 プレッシャーをかけすぎだ。


「真夜、お前もちゃんと手伝えよ。野菜くらいは切れるだろ」

「いや、アタシが不器用だって悠真も知ってるだろ?」

「そうだなぁ。じゃ、真夜、野菜や飯ごうの準備は僕らがやるから、君は枝を集めてきてくれ」


 僕は適材適所を考えて、真夜の作業を割り振った。


「おしっ、そういうことなら、任せとけ」

「あ、私も枝係に行くー」


 伊吹も料理は苦手なのか、真夜に付いていった。


「鈴崎さん、何か要る物があれば遠慮なく僕らに言ってくれ。鈴崎さんは歩かなくていいから」


 同じ班の来馬が気を遣って話しかけた。


「ありがとうございます。でも、大丈夫、少しくらい動いても平気だし、だいぶ楽になってきたから」

「それは良かった」

「よし、ジャガイモの皮がむけたぞ。誰が切るんだ?」

「僕がやるよ」

「じゃ、冬月、頼んだ。でもちゃんとできるのか?」

「こう見えてもちょっと前まで父子家庭で家事もやってたからね。カレーなら余裕さ」


 僕は自信を持って言う。

 来馬がそれなりに丁寧に皮をむいてくれたジャガイモの残った芽を綺麗に取り払い、小さめのサイズで切る。


「おい、冬月、そのサイズは小さすぎじゃないか?」

「いや、どうせ今日の一晩だけのカレーだし、早く煮えて早く食べられたほうがいいだろ?」

「そうだな。よし、なら色々わかっていそうだからお前に任せるぞ」

「うん、じゃ、来馬は米とぎを頼むよ」

「やったことがないんだよな。すすぎは何回くらいやればいい?」

「三回くらいかな?」


 葵に確認する。


「ええ、そのくらいで良いと思います。力は入れなくていいので、表面の埃や白いとぎ汁をすすいで捨てるくらいのつもりで。あ、一回目の水はすぐに捨ててください」

「結構注文が多いな。ま、いいや。むむ、米粒がちょっとこぼれたな。ま、気にしない気にしない、はは」


 笑顔でウインクしてごまかす来馬はやたら爽やかなヤツだ。バスケ部のエースで次期キャプテンを指名されているという。


「フン、お米は漢字で八十八と書いて、それだけの手間がかかっている。農家の人が丹精を込めて作った真心の結晶だぞ。それを捨てて君は平気なのか、来馬」


「うるさいなあ。じゃ、明智、お前が拾っておいてくれ」

「むむ。僕は家事はやらないし、箸より重い物を持ったことがなくて……」

「米粒は箸より軽いだろ! 手伝わないヤツは食わせないぞ」

「仕方ない……わかったよ」

「よし、こんなもんだろう。鈴崎さん、水の分量を確認してくれるか」

「うーん、私も飯ごうは自信がないけど……冬月くん、この線が水だっけ?」

「どうだったかな。ちょっとネットで調べてみる」


 電波が届くのは確認済みだ。昼間に明智がスマホを使っていたから大丈夫だろう。


「うん、合ってるよ。カレーなら気持ち水を少なめがいいみたいだね」

「よし、バッチリだ」

「枝を集めてきたぞ」


 真夜がかまどに枝を入れ、借りてきた点火用ライターで火を付けた。


「じゃ、焦げ付きが怖いですから、今日は炒めずにそのまま煮てしまいましょう。火力の調整が難しいと思うし」

「そうだな」


 僕らは葵を中心に安全策を採り、カレー鍋を煮込んだ。葵がローリエの葉を入れ、ちょっと本格的だ。

 カレーの隠し味は皆で話し合って決め、ハチミツ、ビターチョコレート、オイスターソースを入れた。


「さあ、できたぞ」

「待ってました!」

「ちゃんとした味になってればいいけど……」

「うん……」


 葵が心配したが、僕も心配だ。ハチミツとチョコがどういう感じになるか、そんなに試したことはないんだよな。しかも今回はローリエの葉やオイスターソースなど僕が使っていない味も入っている。


「大丈夫、カレーなんて少々失敗しても食えるって」


 おっとしまった、なんだか来馬に葵が慰められてしまった感じだ。


「早く食おうぜ」

「ええ、じゃ、分けるわね」


 全員に皿が行き渡ったところで、手を合わせる。


「「「いただきます!」」」

「んめぇ!」

「うん、うまいな」

「おいしい」

「バ、バカな、マムの作ってくれたカレーよりおいしいなんて! これは何かの間違いだ!」


 ご飯も上手く炊けて上々の仕上がりだ。お代わりをしたかったが、あっという間になくなってしまった。


「なんだよ、もう空か。もっと材料を用意しておけば良かったなぁ」


 真夜が残念そうにする。


「そうだな。でも、余るよりいいよ」

「そうですね。片付けが大変ですし」


 葵の言う通りだ。


「いや、あと三皿は食えたぞ!」


 真夜のヤツ、どんだけ食うんだよ。


「まぁ、今度、同じレシピで家でまた作ってやるから、食べに来ればいいだろ」

「おお、それがいいな! 悠真はやっぱり最高だな!」


 真夜が無自覚にそんなことを言うものだから、周りにいた生徒達が冷やかしたりクスクスと笑った。


「ヒューヒュー、熱いねえ、お二人さん」

「ええ? そんなつもりで言ったんじゃ無いぞ」

「大葉、このあと、時間いいか?」


 来馬が真夜に小声で聞いた。


「んん? 別に良いけど、何の用だ?」

「ああ、ちょっと二人で話がしたい。あっちで話そう」

「ここじゃダメな話か?」

「そうだ。他のヤツには聞かれたくない」

「ふうん。ま、いいけど。じゃ、あとでな、悠真」

「ああ。だが、消灯時間になったら、もう今日は話せないぞ」

「スマホで話せばいいし、先生に隠れて遊びに行ってやる」

「ええ? それはやめとけって」


 見つかったら、またクラスで騒がれそうだし、桃山先生はさらに茶化してくれそうだ。


「あはは、ビビんなよ。大丈夫大丈夫」

「お前な」


 追いかけようかとも思ったが、来馬と二人だけの話があるようだし、聞かれたくないと言っていたのについていくと、なんだコイツと思われそうだからな。


「さて、終わった」


 皿を返し、歯磨きを終わらせたあとで、トイレに向かう。

外はもう夕日がほとんど沈みかけていて、空は暗くなりつつあった。


「おい、待てよ、大葉」

「待たない。そういう話ならもう聞きたくないぞ」


 来馬と真夜がやってきた。あれ? さっき反対方向へ行ったと思ったのに。まあ、話はもう終わったようだが。


「一つだけ聞きたい。お前に好きな人がいるって、誰のことなんだ?」

「それ、来馬に教える必要あるのか?」

「いいだろ。こっちは気になって寝られそうにないぞ。バスケ部のヤツか?」

「違う。もういいだろ。同じバスケ部でやっていくなら、この話は終わりだぞ」

「なんだよ、それ……お前がバスケ部をやめるって話か?」

「しつこくするなら、そうなるかもって話だ」


 やれやれ、聞かなくていい話を聞いてしまった。だいたい、人の通りがあるようなところまで追いかけてきた来馬が悪いだろう。そういえば、明智が真夜に告白しようとしてるヤツがいるって言ってたっけ。どうやらそれがアイツだったらしい。

 真夜もこういう話はあまりしたがらないだろうし、僕はトイレでじっと息を殺し、二人が去るのを待った。

 その日、結局真夜は部屋にやってこず、電話もしてこなかった。僕は妙に心がざわついたが、その原因が何なのかはよくわからなかった。

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