●第二話 小さな疑問
昼休憩になると、真夜が真っ先に僕の席にやってきた。
「悠真、林間学校、楽しみだな!」
「そうかあ? 歩きまくるのは僕は苦手だ」
僕は肩をすくめる。
「ええ? まあお前は外へ出たがらないしなぁ」
「それと真夜、あまり学校では話しかけないでくれ。ただでさえ僕は友達が少ないのに、クラスで浮きまくりだ」
もう2年生になって一ヶ月が過ぎてしまったというのに、新しいクラスで友達になれた男子が一人もいない。去年から一緒の明智がいなかったら、随分とさびしいことになっていたことだろう。
それもこれも、原因の一つは真夜のせいだな。見た目が可愛い女子がいちいち下の名前で親しげに呼んで休みも一緒にあそんでるとなれば、そりゃあ僕だって「あの男子は何様だよ、気に入らねえ」という反感を覚えるに違いないのだ。まあ、それとは別に、僕のコミュ力が低いことは認める。でも去年は明智という友達が一人できたし? まだ慌てる時期じゃないはずだ。
「なんだよそれ、ウワサでいちいち気にしすぎだろ」
「お前のほうこそ少しは気にしてくれ」
もう僕らは男女で気兼ねなく遊べるような小学生低学年ではないのだ。真夜もしっかり胸が成長しているというのに、自分をまだ男だと思ってる節がある。いや、僕が女の子だと思われてるのかな?
それはいかん。
葵にモテるためには、やはり男を磨かなくては。
「じゃ、話がそれだけなら、僕はもう行くぞ」
「ふん、勝手にしろよな」
「ああ、勝手にする」
僕は手ぶらで教室を出て、真夜が後ろにいないことを確認してから、文芸部の部室へと向かった。
「悠真くん、大丈夫だった? その、ハブられる、とか……」
先に部室に来ていた葵が心配してくれた。
「ああ。ま、男子の連中もちょっと気に入らないってだけで、特に何かしてくるってわけじゃないから。大していつもと変わらないよ。はは……」
あれれ? ハブられたのに以前と特に何も変わってないって、これって結構痛々しいな?
「私で良ければ、いつでも話し相手になりますから」
葵が僕の手を両手で優しく包んでくれた。
「ありがとう。ま、明智や真夜もいるし、本当に大丈夫だよ」
「うん。それに、悠真くんや私は、一人の時間も読書で楽しめたりするし、無理に友達と仲良くしないとって感じでもないと思う」
「ああ、そうだね」
僕らは、元々、あまり大勢でワイワイやったり、ノリで楽しむタイプではないのだ。そう考えると、随分と気が楽になった。真夜に冷たく当たってしまったけれど、あとで謝っておこうかな。
「じゃ、今日はおにぎりとハンバーグ弁当にしてみました」
「おお。おいしそう」
葵が開けてくれたお弁当を見て、嬉しさが胸の奥からこみ上げてくる。
「葵さん、いつもいつも僕だけ作ってもらうのも悪いから、明日は僕が弁当を作ってくるよ」
「それはダメ」
「ええ?」
「だって、私、恋人らしいことって、これくらいしかできてないし……」
葵は少ししゅんとして目を伏せる。
「ええ? いやいや、そんなことは全然ないよ。それに、それを言うなら、僕のほうこそ、何もしてあげられてないんだけど」
「ううん、悠真くんは私に告白してくれたり、遊びで告白してこようとする人から守ってくれたじゃないですか。そのお礼がまだ返せていないから」
葵は律儀にそう考えたようだが、それって恋人としての行動なのかな?
僕にはそれが疑問に思えてしまった。
「別にそれは気にしなくていいと思うけど」
「いえ、気になります」
「そう? まあ、とにかくそういうことじゃなくて、僕が葵さんに何かしてあげたいってことだから」
「はい、ありがとうございます。その気持ちだけで、私、ちょっと嬉しくなっちゃいます。その……私も悠真くんに何かしてあげたいって気持ちになりますね」
葵がこちらから目をそらしながら照れくさそうに言うが……くう! 可愛い。両手で彼女を抱きしめたくなる衝動を覚えてしまった。さすがにそんなことをしたら葵もびっくりしてしまうだろうし、ここは学校だもの。いや、別に家ならいちゃついて構わないってわけでもないけれど。
葵って僕に抱きしめられたいって思っているのかな?
いや……よくわからないけど、それは無い気がする。男子が苦手って前に言ってたし。
「お茶、入れるね」
「ああ、うん、ありがとう」
どちらにしたって今はこの関係が一番いい。お互いが心地良く思えるこの時間を、下手に壊したくはなかった。




