表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

6.芍薬の花

(やはり知られている)

 

紫龍は柳眉を顰めた。


「誤解をなさらないでね。

 別にあなたを責めているわけでも、急かしているわけでもないの。

 だけどあなたがいつかクラウドに心を開いてくれることを、私は母として心から願っているのです」


 そういって王妃は穏やかな笑みを浮かべた。


「クラウドは確かにバカだけど、でもいい男よ」


そして王妃はいたずらっぽく片目を閉じた。


そんな王妃の言葉に紫龍は、知らず赤面してしまう。


「まあ、そのことはおいおい……。

 ですが今日、王妃様に謁見を申し出ましたのは別件で、実はお願いがあるのです」

 

紫龍の言葉に王妃の顔が綻んだ。


「まあ、わたくしを頼ってくださるなど、なんと嬉しいこと。

 なんなりと仰って」

「俺を近衛隊に入隊させてほしいのです」

「近衛隊に?」

 

王妃は目を瞬かせた。


「俺の特技といえば剣術くらいなのですが、

 政略結婚という名目のもと、他国に入ってただなんとなく養われて、

 このまま離宮で一生涯を終えるのは、ひどく悲しいと思ったのです。

 それよりも特技を生かして自分らしく生きて、

 せめて自分の食いぶちくらいは自分で稼ぎたいと思うのです」


紫龍は真っ直ぐに王妃を見つめた。

そんな紫龍に、王妃は少し思案する風だったが、微笑んで小さく頷いた。


「わかりました。あなたの好きになさい」


 

◇  ◇   ◇


「俺は、女の子が大~い好きなんらよ、

 アリスちゃんも、レアちゃんも、もう、だーい好き」


部屋には空になった酒ビンがあちこちに転がり、空気がひどく澱んでいる。


部屋の真ん中に据えられたアンゴラ織のソファーの上で、

クラウドはだらしなく酔いつぶれていた。

 

日はもうずいぶんと高くなって、

執事アルバートンの指示により夜の花たちも、とっくに帰されたというのに。


「クラウド様……」


アルバートンが深い同情を込めた瞳で、クラウドを見つめた。


「なのにさ、なんか俺、最近変なわけよ。

 毎晩毎晩、寝ようと思ったら嫁の面影が浮かぶわけ、

 で……気が付いたら、なんか俺の右手がさ……。

 これじゃあイカンと思って女の子とヤろうとしたんだけどさ……うっうう……勃たないの」

 

クラウドは掌で顔を覆ってさめざめと咽び泣いた。


アルバートンのしわがれた眦にも涙が光っていた。


「冥界の門を潜りなされ、クラウド様」

 

そういって二人は男泣きに泣いたのだった。


しかしクラウドはさんざん泣くと、なんだか頭がすっきりとしてきた。


この一週間というもの、クラウドは自身の心の迷いを打ち払うためと、

散々努力はしてきたが、結局その心にある紫龍への思慕は消えず、

会わないということにかえってその切なさを募らせた。


ならば。


(認めよう。俺は紫龍に惚れている)

 

諦めにも似た心境の中で、クラウドはがっくりと肩を落とした。

 

そしてその事実を受け止めると同時に、自身の中にもっさりと首を擡げる、『

会いたい、抱きたい、そしてヤりたい』という、強烈な恋の三大欲求と改めて対峙することになった。


(この欲求が果たされないとき、俺は多分死ぬだろう)

 

クラウドにそう思わしめるほどに、その欲求は強烈だった。

しかし新婚初夜に、すでに紫龍からは全力で拒否されている。


(一体どうすれば……)

 

クラウドは思案しながら、酒気を抜くために風呂に入った。

バスタブに身を沈めて瞼を閉じると、

部屋を片付けに来た侍女たちの声が聞こえてきた。


「ねえ、お聞きになった? 紫龍様のこと」

「ええ、花嫁の離宮にお入りになったという、大層お綺麗な方なのでしょう?」

「そうなのっ、そのお美しさに城中の女がみんな色めき立っているわ」

 

バスタブの中で、クラウドのこめかみにピクリと青筋が立った。


「でもお気の毒よね、いくら政略結婚とはいえ、

 男に嫁がされた上に、夫のクラウド様は婚儀の翌日からハーレム通いでしょ? 

 一人寝の無聊をお慰めしたいって、離宮付きの女官たちがもう、うるさいったら」


(離宮付きの女官全員、越境の別邸に配置転換決定な!)


バスタブの中でクラウドは、女官の左遷についての決意を固めた。


「でね、その紫龍様がクラウド様から贈られた芍薬の花をこう、

 ぎゅっと胸に抱きしめられたとか……それが大層お美しいご様子だったのですって」


「芍薬を集めよ」

 

侍女たちの話がまだ終わらないうちに、

クラウドがバスローブを身に纏い、ゆらりと侍女の後ろに佇んでいた。


「ひっ……クラウド様」

 

侍女の悲鳴が喉の奥で凍り付く。


「国中の芍薬をすべて買い占めて、紫龍の部屋を芍薬で満たせ」

「へ? そうは言われましても……」

 

いきなりのクラウドの無茶な申し出に、侍女は口ごもる。


「聞こえなかったか? 今すぐに芍薬買ってこいって言ってんだよ!」

「は……い、かしこまりましてございます」

 鬼気迫るクラウドの形相に、侍女はぺたんとその場に腰を抜かした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ