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21.マリアの事情

刹那、窓に小石が投げられ、こつっという音がした。

窓の外には鉄仮面の騎士が立っている。


「よう、紫龍」


騎士が仮面を脱ぐと、褐色の髪が無造作に風に靡いた。


「ケビン隊長」


紫龍は窓に身を乗り出した。

部屋から梯子を渡すと、ケビンは不器用にそれを登ってきた。


「あの……失礼ですが、一体何のコスプレですか?」


エアリスがおずおずとケビンに尋ねた。


「コスプレっつうか、張り込み捜査な」


一応ケビンが訂正を試みた。


「今回の王太子廃嫡の件や、クラウドの記憶操作ともに、

 どうも大臣のハマンが関わっているらしい」


「ハマンと申しますと、あのメタボの小男でございますか?」

 

エアリスが考え込むように腕を組んだ。

「そうだ」


「ですがあの男では、よもや王妃様に

 立てつくような度量も器量も持ち合わせていないとお見受けするのですが」


エアリスは、どこか腑に落ちない様子で、ケビンを見つめた。


「まあな、しかし今回はハマンの後ろに魔女がついた」


ケビンの言葉に、エアリスが眉を寄せた。

「魔女?」


「そう、東の国の魔女、マリア・クラディスがな」


「マリア・クラディスさんといえば、

 この大陸屈指の魔力を持つ実力者だとお聞きしております。

 ワルキューレの三大魔女とも恐れられていますよね。

 ですがそれほどの実力者がどうして、ハマンなどにいいように使われているのでしょうか?」


「まあ、それなりの事情ってもんが、彼女にもあるんだろうさ」


ケビンは背を向けて再び仮面を被り直した。


◇◇◇


(かなりの魔力を消費してしまった)


マリア・クラディスは、廊下の壁にもたれかかり、

自身の身体を苛む、激しい脱力感と眩暈になんとか耐えた。


魔法でクラウドの記憶を操作し、感情を塗り換えることには

なんとか成功したのだが、クラウドの紫龍への想いは深く、

マリアの魔力をひどく消耗させ続けている。


このままこの秘術を使い続けることは、

マリアの生を蝕むことにもなりかねない。


マリアはきっと唇を噛みしめ、ドレスの胸元から、

銀製のオーバル型のロケットを取り出した。


「マルセル……」

 

マリアはその写真を、自身の記憶に焼きつけるように見つめた。


写真に写っているのは、

薔薇色の頬をした赤毛の愛らしい幼子だった。


マリアの胸に、愛おしさが込み上げる。


「待っててね、マルセル……。

 母さんが必ずあなたを助け出すからね」


マリアの脳裏に、ベッドで苦しむ我が子の姿が過った。


我が子への愛しさと、そのために犠牲にせざるおえなかった人々への罪悪感が、

マリアの魂の中で激しく葛藤する。


本来魔力は古の神々が持つ力であり、

清い思いを持って用いる分には影響がないのだが、

その力を悪しきことのために用いると、魂に相当の負荷がかかる。


意識が混濁する。


愛しい我が子が苦しむ光景と、

そして紫龍の記憶を失ったクラウドの苦しげな表情が交互にフラッシュバックする。


(痛いっ……苦しい……)


マリアの呼吸は乱れ、顔色を失った。


マリアの常ならざる様子に、

柱の陰から密かに様子を伺っていた仮面の騎士が走り寄る。


「おい……しっかりしろ」


その場に崩れ落ちるマリアを支えると、

マリアの手から古びたロケットが滑り落ちた。


(これは……)


仮面の騎士は言葉を失った。


そのロケットを仮面の騎士は、

過ぎ去った時の痛みに耐えるかのように、そっと指先で触れた。


『愛しいマリアへ』


そう銘打っていた。


ロケットを開くと右側には5年前の自身の写真が、

そしてその横には、自身の幼いころとまるで生き写しの少年の姿があった。


「こんの……ばか女……」

 

マリアを助け起こす仮面の騎士の手が、小さく震えていた。

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