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19.陰謀

「万事首尾はうまくいったようだな」


 大臣ハマンは、笑いを噛み殺して、執務室の椅子の上でふんぞり返った。

小柄な身体は大層立派なメタボで、額は常に脂でテカっている。


「はい、それはもう……っていうか今月の報酬分、

 ちゃっちゃとここに振り込んでくださいね」


そういって女はにっこりとほほ笑んで、机の上に請求書を叩きつけた。

ブロンドの髪が豊かに背に流れ、アクアブルーの透き通った瞳が印象的な、

いわゆる絶世の美女である。


「わかっておる、そう急かすな。それよりも今夜わしと一発どう?」


女は優雅に微笑んだままで、

ハマンの顔面にパンチを繰り出した。


「へぶぅっ!」


ハマンの鼻から赤い液体が、ぽたぽたと流れ落ちている。


「冗談じゃ、冗談……。ったくシャレの通じないやつはこれだから……」


ハマンは不満げにぶつぶつと呟いた。


「しかしまあ、お前のお蔭で皇太子とその弟王子を廃嫡に追い込むことができた。

 あとは腑抜けと名高いクラウド王子だ。

 お前の力をもってすれば、なんのことはないだろう」


ハマンは腹を突き出して、高笑いをした。

しかしハマンの言葉に女は軽く肩をすくめた。


「さあ、それはいかがなものでしょう?」


そんな女の様子を、脇に控える鉄仮面を被った騎士がちらりと盗み見た。


◇  ◇   ◇


王妃の指示のもと、広間には着飾った貴族の子女たちが、一堂に集められていた。


招待客たちは管弦の調べに合わせて軽やかにワルツを踏み、

振る舞われた上等のシャンパンで喉を潤しては、にぎやかに談笑している。


そんな人の輪を避けるようにして、クラウドはバルコニーへと出た。


部屋を満たす、混じり合った香水の匂いも、

どこか浮ついた賑やかさも、何もかもがクラウドを苛立たせた。


(どいつもこいつも、脂粉を塗りたくった豚にしか見えねぇ……)


身勝手な政略結婚によって男と結婚させられ、

なおかつその嫁に心底惚れてしまった自分もなんだが、

さらに政治上の問題によって世継ぎを儲けるためだけに、

側室を作らなければならないというこの状況!


クラウドはこめかみに青筋が走るのを感じた。


(俺は種馬かっ!)


しかし紫龍が王妃の手の中にある以上、クラウドは王妃に従わざる負えない。

王妃(ババア)王妃が紫龍に何かをした際には、

 刺し違えてでも俺は王妃を殺す)

 

密かにそう決意するクラウドであった。


(やってやるよ、紫龍を守るためならどんな屈辱にだって耐えて見せる)


クラウドはバルコニーを照らす少し霞みのかかった月を見上げた。


◇◇◇


時を同じくして、紫龍もまた月を見上げる。


東宮殿の正妃の間から、バルコニーへと出ると、

夜風が頬を撫でた。


『俺の心はお前のものだ』


そう言ったクラウドの言葉に嘘はないだろう。


しかしクラウドは、今ここにいない。


クラウドは自分を助けるために、

王妃との取引に応じ、今はその側室を選ぶための

宴に出ている。


紫龍は、自身の身に帯びる龍の血に、想いを馳せる。


クラウドがもし、自分以外の誰かと結ばれれば、

自分は海の泡となってきえてしまわなくてはならない運命にある。


紫龍は徐に懐から銀のナイフを取り出した。


月光に照らされてた刃が、危うい光を宿す。


助かる方法はただ一つ。

クラウドの心臓をそれで突いて、その命を奪うことだ。


紫龍は小さく首を横に振って、

膝を抱えて蹲った。


その頬には涙がとめどなく伝う。


◇◇◇


「クラウド様」


刹那、ひとりの美女がクラウドに声をかけてきた。

ブロンドの髪が豊かに背に流れ、アクアブルーの透き通った瞳が魅惑的にクラウドを挑発する。


「初めましてクラウド様、わたくしはハマン大臣の姪にあたります、マリア・クラディスと申します」


女が微笑すると、木々が怪しくざわめいた。

刹那、空間が歪みを生じ、クラウドの意識が朦朧とする。


「貴様っ! 一体何をした?」


クラウドは憎々しげに、女を睨み付けた。


「このバルコニーに魔法陣を敷いていたの、

 お気づきになりませんでしたか?」


言われて気づく。

その足元に結界で巧妙に隠された魔法陣が、淡く光を放っていることに。


女の手の中にある小さな水晶が紫龍を映し出した。


「紫龍・アストレアですわね、竜の一族の血を引く半月。

 あなたの心が強く惹かれていますね」


女が水晶に映し出された紫龍を冷たく一瞥した。


「紫龍に指一本でも触れてみろ、てめえ殺すぞ!」

 クラウドは全身に殺気を漲らせて言った。


「まあ、恐い。でもご安心なさって。彼には何もいたしませんわ。

 アストレアとの関係をこじらせるわけには参りませんものね。

 ただあなたの記憶から紫龍・アストレアを永遠に消し去るだけですわ」


女は漣のように笑った。


媚薬の香りが鼻を掠め、クラウドの意識は途切れた。

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