17.紫龍幽閉
「クラウド様、紫龍様に申し上げます!」
何事かの有事が勃発したのであろう。
クラウドのSPが血相を変えて、二人の部屋のドアを叩く。
「うわっ!」
咄嗟のことに、紫龍が狼狽える。
何せ自分は今自分は、生まれて初めての事に及んで、
素っ裸なのである。
焦って服を着ようと身を起こした紫龍の腕を、クラウドが掴んだ。
「なっ!」
クラウドはそのまま紫龍をシーツの中に引きずり入れる。
返事のない二人に業を煮やしたSPが、スペアキーによって開錠した。
「クラウド様っ! 紫龍様! 大丈夫でございますか?」
いきなり部屋のドアが開け放たれ、
クラウドのSPが部屋に立ち入り、凍り付く。
ベッドの中で裸体(クラウドはパンツを穿いている)の男が、抱き合っている。
SPはだらだらと額に汗をかく。
紫龍もその場で身体を固くするが、
「湯あたりのため妻が体調を悪くしてな、付き添っていた」
クラウドが上半身を起こし、
気だるげにSPを一瞥した。
豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしているSPを更に挑発するかのように、
クラウドは胸に紫龍を引き寄せる。
(くくくく……クラウド???)
紫龍が目を瞬かせる。
「俺が妻と睦みあうのが、そんなに意外か?
何も後ろめたいことはしていない。
俺たちは国中に祝福され、認められたれっきとした夫婦だぞ?」
クラウドが低い声色でSPにそう問うと、
「これは……失礼をいたしました」
SPが慌てて部屋を後にした。
「クラウド……?」
紫龍が心配そうにクラウドを窺う。
「何?」
クラウドが眉根を寄せる。
「おっ……俺は男だぞ!
男の俺と結婚するくらいなら、お前……死んだ方がマシだって……」
紫龍が口ごもると、クラウドは小さくため息を吐いた。
「さっきちゃんと責任は取るっつっただろ?
お前は俺の最愛の妻だ。それでいい」
クラウドは紫龍に背を向けて、
身支度を整えた。
◇◇◇
「兄上たちがギャンブルで大負けして国家規模の損失を出した?」
王妃の謁見の間に通されたクラウドと紫龍は、互いに顔を見合わせた。
「ああもうっ、あの馬鹿王子たちったら」
王妃は怒りに、青ざめている。
「まあ、その損失分くらいはわたくしの老後の貯蓄資金を多少回せば、なんとかなるのですけれど……」
王妃は溜息をついて、クラウドに向き直った。
「クラウド、お前に子の産めぬ男の妃を迎えたのは、
異腹の兄たちを刺激せぬため、そしてそれはお前を護るためでもありました。
しかし事態がこうなってしまった以上、お前の兄たちの皇位を剥奪せざる負えません。
ゆえに……わかりますね、クラウド」
王妃がきつくクラウドを見据えた。
「あなたがこの国の皇太子となるのです」
(え? 面倒臭っ!)
クラウドは露骨に顔を顰めた。
王妃はそんなクラウドを怒りの籠った瞳で睨み付けた。
「クラウド、お前が皇位継承者として決定した以上、
早急に側室を迎える準備をいたします」
王妃は有無を言わさぬ強い口調でそう言った。
そんな王妃の様子にクラウドの顔色が変わる。
「待ってください。俺は紫龍を愛しています。
側室など持つ気はありません」
クラウドに焦りの色が滲む。
「何をいっているの? クラウド、今は早急に世継ぎが必要なのです。
子の産めぬ正室に、一体どれほどの価値があるというの?
お前があくまで側室を娶ることに難を示すのであれば……いいでしょう。紫龍を幽閉しなさい」
冷徹に言い放った王妃の言葉に、クラウドは激昂する。
「ばっばあ……殺すぞ!」
王妃に掴み掛ろうとするクラウドを、屈強なSPたちが取り囲み、その腕をねじり上げた。
「死なない程度だったら、腕の一本くらい折れても構わないわ。
そのほうがこの子も目が覚めるでしょうよ」
そして王妃は冷たくクラウドに笑いかけた。
「ようく覚えておくことね、
あなたの愛妻がわたくしの手の中にあることを」
王妃の屈強なSPたちに身体を押さえつけられて、
クラウドは紫龍が部屋から連れていかれるのを、ただ見ているしかなかった。
◇◇◇
紫龍は王妃の暮らす承香殿の一角に、幽閉されることになった。
「これも国を守るためなのです。
あなたも悪く思わないでね、紫龍・アストレア」
王妃の冷たい眼差しが、自分を一瞥すると、
紫龍は唇を引き結び、下を向いた。
気が付けば、その頬に涙が伝っていた。
涙が止まらない。
「王妃様……俺を離縁してくださいっ!」
血反吐を吐くように、紫龍が叫んだ。
紫龍の言葉に、王妃は一瞬ハッといたように紫龍に目を留める。
「俺は確かにあなたが言う通り、世継ぎの産めない
なんの価値もない、ただの半月だ。
だからアイツの……クラウドの足手まといになるくらいなら、
どうか俺を……離縁してください」
紫龍がその場に跪いて、王妃に懇願する。
「さっきは私も言い過ぎたわ。ごめんなさい。
だけどあなたを離縁することもできないの。
あなたはアストレアの王族だから」
王妃の言葉に、紫龍はその場に泣き崩れた。
そんな紫龍に、王妃が膝を屈めた。
「あなたは……どうして、泣くの?
そして誰を想って泣いているの?」
王妃の言葉に、紫龍は口を噤んだ。
王妃は立ち上がり、紫龍に背を向けた。
そして部屋を立ち去り、
独り言を呟く。
「ありがとう。あなたはクラウドを愛してくれたのね」
それはひどく優しい声色だった。
「そして、クラウドもあなたを深く愛してる」
王妃は目を閉じて深く息を吸った。




