とある名探偵の手記
私は自他ともに認める名探偵だ。
先日奇妙な事件に遭遇したので、それを文書に記す。
この文書は真実の記録であり、記載されている内容に嘘偽りはない。
なお、予め断っておくが被疑者の死因は他殺である。
◇ ◇ ◇
事件のあらましはこうだ。
とある富豪が書斎で首を吊っていた。
死亡推定時刻は午前0時。
死因は首を吊ったことによる窒息死だが、身体に無数の切り傷が見られた。
検死によるとそれは死後につけられたものと言う。
当初、書斎に鍵がかかっていたため自殺かと思われたが、前述の通り身体の傷から他殺も疑われることとなった。
首を吊った後にわざわざ身体を傷つけるとは、いかにも奇妙な話だ。
よほど強い恨みがあったか、あるいは狂気的な人物の犯行と思われた。
そこで容疑者にあがったのが次の三人だ。
芸術家。被害者が10年以上前からパトロンとなっていたが、鳴かず飛ばずだった。近頃は被害者といい噂を聞かないとのことだ。
芸術家であれば、うっかり狂気に囚われておかしくないと言うのが警察の見解だ。事実彼の作品は狂気的で世間に受け入れられていなかった。
投資家。被害者の古い知人だが、最近業績が振るわず被害者に融資の話を持ちかけていた。
融資を断られてカッとなり、よくある話だ。
家政婦。被害者が唯一雇っていた女性で、住み込みで衣食住の世話をしている。
第一発見者は彼女だ。
朝、被害者が姿を現さないのを不審に思い、書斎に入ったと言う。
普段は被害者と彼女しか家におらず、捜査段階で最も怪しいと疑われていた人物である。
こうして書くと、誰も同程度に怪しく見えるものだ。
私は彼らに質問をした。
「事件の時間に何をしていましたか?」
「アトリエで絵を描いておりました」
と、芸術家は答えた。
彼のアトリエは、被疑者の家の隣にある。
「家で寝てたよ。夜中の0時だぞ。アリバイ? 私は独身だ」
と、投資家が答えた。
最後に、家政婦が私に言った。
「あの、実は私見たんです。旦那様の部屋に芸術家様が刃物を持ってお入りになるのを。ちょうど午後11時を回ったころでしょうか。犯人は彼です」
「なるほど」
私は頷いた。
その言葉を聞いて、私は事件の真相がわかった。
◇ ◇ ◇
さて、残念ながらこの文書の余白は、事件の真相を書くには少なすぎるようだ。
だが、この文書を呼んでいる懸命な諸君であれば、もうおわかりだろう。
繰り返しになるが、この文書は真実の記録であり、記載されている内容に嘘偽りはない。
そう、犯人は──