参話 阿智のいる駒場山へ
勢いよく飛び出した軽トラは異様な雰囲気を纏いながら走っていた。後ろから遠慮なく叫び声をあげて追いかけてくる化け物はニヤリと笑っているようにも思えた。峯藤はレーサーさながらの腕で化け物たちを撒いていった。辰信は峯藤の運転に驚きながら聞いた。
「あの化け物は?何なんですか!?」
「あれは…私も始めてあのような類のものを見るが…確か以津真天という化け物だ。私も知識としては知っているが、想像上の生き物がいるなんて…信じられん。しかしあんなに小さかったか…?もう少し大きかったはずだが…。」
峯藤は車を一旦路肩に止めて、ポケットから携帯電話を出した。何度か電話を掛けるも返事は無いようだった。
「申し訳ないが…このままこの町を抜けようと思う。」
峯藤の顔は険しかった。辰信もこれに頷くしかなかった。
「信篤…無事でいてくれ…。」
二人はまずどこに向かうべきか話しあった。
「峯藤さんの家族の元へ行くのがいいのでは?」
「確かに向かうべきだが、遠いな…。」
「でも、一大事ですよ?」
「分かっている…。そうだ、あの人の所へ行こう。」
「あの人って?」
「私が小さい頃にお世話になった人だ。名を阿智忠文と言うんだ。あの人はなんでも知っている、賢い方だからこの危機も乗り越えられるかもしれん。」
「そんな方がいるんですね。行ってみましょう。」
二人は半日かけて阿智のいる駒場山へと向かった。そこは特に険しい山ではなく、四季折々の景色を楽しむことができる山であった。
「ちょうど…ガソリンも切れたか…。よし、ここからは歩いていくぞ。」
二人は軽トラから降りて、その山の中にある阿智の家を探していた。しかし何回か来たことのある峯藤でさえ見つけることは難しかった。山の中にあるかつての城の堀がいっそう視界を鈍らせ厄介になっていたからだ。
「おかしいな…。ここら辺のはずなんだが…。」
「それにしてもだんだん道が細くなってきましたね。」
「そうだな。もともと城があったからな。少しでも通りにくくした構造になっている。」
その時、掛け声とともに上から人が飛び降りてきた。随分とメタリックな重圧感のある装備からは考えられないくらい軽やかな様は二人を驚かせた。峯藤は咄嗟に辰信を後ろに控えさせた。
「久しぶりだな…。峯藤仁よ…。何年ぶりか…。」
峯藤は構えていた拳を下げた。
「む?お前は…多久豆か?」
「うむ…。久しいな…。」
「それにしても随分と重そうな鎧だなぁ。」
「いや…見た目と違い軽いぞ…。」
「あのぅ…。峯藤さん、この方は…?」
「あぁ、紹介しよう。こいつは多久豆力也と言って俺の知り合いだ。だが、どうしてこんなところにいるんだ?」
「あぁ…今は阿智さんのところに住んでいてな…。」
「そうなのか。だったら俺たちを阿智さんがいるところまで案内してくれよ。」
「分かった…。ついてこい…。」
そうして多久豆を先頭に三人は阿智の許へと向かった。
夢を追う 歩みは未だ 止まらぬも ふと振り返れば 此処は何処 鳥の鳴く音に 怯えては 先も通ったこの道に 狸も狐も居やしない 風風吹けば 来たる多久豆か