抜け落ちた記憶
グロい表現あります。
学校に着いて教室に入り、席に着くとクラスメートの渋谷が祐樹の肩をポンと叩いて言った。
「祐樹、一週間も学校休んで、風邪治った?」
「誰と勘違いしてるんだよ
昨日も来てたじゃん」
渋谷は祐樹の額に手を当てた。
「まだ熱あるんと違う?
そう言えば三組の倉橋樹里亜、すげえ心配してたぞ
内縁の妻に心配掛けちゃダメじゃん」
祐樹は渋谷の制服のネクタイを引っ張った。
「誰が内縁の妻だよ! 」
「アレ、違ったっけ? 」
渋谷は苦笑いした。
「あ、そうだ」
渋谷は真顔になって言った。
「また出たんだってな、犠牲者」
「犠牲者? 」
「なんだよ、テレビも観て無かったのか?
現代のジャックザリッパーだよ
この一週間で女性ばかり六人も犠牲者でてる
ほぼ一日に一人殺してるんだ
噂だと内臓引き摺り出されて下腹部めった刺しだって
警察は何やってんだろうな」
「へえー」
祐樹と渋谷の後ろを歩いていた女子の会話が耳に入った。
「三組の倉橋樹里亜、パパ活してるらしいよお」
祐樹は立ち上がって女子を振り返り睨んだ。
渋谷が祐樹の肩を掴んで言った。
「よせ、祐樹
女子の噂好きなんて今始まった事じゃないだろ」
女子はそそくさと、その場を去った。
雰囲気を変えようと渋谷は声高に言った。
「祐樹、元気いっぱい数学出してるけど、一限目物理よ」
「その手に乗るか
また、人をハメようとして……………」
「見事な休みボケだな
さて、祐樹君
今日は何曜日でしょうか? 」
「木曜日」
「莫迦、水曜だっつうの! 」
祐樹は笑った。
「またあ」
「誰にでも訊いてみろよ
今日は水曜日」
祐樹は言葉を失った。
「記憶が抜け落ちてる……………? 」
三組の倉橋樹里亜は椅子の背凭れに肘をついて後ろの席の柿崎桃子と話していた。
桃子が教室の出入口に立つ祐樹に気付いて樹里亜に言った。
「樹里亜
ほら、祐樹君だよ」
「祐樹? 」
樹里亜は祐樹を振り返ると立ち上がり、つかつかと祐樹の傍まで来て、祐樹の制服のネクタイを掴んで言った。
「一週間も学校サボるとは、祐樹にしてはいい度胸してるじゃない」
樹里亜はそう言って形のいい口唇を尖らせた。
祐樹は思わず引いた。
「こ、こわっ、眼が座ってるよ…………」
「アタシがどれだけ心配して、あんたんちに足運んだと思ってるの! 」
「歩いて三秒の向かいだろ……………」
通りすがりの男子生徒が言った。
「倉橋、夫婦喧嘩は家だけにしとけよ」
樹里亜はつらっとして言った。
「有り難う、そうするわ」
祐樹は眼を丸くして言った。
「ボクたちって夫婦だったんだ」
「…………な訳無いでしょ!
何本気にしてるの」
樹里亜は急に真顔になって言った。
「いったい一週間も何処行ってたの?
いつ行っても留守で、おじさんも仕事で居なかったし」
切羽詰まっていた祐樹は樹里亜の肩を掴んで必死に言った。
「その事は後で話すから、とにかく今は物理貸して!
五時間目に地理と………」
樹里亜は溜め息をつくと自分の席の机から教科書を取り出して祐樹に渡した。
「………ったく、相変わらず世話が焼けるんだから…………」
物理の時間が始まると授業内容が随分と進んでいた。
『ここはキミが封印した記憶が並ぶ、キミの精神世界ですよ』
祐樹の脳裏に久遠の言葉が掠めた。
『まさか、本当に……………………』
祐樹はノートを取ろうと、取り敢えず英語のノートをパラパラ捲った。
そして祐樹は戦慄した。
ノートの一面に『お前を抹消してやる!!』と云う殴り書きを見つけたからだ。
『誰が、こんな………………………………』
この時、祐樹は自分が微笑している事に気付いていなかった。
昼休み祐樹は上級生に校舎の裏庭に呼び出された。
二、三ヶ月前から祐樹は、この上級生たちの虐めのターゲットにされていた。
上級生は無抵抗な祐樹に土下座させ、足蹴りした。
「顔は止めろよ
バレたらヤバいからな」
「お願い………です……………………
もう………止めてく………………………」
祐樹は腹を蹴られ咳込んだ。
樹里亜は木陰に身を隠しながら叫んだ。
「キャーーッ!
ケンカよ!
せんせーい!! 」
「ヤバい!
ずらかるぞ! 」
上級生たちは慌てて祐樹を置いて逃げて行った。
上級生の姿が消えると、咳き込む祐樹に樹里亜が駆け寄って来た。
「祐樹、大丈夫? 」
祐樹は咳き込みながら呟いた。
「どうして、ボクがこんな……………………」
その日、校舎の裏庭で、放課後に下級生が一人上級生にシメられていた。
樹里亜と祐樹は一緒に帰ってる途中にそれを見掛けた。
いつもの祐樹なら形振り構わず先輩たちに許してくれるように哀願したに違い無かった。
しかし、その時樹里亜は祐樹の口元に小さく微笑が走るのを見た。
そして祐樹は上級生たちの前に歩み出ると言った。
「小さな虫ほど集団で屯さなきゃ何もできない」
その一言で上級生たちのターゲットは祐樹に向けられた。
だが祐樹は、それを言った事をまるで憶えていなかった。
樹里亜は項垂れる祐樹を見ながら小学生の頃の、祐樹のある行動を思い出していた。
それは利朗が家に珍しく女の客を連れ帰った次の日の夕方のことである。
車に轢かれて死にかけた仔犬を祐樹と樹里亜は見つけた。
樹里亜は迷わず家に連れ帰ろうと思い、同意を求めて祐樹を見る
と、祐樹は死にかけた仔犬の前にひざまづいて拳で殴り始めた。
樹里亜は必死にしがみつきやめるように懇願したが、祐樹は殴り続けた。
口元に微笑を浮かべ…………………。
涙で頬を濡らしながら………………………。
そして祐樹は、その事を憶えていなかった。
読んで下さり有り難うございます!
初雪は今日か? 明日か?
と、話題になる季節です。
インフルエンザが今年は早いと噂され、
この間は、雪虫がそっと胸にぶつかり死んでしまいました。
儚い命に胸が痛みます。
それではまた明日。




