さよなら
楽しんで戴けたら倖いです。
樹里亜は祐樹の鞄を持って、祐樹の家のチャイムを押した。
誰も出て来る気配が無い。
ノブを回すと鍵はかかっておらず、樹里亜は中へ入って行った。
勝手知ったる他人の我が家よろしく、真っ直ぐ祐樹の部屋へ行った。
ドアは開いていて、ベッドに座る祐樹の姿が見えた。
「祐樹………………? 」
祐樹はベッドの上で立て膝を抱えて俯いて答えなかった。
「居たんなら返事くらいしてよね
先輩に呼び出されたって聞いたからメチャメチャ心配したよ
鞄持って来たから、ここ置くよ」
樹里亜は祐樹の横に鞄を置いた。
祐樹が樹里亜の手首を掴んだので、樹里亜は祐樹の顔を見た。
祐樹は微笑していた。
『微笑………………? 』
そう思った瞬間、祐樹は樹里亜に掴みかかり、あっと云う間に樹里亜の上に馬乗りになった。
樹里亜は祐樹の顔を凝視した。
祐樹の眼は鋭く樹里亜の眼を刺す様に見詰めている。
『違う……………!
祐樹じゃ無い!! 』
樹里亜は叫んだ。
「祐樹っ!!
祐樹っ!!
祐樹ーーーっ!! 」
「お前があいつの憎しみにベールを掛けている」
もう一人の祐樹は腰に隠し持っていたナイフを取り出して構えた。
「やめて………………………
祐樹!
祐樹っ!!」
もう一人の祐樹はナイフを両手で握り頭上に持ち上げ、大きく眼を見開き、ナイフを振り下ろした。
樹里亜は両手の甲で顔を覆い叫んだ。
「やめてーーーーーーーーっ!! 」
樹里亜の心臓まで後数センチと云う処でナイフは止まった。
「あっ…………………………!! 」
もう一人の祐樹は仰け反った。
頭を腕で抱え込みナイフを持ったままベッドから転げ落ち、祐樹は身体を小刻みに震わせていた。
樹里亜は起き上がり床に転がり回る祐樹を見詰めた。
祐樹は苦しそうに震える声で言った。
「ボクが正気な内に早く…………逃げて…………………………」
もう一人の祐樹は言った。
「どう…………して…………………………? 」
祐樹は言う。
「ボクの意志がキミよりも上回ったから入口は開かれた
ずっと孤独だったキミには理解できないよ
守りたいと云う気持ち……………………………」
祐樹は激しく床を転げ回って仰け反り絶叫した。
「ああああああーーーーーーーっ!! 」
「祐樹ーーーーーっ!! 」
樹里亜は咄嗟に祐樹の身体にしがみついた。
「祐樹…………………………
しっかりして…………………………」
祐樹の身体を抱き締め、樹里亜は涙ぐみながら哀願する様に言った。
「しっかりして!
お願いだから…………………!! 」
「………………………当たってる………………………
お腹にパイオツが…………………………………………」
樹里亜は身体を起こして祐樹の顔を覗き込んだ。
「祐樹……………………? 」
祐樹は息を切らして上半身を起こした。
「樹里亜にも在ったんだ
パイオツ……………………………」
樹里亜は泣きそうな顔で祐樹を見詰めていたが、、直ぐに眉を吊り上げた。
「それがメッチャメチャ恐い思いして心配してあげた女の子に言う台詞?
しかも息切らせて、いやらしい…………………」
「そのわりには元気だったりして………………」
「でも、良かった
祐樹に戻って……………………………」
樹里亜は祐樹の胸に頬を寄せた。
「恐い思いさせて、ごめん……………………」
「もう、大丈夫なの? 」
祐樹はぼんやりと空を見て、樹里亜の背中を撫でた。
「もう、大丈夫……………………」
祐樹は眼を伏せた。
「間に合って良かった」
樹里亜は祐樹の顔を見詰めた。
「あれが祐樹のもうひとつの人格なんだね」
祐樹は驚いて樹里亜を見詰めた。
「気付いてたよ、祐樹の記憶が時々飛ぶの」
「そうだったんだ……………………
悪いけど樹里亜、自分でも凄く混乱してて、少し独人になりたいんだ」
祐樹は樹里亜の肩を掴んで身体を離した。
「独人になって、気持ちを整理したい」
樹里亜は心配そうに祐樹を見ていたが、眼に強い意志の表情を浮かべて言った。
「解った」
樹里亜は立ち上がりドアの処で振り返った。
「また、明日」
「さよなら、樹里亜」
樹里亜は部屋を出た。
二、三歩、歩いて樹里亜は立ち止まった。
『さよなら? 』
樹里亜は慌てて祐樹の部屋を振り返った。
後残り一話残すのみとなりました。
ここまでお付き合い戴き有り難うございます❗
こうして、投稿させて戴いてる間は、毎日がドキワクです。
面白く読んで戴いてるかなあ。
と、思って。
楽しんで戴いてたらいいなあ。
さて、明日で完結です。
最後までお付き合い戴けたら倖いです。




