花の様な不思議な匂い
軽い性描写あります。
遠くに林だろうか、フィヨルドの様な黒が小高い丘に貼り付いているのが、うっすらと見える。
見える総てが雪原で、雪が横殴りに吹き荒れ、祐樹はロクに眼を開ける事もできず、当てもなく膝まであるあら雪の中を歩いていた。
朦朧とした意識の中で、もうどれくらい、こうして歩き続けているのか、何故歩き続けているのか、解らないまま、それでも雪を掻き分け歩いていた。
手も足も既に感覚は無く、呼吸する度、胸が鈍く痛む。
『もう、駄目かも知れない……………………』
祐樹は膝をついた。
『もう、寒ささえ感じない…………………』
祐樹は雪面にゆっくり倒れた。
『このまま、ボクは……………死ぬ………………………のだろう………………か…………………』
「やめろ………………………」
祐樹は頭を押さえつけられ、何をされるのか解らない恐怖から必死に逃れようとした。
「止めてくれっ!! 」
祐樹は眼を開け、夢中で叫んだ。
「止めっ…………………………………! 」
視界に天井があった。
日本では珍しく天井に扇風機の様な羽根が添えつけてある。
窓があった。
カーテンが垂れ下がり硝子の向こう側に白い空間が広がり、雪がちらついている。
何の花だろうか、不思議ないい香りがする。
押さえつける手はもう何処にも無く、それが夢だったのだと気付くのに長くは掛からなかった。
「う………………ん………………………………」
耳もとで声がした。
そういえばずっと温もりを感じていた。
誰かの腕が祐樹の身体を抱き、自分が全裸で肌を密着している事に気付く。
声の方を向くと眼の前に、閉じた長い睫毛が見えた。
物凄い至近距離に人の顔があることに祐樹は驚いた。
不意にその長い睫毛の眼は開かれ、緑の瞳が覗いた。
「良かった、眼が覚めたんですね」
祐樹は何を言えばいいのか、咄嗟に思い付かなかった。
「あの……………初めまして……………………………」
間抜けな挨拶をした。
祐樹の身体にぴったりと裸体を密着させていたその男は上体を起こした。
男の首に金色の重厚なデザインの首飾りが輝いている。
「もう、眼を覚まさないのかと思いました
ずっと三日も眠ったままだったから」
『三日も…………………? 』
「アナタが助けてくれたんですか?
有り難うございます
ここはど…………………」
男は祐樹の口唇に指を立てた。
「僕は何もしていません
君が望んだだけです
お腹は空いていませんか? 」
男はベッドから立ち上がった。
美しい男だった。
男と云うより性別不明な美しさである。
長い黒髪から覗く、しなやかな肢体は美しい曲線を描き、透ける様な、真っ白できめ細やかな肌と、女性的でも男性的でも無い、いや両方を兼ね備えたと言うべきか、中性的な面立ちに、祐樹は暫し眼を奪われた。
「何か持って来ましょう」
男は部屋を全裸のまま出て行った。
『ああゆう人を絶世の美少年て言うんだろうな
グリーンアイズ
ハーフ? 』
そんな事を思いながら窓に眼をやった。
祐樹はやはり思い出すことができなかった。
何故、雪原を当てもなく彷徨っていたのか。
祐樹は暖かな室内に居る事に改めて安堵した。
『まてよ?
三日だって?
冗談じゃない!
帰らなきゃ…………………! 』
祐樹は起き上がろうとして遮られた。
男がいつの間にか黒地に紅い薔薇の付いた着物を素肌に羽織り、ベッドに座って祐樹の胸に手を当てていた。
男は言った。
「何処へ? 」
「帰ろうと思って…………………」
「何処に? 」
「家へ……………………」
「何処の? 」
そう訊かれて祐樹は絶句した。
『いったい何処へ?
何も思い浮かばない!
家族の顔さえも………………………………………』
祐樹はベッドに倒れた込んだ。
『どうして……………………………? 』
呆然とする祐樹に男は言った。
「厨房を漁っていたら、良い物を見つけました。
アルコールは冷えた身体を暖めるから」
ナイトテーブルに置かれたトレーにワインとグラスが載っていた。
男はグラスにワインを注ぐと口に含んだ。
『なっ………………………!!? 』
男は祐樹の口唇に口唇を押し当て口の中のワインを祐樹の口の中に注いだ。
不意を突かれた祐樹は思わずワインを飲み込んだ。
『の、飲んじゃった! 』
祐樹は口を手の甲で押さえ、勢い良く起き上がった。
「どうしました?
そんなに元気に起き上がれるなら、もう口移しの必要はありませんね」
『う、うっそ~ぉ……………………』
祐樹は意を決して言った。
「あまり知りたくは無いのですが、か、確認の為、一応お訊きしましょう
ボクが眠っている間、ずっとああして水分補給して戴いたのでしょうか? 」
男はあっさり言った。
「そうですよ」
祐樹は一瞬眩暈がして倒れそうになった。
『美少年だけど、お、男とキスしてしまった………………………』
男は更に言った。
「口移しする度に、何度も僕は君に犯されました
その口振りだと憶えて無いようですが」
祐樹は鈍器で思い切り頭を殴られた気がした。
『無意識に男を犯したって………………………
もう、それってガチって言ってるよね! 』
奈落の底へ転落しそうになりながらも気を取り直して言ってみた。
「実はうっそぴょ~んとか…………………」
男は真顔で言った。
「僕は基本的にふざけるのは嫌いです」
「……………………………………………」
祐樹は粉砕し、フリーズした。
「犯されたと云う表現は正確じゃ無いかも知れない。
僕も抵抗しなかったから」
「どうして?
どうして身を徹して貞操を守ってくれなかったんです? 」
「あんなにすがる様に求められたら、とても跳ね除けられません」
男は祐樹の頬に手を当てた。
ふわりと花の様な不思議な、いい香りが匂う。
「君自身気付いて無いけれど、君は傷付き憔悴している
暫く何も考えない事です………………………」
男は祐樹の顎に手を添えると祐樹に口付けた。
祐樹は抗えず眼を閉じた。
『憶えてる…………………
この口唇の感触……………………………』
祐樹はベッドに倒れ込み男の背中に腕を回した。
そっと侵入して来た男の舌に応え、身体が火照って来るのを感じる。
着物の中に手を滑らせまさぐった。
『この肌の感触も……………………
匂いも………………………』
花の様な不思議な香りが祐樹の鼻先をくすぐる。
次第に呼吸は乱れ、祐樹は回転し、男の身体を下敷きにして愛撫を繰り返した。
愛撫しながら祐樹は記憶を辿った。
『憶えてる…………………………………………
不意に闇が手首を掴んで引き摺り込もうとした
ボクは逃れようと、必死でこの肌にしがみついたんだ』
読んで下さり有り難うございます。
久々のBLです。
活字中毒の娘に埃が出なくなるくらい叩かれてできた作品です。笑
エロくて、少し入りくんだ内容ですが、楽しんで戴けたら嬉しいです。




