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エピローグタワー  作者: 桂木イオ
8/9

過ちのティック


 ティックとタック。修理屋の双子。僕等は、2人でいればそれで充分だった。


 僕たちは2人で完成していた。僕が右の羽根、タックが左の羽根。一緒に手を繋いで生きていけると思っていた。


 ――僕は一体いつから、タックを妹として見る事ができなくなってしまったのだろう?


 時計にしか興味がなかったのに、性別なんて、どうでもよかったのに、時計の針が踊れば踊る程、僕は汚れてった。


 僕は、穢れていった。


 タックに触れたいと、夢見る様になった。


 隣で寝息を立てる彼女の匂い、穏やかな寝息を散らして乱してしまえたら、手を握り会い、愛を囁きあえたなら、どんなに良いだろう。考えるだけなら、幾らでも許された。


 覚める度、叶わない夢だと台本が教えてくれた。


 掟を枷にして、僕は生きていた。あの日もそうだった。


 2人きりの部屋で、タックは懐中時計を片手に僕に「一緒にいたい」と囁いた。


 普段であれば躱せたのかもしれない。兄の皮を被り「気持ちは嬉しいが、僕等は台本通りに生きないといけないよ」と諭せたのかもしれない。だが、その日の僕はおかしかった。


 飢えた獣が肉を欲する時の様に、僕自身では律することのできない大きな力が、彼女の言葉と共に僕を支配した。


――ずっと遠くから、タックの泣き声が聞こえた。


 次いで女の喘ぎ声が聞こえた。


 ごめん、僕は、こんなことしたいわけじゃなかったんだ。


 心の奥で「ほんとうに?」と嗤う僕がいた。


「お兄ちゃん、泣かないで? 私、平気よ?」


 裸体のまま、タックは優しく微笑んでいた。


 赤くなった、傷だらけの身体を震える手で隠す君が、大丈夫なわけがないだろう?


 僕が、タックを、壊してしまった。


 彼女を、犯してしまった、穢してしまった。


 僕は、裁かれなくてはならない。



……

…………


「いいのか、妹に何も伝えてこなかったのだろう?」


「いいんです。ゲルトルート。罪人が何を言えるんです?」


「……そうかい」


 塔の中、僕は炎に包まれた。


 喉が焼かれ、息ができない。


 藻掻いて、苦しんで、僕は死んだ。


 炎の中で独り、何も残さず消えていった。


◆◇◆


ナレーター:静まりかえった舞台で、黄色の少年が黒フードの青年に問いかける。


黄色の少年「物語はお終いですか?」


黒フードの青年「いいえ。つけたし程度ですが、もう少しだけ続きます。悲恋に終わった2人を見ていた神様が、兄妹の魂を1匹の小鳥に変えました。1匹の鳥は時に縛られることもなく、ゲルトルートに欺かれることもなく、自由に空を謳歌するのです」


(青年が筆を置くと、1匹青い鳥が舞台を旋回し、どこかに消えてしまった)


黒フードの青年「おつきあいありがとうございました。以上を持ちまして『時計の国のティックとタック』終演に御座います」


ナレーター;観客達の拍手が聞こえ、青年は分厚い本を閉じ、深々と一礼した。黄色の少年は手ばたきをして声を上げる。


黄色の少年「さて。では舞台を彩った主演のお2人に、ステージに登っていただきましょう!」


黒フードの青年「え!?」


黄色の少年「物語の主人公! 禁じられた恋に狂わされた時計の国の修理屋兄妹!!さあさあみなさん拍手でお迎えください!!ティックとタック!!」


ナレーター:顔が見えなかった観客の内2人が、ステージの光を浴びて青年の前に現われた。


ティック「初めましてかな、お兄ちゃん。僕はティック」


タック「初めましてかしら、お兄ちゃん。私はタック」


ナレーター:黒フードの青年は、震える手でフードを外した。そこには黒フードの青年ではなく、1人の執筆者、績の姿があった。

 


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