第2章 40 再来の危機
遅れてすみません。
二話投稿です!
ナイトメアは腕を引き抜かれると同時に、支えを失った棒のように地面に倒れ込む。
「ま、すた……? ふ、ぐぅ……な、なん……で……」
「なんで、とは?」
問いかけの意味が分からないとでもいうような仕草を見せるマスターと呼ばれる人物。
「ボクに…………はぁ、ぅ……色々と教え……て、くれた……のに……」
見るからに瀕死の状態のナイトメアは途切れ途切れになりながらもどうにか声を出す。
何故自分を攻撃したのか、色々と手助けをしてくれたのに。行く宛もなく暗い森を彷徨っていた時に拾ってくれたのに。今まで、優しく面倒を見てきてくれたのに。ここまで導いてくれたのに。
理由が知りたい、悪いところがあったのならば謝ろう。それが主……いや、親への忠義なのだから。
ナイトメアはそう思いつつゆっくりと喋りながら、マスターの返答を受けるために少しばかり顔を上げる。
そして、それを表情のよく分からない顔で見ている目の前の我が主は。
「ふむ……そんな事ですか」
「へ……?」
「私は最初に貴方を拾った時に言いました。貴方を私の元に置いてあげましょう、と。
貴方も覚えているはずです」
そんな事を言ってきた。そうだ、そう言われた。確かに言われた。忘れるはずもない。
しかし、それがどうしたというのか。
「そ、れが……はぁ……どう、いう……?」
「つまり、貴方は私の物なんです。分かりますか? 私が貴方を拾い、苦労して育て、力の使い方まで教え、道具として使えるようにしたのです。
貴方は、私の物なのですから、私が貴方をどうしようと構わないでしょう?」
意味が分からない。物、もの、モノ。いや、この人は何を言いたいのだろう。道具? 道具とはなに? 道具が自分で自分が道具? 自分は人だ。どういう事なのか。理解が追い付かない。
ナイトメアは胸の激痛も相まって頭が回らない。意識もだんだんと朦朧としてくる。
そんな事はつゆ知らず、あぁ、それと、と言ってマスターがナイトメアの頭を片手で掴み、ぐいと顔を近付ける。
「物は使えなくなれば処分するでしょう?」
「っ?!」
そう言って、マスターはそのまま手を離す。
「ぅぐ……」
「さて、そろそろ相手をしなくては」
体を打ち、苦痛を漏らすナイトメアに見向きもせずそう言ってナイトメアのもとから離れていく。
あぁ、そうか……。これは自分を試しているのかもしれない。そうだ、そうに違いない。こんなことするはずがない。私の知っているマスターなら、きっと……!
「……ま、まっ……て……!」
行かないで。そう、言おうとしたが声がでない。もう目の前が見えなくなってきた。朦朧としている意識ももう限界に────。
見えない視界の中マスターを追いかけ、伸ばした手がゆっくりと地に落ちた。
ナイトメアにとって幸か不幸か、まって、と言う言葉がマスターに届くことは無かった。
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「くはははは、さて茶番は終わったか? 悪感情が出なかったのが不思議ではあったが……。もし出ていたとしても、そのやり方は非常に不愉快であるな」
「そうですか? まぁ、それは些細な事です」
珍しく苦々しい表情を浮かべるゲイル。こいつ、人がやることに対してこんな顔した事あったか……? あ、一度はあったかな?
まぁそんな事よりも。とりあえず、ここは任せておこう。俺達にどうにか出来るレベルではない気がするからな。
……それに、ちょっと頼み事ができた。
「お母様、少しワガママを言っても?」
「……聞くだけなら」
多分、これから言おうとしてる事は分かってるのだろう。ベスタは俺をチラと見やり、そう言う。
なら話は早いな。即断されそうなんだけども。いや、ここで引いちゃダメだ。俺はやれば出来る子レント君だ!
「……あの娘を、ナイトメアを助けてあげてくれませんか?」
「……え?」
「……え?」
俺のわがままに対して、べスタからとても間の抜けた返事が返って来たので思わず俺も素で返してしまった。
あれ? 凄く驚いた顔をしている。俺が何を言おうとしてるのか分かってるみたいな顔してたのに。
あ……なんかだんだん顔が赤くなっていってる。というか耳まで真っ赤になった。全く見当違いの事を思ってたのだろう。
いつもは見透かしたように笑ってるのに、何だか意外だ。俺の事が転生者ってことすら知ってそうな感じだったのに。
まぁ、それはそうと、こういう状況はちょっと気まずい。こっちまで何だか恥ずかしくなってくる。いや、でも話さねば。
「ナイトメアは騙されていたっぽいですし、僕には悪い子には見えないんです。とっても純粋にあの変なやつを信頼していたみたいですし……」
気まずい空気を破って俺がべスタに言う。
べスタは顔を赤くしながらも、こほんと咳払いを一つついてから、真面目な顔でこちらを向く。
「……私はてっきり戦わせろだのなんだの言うと思っていたわ。そしたら敵だった子を助けてくれって……。
……でも、レント。ちゃんと考えたのかしら? 彼女は、先程まで私達を殺そうとしていた。あなたも少なからず被害を受けたはずよ。そして、実際にカントは死にかけた。そんな子をもし、仮に助けたとして、私達には特別利益はない。むしろ損になる可能性の方が高い。このまま見過ごす方が私達にとっても後腐れがないと思うのだけれど。
それに、また命を狙われる可能性もあるわ。なら見過ごした方がいい。違う?」
お母様、僕をどこぞの脳筋騎士とかと同じと思ってたんですか? いやまぁ、それは後でじっくり問い詰めるとして、べスタの言う事はまぁ、冷たいかもしれないが、間違ってはいない。
確かに俺も殺されかけたし。それに、家族にまで手をかけられてもいる。実際カントが危うい状態だった。
まぁ、べスタが治療してあのチート悪魔がなんとかしたが。
ここまでされてりゃまぁ、普通ならざまぁみろってなると思う。普通なら。
でも、でも……。
俺は────。
「確かに、殺されかけました。それも一度ではなく、何度も」
「でしょう? だったら……」
「でも! でも、ここで見捨てたら……。僕は大切な何かを失ってしまう気がするんです!」
「……!」
同じ過ちを繰り返そうとしている。むしろこの場合俺よりも悪い結末になると思う。俺は十数年篭っただけで済んだ。
……まぁ俺とは比べもんにならないくらい裏切られ方だとは思う。だけど、信じていた奴に裏切られる事の辛さは、嫌ってほど分かる。
俺はその時頼れる奴がいなかった。寄りかかって、縋っていける事が無かった。導いてくれる存在が、いなかった。いや、正確には無視していたのかもしれない。
何もかもが信じられなくなって、疑心暗鬼になって、周りが怖くなって。
その時、縋り付けるものなんてなんにも無かった。
周囲は皆同じに見えた。誰も彼も。
それを知ってるから。その絶望を俺は知っているのだから。
だから、もし。もし俺の見知っているやつや身内とかがそんな状態になったのであれば。
俺は寄り添ってあげられる、縋ることの出来る、光ぐらいにはなってやりたい。
「僕はいじめられている子を見捨てたりはしたくないんです!」
「……」
べスタは俺を無言でじっと見つめる。俺もべスタから目を離さない。
この気持ちに、嘘偽りなんてないのだから。
「……はぁぁぁ。まいったわ。レントはやっぱり優しいわね。……よかった」
「……ということは?」
べスタは大きく溜息をつき、優しく笑いかけながらそう言った。
最後にボソリと何かを呟いたが、よく聞こえなかった。
「レント、あなたはキャリルちゃんと一緒にカントのそばに居ててちょうだい。あとは……ローナ! 来てちょうだい! 少しやる事が出来たわよ!」
「わ、分かりました!」
「はい、なんでしょう」
俺は拳を握りしめながら返事をする。少し離れた所でローナの声が聞こえる。
それを確認してからベスタはこちらを向くと。
「可愛い息子の頼みですもの。絶対に助けてあげるわ。……私も大人気ないことを聞いたわ。ごめんね」
一言謝ってから、それに、と付け加えると。
「あれだけ必死になって言われたら断るなんて出来ないものね」
そう言ってこちらにウインクをしてから呼ばれてきたローナと共にナイトメアの元へと駆けて行った。




