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第1章 1 俺が死んだ件について

 俺は川島廉翔かわしまれんと、三十六歳。

 いつものようにこの楽しくもない世界、日本と言う名の地獄にて、パソコンで今流行りのオンラインゲームをしながら、俺は愚痴をこぼしていた。


「はぁ……またギルド戦負けたわ……。どうせまた俺に濡れ衣被せにあいつらは奮闘するんだろうねぇ。その前にギルド戦にもっと奮発しろってぇの。くだらん茶番に付き合わされる前にコンビニ行くか」


 財布を手に取り、重たい腰を上げ、そそくさと家を出る。

 逃げたんじゃない、腹が減っただけだ。

 そう一人呟きながら、太陽が照り返す夏の道路を歩く。コンビニは歩いて五分という近場にある。

 最近はずっとコンビニ弁当ばかり食ってる気がするが気のせいだろうか。いや、たまにあの無駄にキャベツの多いサラダを食べてるから大丈夫、カップ麺生活してる奴らよりはマシだ、などとぶつぶつ独り言を繰り返す。

 周囲から痛い視線を浴びているが、慣れっこなので気にせず進む。

 裏手の路地だと言うのに人通りが多い。しかしこの道を通らなければコンビニには遠回りになってしまうのだ。

 ブロック塀に囲まれた家の向こう側は大通りでそこから車の騒がしい音が聞こえてくる。

 近くの木に止まった蝉が車の喧騒と混ざり余計に煩い。

 あぁ……夏は嫌いだ。早く涼しくならないだろうか。

 そんな事を思いながら、夏の日差しに、周囲の視線に、蝉の煩い鳴き声にめげずに歩き、コンビニにたどり着く。

 早くこの灼熱地獄のような外から逃げ出すためにコンビニの入口を潜る。


「いらっしゃいませー」


 女性の店員の声が掛かるが特に見向きもせずにコンビニ内を徘徊する。あぁ、エアコンの風が心地よい。

 さて、来たからには何か買わねば。多少腹は減っている、だがよく考えてみれば所持金は少なかった気がする。

 財布を覗くとそこには綺麗な五百円玉が……。


「所持金五百円とか買えるもん少ねぇなぁ……」


 肩を落としつつまずは飲み物を手に取る。

 そして、弁当のコーナーへ──。


「おい、ほぼ売り切れじゃねぇか。つくづく俺ってついてねぇ」


 明らかにすっからかんの商品棚を見て再び肩を落とす。残っているのは不人気かつ高いものだけであった。

 ワンコインで買える範疇を超えているので手は出さないでおく。


「くそっ、さっきあれだけ言っておいてカップ麺か……。

く、食いづれぇ……まぁいいか、仕方ない」


 鶏ガラベースの醤油味のカップ麺を手に取り、レジへと向かう。まったく、金持ってくりゃよかった、などとぶつぶつ言いつつレジに商品を置き店員を見る。


「……?!」


「飲み物が一点、カップ麺が一点、合計二点で三百二十五円になりまーす」


 見た瞬間、時間が止まったかのように感じた。しかし、すぐに思考は動き出す。


(え? めっちゃ可愛い!! パッチリとした目に幼さが残る顔立ち……! ナニコレ! うぉぉ! あれだろうか、これが最近噂のJKとやらであろうか!

 テンション上がるわぁ! っといけないいけない。

 俺は川島廉翔、三十六歳。そこらにいる男子諸君とは違うのだ、ここはクールに落ち着いて行くんだ。

 できるな、俺。そう、俺はやればできる子だ。

 うん、とりあえず来てよかった。また来よう。

 今日は水曜日の昼。よし、来週水曜日の昼は用事ができたぞ! おっと、話が逸れたな。

 彼女が綺麗な瞳で俺を見つめて待っている! よし、今からお金を────)


 出そうとして。


「おい! 動くなてめぇら!!」


「「「?!?!」」」


 突如ドアの方から響いた大声に皆が驚き、振り向く。

 そして、その声の持ち主が手にしているものを見て動きを止める。


「おい、お前。レジの金これに全部詰めろ」


「ひっ……は、はい……」


(う、うわぁ……強盗……まじかよ……)


 ナイフを突きつけられた可愛い店員さんは目を涙目にしながら必死に出されたバッグにお金を詰め込む。


(そこまでお金無いはずなのにあんなに大きい鞄出して意味あるのかな?

 まぁいいか、俺はこんな面倒事に口を出したりしたくないしな。触れないでおこう)


 そんな事を思っていたからか。


「おい、お前、さっきから何ニヤニヤしてるんだ?

あぁん? ムカつく顔しやがって。舐めてんのか?」


 目をつけられた。いや、つけられてしまった。


(おっと、顔に出てましたか。いや、しかしこれはいけない。何もしてはいないはずなのに絡まれた。ここは謝って刺激しないよう……に……?)


 しかし、そこで思考は途切れる。


「……えっ?」


 気付いた時には既にお腹の脇腹付近に強盗犯が持っていたナイフが深々と刺さっていた。


(え……? 痛い、すごく痛い。なんで……? 俺……刺されて……)


 顔から、いや全身から血の気がサーっと引いていくのが分かる。


(え、なんだ、これ、ものすごく痛い。なんだかどんどん寒気がしてくるし、とにかく、痛い。やばい、痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい…………)


 痛みとは裏腹に、何故か思考だけが冴えて状況を飲み込もうとしている。


「ふん。気に食わねぇ。よし、金は全部いれたんだな? 行くぞ!」


 だんだんと朦朧としてきた意識のまま見ると強盗の男が店を出ていくのが見えた。


(やばい、俺死ぬのか、こんな理不尽な状況で……?)


 感覚が鈍くなってきたのかだんだんと痛みが無くなっていく。


「お客さん?! お客さん!! だ、誰か救急車と警察を!!お願いします!!」


 近くであの可愛い店員さんの声が聞こえる。


(焦ってるなぁ。焦ってても可愛いんだろうなぁ……。

 あぁ……寒い……指の感覚がもうほぼねぇ。なんでなんだよ、なんで俺だけ……。

 くそっ、少しでもラッキーな事があったと思ったらこれだ。

 昔っからそうだ。不幸に見舞われてよ。多少いいことがあったと思ったらそれに引き合わない不幸が後に来る。良くて相殺、悪くてマイナスに振り切るくらいの。

 何なんだよ。なんで俺だけ……)


 そう思った瞬間、まるで、走馬灯のように過去の映像が頭の中でリフレインする。


 ──小学校の時、クラスの女の子に一緒に帰ろうって誘われた時に返事を返そうとしたら周りにいた同じクラスの女子に罵倒されて、置き去りにされ……。


 ──中学校の時、女子に初めて告られて嬉しくてもちろんいいよと返事をしようとしたら返事は明日でいいからと言われ、明日、返事をしっかり返そうと思ってドキドキして眠れなかったってのに、次の日には違う誰かに告って付き合ってて、あ、ごめん忘れてたと言われ、俺の恋心を踏みにじられ。


 ──高校の時、テストでかなりいい点数を取って女子に教えてと言われ勉強してよかった! と思っていたら放課後クラスの男子に寄って集って殴られ蹴られ……。


 短いような長いような走馬灯が現在に追いついてくる。

 しかし、過去の映像はフラッシュバックしているかのように脳裏に張り付いてはなれない。


 ふざけんな、なんで俺だけなんだよぉ……!

 いっつもそうだ、このろくでもない世界は。

 こんな所なんて、こんな世界なんて……。




 俺は大っ嫌いだ─────!






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※












「とまぁ、こんな感じで今に至る訳ですねぇ。よろしいでしょうか、川島廉翔様?」


「はぁ……嫌なこといっぱい思い出したわ……」


「それはそれは大変だった事でしょう」


 台本でも読んでるのかと言いたくなるくらいに棒読みでそんな事を言う女神。


「そんなに心のこもってない大変だったねは初めてなんだが。

それより、整理する必要性ってあったか? まさかお前のミスがどうたらとかじゃないだろうな」


「特に意味はないですよ」


「おい、じゃあ何故した」


「強いて言えば貴方様の死に様をより良く理解するため?」


「理解する必要性ないだろ! それと何で疑問形なんだよ」


 平然とした態度でそう言ってのけた女神は俺のツッコミを華麗にスルーしながら。


「そんな貴方様に。一つ、提案があるのです」


「いや、人の話聞けよ……提案?」


 女神はピンと人差し指を立てる。そして、


「はい、川島廉翔様。では、端的にお伝え致します。

……異世界に転生して頂けませんか?」


 クラスメイトに頼み事をするかのようにサラリとそんな事を……。


「……は?」

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