第1章 11 ついに……?
俺は頑張った。そう、頑張ったのだ。
それはもう、すごく頑張った。
……何がって? それはもちろん────
「おかあしゃま」
「まぁ、レント。なぁに? 私に用があるのかしら?」
「えへへ」
「……あぁ、なんて可愛いのかしら! もう、レントったら! 用なんて無くてもいいわ! だって、こんなに可愛いのだもの!」
「お、おかあしゃま、くすぐったいれす」
「あら、ごめんねぇ。可愛いからついつい」
「大丈夫れす。おかあしゃま」
「ふふ、そう? じゃあ、私は洗濯物を干してくるわね」
「はい、おかあしゃま」
ベスタは上機嫌で洗濯物を干しに行く。
それはもう上機嫌で。スキップしながら。
……お分かり頂けただろうか?
そう、俺は発声練習(あうあう言ってるだけ)を頑張ったのだ! すんごい頑張ったのだ!
その期間、実に2年間!
長かった……。あうあうとしか言えなかった俺がついに……!
いや確かにまだ舌足らずではあるが、ハッキリと分かる程度には喋ることが出来ている、と思う。
ベスタには伝わっていたから多分大丈夫だろう。
んで、俺はついでに歩くこともできるようになった。ちょうど1年ほど前だからもう歩くことにも慣れてきている。
……いやぁ、掴まり立ちはキツかった。なかなか。
あれはやり直した奴しか分からんだろうな。うん。
あとは……あ! そうそう、『マイカス伝記』!
あれ、実はまだ終わってないんだよね……。なげぇよ、アレ……
そんなに分厚くなかったはずなんだが……?
まさか、ベスタが話を盛ってるのか? そのまさかなのか、ベスタさん?
まぁ、いいか。話は面白いんだし。
そう、特に、マイカスコンビがこの世界を荒らしまくってた超大型のドラゴンを倒した時の話とか、もう。
年甲斐もなく興奮してしまった。
……そっち系でじゃなく、純粋に興奮しただけだからね?
俺はまだそういう年頃ではない。体は。
いや、そんなことより、マイカスコンビはどうやら魔族と人族のコンビであったらしい。
異種族間の友情とやらか。いいな、そういうの。
俺には友達が少ない。てか、いない。ぶっちゃけ本が友達になっている。そろそろ名前まで付けそうだ。
表紙に名前、書かれてるんだけどな。
あ! そういや、俺には幼馴染みがいるっていう話だったな……。
確か……そうそうロールズさんの子供が。
あ、最近分かったのだが、ロールズさんは男だった。
しかもなかなかのイケメン。
おじさんとか言って悪かった。女の人じゃなくてよかったと本当に思った。
でも、幼馴染みとやらは見なかったな。あと奥さんも。
会ってみたいなぁ……、幼馴染み。もう生まれてそろそろ3年なんだから外に出て会ったりしていいと思う。
お友達って、幼馴染みって、いいものなんですよ? パパ? ママ? 聞いてます?
……あ、でも、イジメは、いくない。あれは、ダメだ。イジメ、ダメ、絶対。
俺はイジメをする奴は絶対に、絶対に許さない。
被害者は理不尽な暴力を受けることはないのだ。
あいつらは世界のゴミだ。人にゴミだのクズだの言うくせに自分のことはゴミだと気付いていないことが腹立つところだ。
言葉も時には暴力になりうるという事すら分かっていな
い。くそっ、そんな奴らはまとめて殺してやりたい。
……あぁ、またあの時のやつ思い出した。くそ、俺が何したっていうんだ。
……ふぅ、少し落ち着こう。冷静じゃなくなってた。深呼吸、深呼吸。
吸って……吐いて……吸って……吐いて…………
……はぁぁぁ、よし、落ち着いた。
何が思い出すトリガーか分からんな。思い出す度に憂鬱になるから嫌なんだよな。
もう、いっその事記憶をリセットしたいものだ。
まぁ、気にしててもしょうがない。気にしなければ大丈夫だ。きっと。
……幼馴染み、優しいいい子だといいな。
もう女の子とか贅沢は言わないでおこう。
……いやでも、この世界では俺は運がいいはずだ。
大丈夫ではなかろうか? ……うん、そうだ。大丈夫なはずだ!
よし、元気出てきた!
次また思い出した時もこう思うことにしよう。
ふぅ。話を戻すか。
んで、俺としてはお友達を作りたいのだ。
そして、俺には幼馴染みがいる。俺の幼馴染みはいい子だと思う。うん。きっとそうだ。だって俺は運がいいのだから。
……本当のところはロールズさんがめっちゃいい人だからなんだけどね。
あの人は結構苦労すると思う。
人当たりが良すぎるのだ。騙されないかおじさん、少し心配。大丈夫、うちの家族はそんな悪い人いませんよ。
ロールズさんは、とってもいい人。これはしっかり覚えておこう。
まぁ、とにかく、幼馴染みはいい子であろう。
ちゃんとお友達になれるといいな。
まぁ、お友達についてはまた後で考えるとして。
俺は喋ることができるようになった。そう、喋れるのだ。
つまり、アレが出来るかもしれないのだ!
そう、アレだ、アレ!
勿体ぶるなだって? ふっふっふ。
……俺は実はまだ試して無いんだよ。
べ、別に怖いとか? そんなんじゃないし?
た、楽しみ過ぎて武者震いしてるだけだし?
……実はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ怖かったり? したりしなかったり?
ってなわけでまだ試していないのだ。
なので、今日! やってみようと思う。
頑張るぞ、俺! えいえいおー!
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「……あった、これこれ」
3冊のうちの1冊を手に取る。
結構見たのだが、まだ破けたり、よれたりはしていない。
『魔術教本』と、またベタな名前が書かれている青い本。
俺はそれを座って開く。
「……うーん、やっぱ最初の方の、いわゆる初級魔法とやらが実験にはいいよなぁ。
そもそも、最初から上級やら使えると思えないし」
ちなみにこの世界の魔法は5つの段階がある。
最初が、初級魔法。
次に、中級魔法。
その次が、上級魔法。
ここまではなんかありきたりだな。
んで、その次は超級魔法。なんか強そう。
で、この世界で最高級の魔法が、滅級魔法。
……なんか、使っては行けないような名前だなって思ってたりする。
まぁ、この五つに段階分けしてて、その中でも、火属性、水属性、風属性、土属性の4つに分かれる。
氷だとか、雷だとかは水属性と風属性に分類されるっぽい。
……氷はわかるが何故雷は風属性なのだろう。
もう、新しく雷属性って作ればいいのに。
この世界は突っ込むところが多くて大変だ。
っと、書かれてる説明はこんなもんか。
他にも何やら書かれているが、特に問題ないだろう。
よし、では初級魔法とやらを試してみよう!
「火属性、小炎、水属性、水球、風属性、微風、土属性、泥球、か。
どれがいいかなぁ……
とりあえず、火と土は却下だな。燃えたら大変だし、汚したくないしな。
ってことは水か風か……
んー、風はなんか微妙だし、ここは水でいくか」
俺は初級魔法の水球のページを開く。
よし、準備はいいかな? 初級魔法だし、そこまでびしゃびしゃにならないだろう。
「……えっと……大気に宿りし蒼き光よ、我の前に……」
……おお? なんか体の中、お腹の辺りがギュッとしてきた。
表現しづらいが、表現するならギュッとしてきたとしか言えない。
「……我の前に顕現せよ! 水球!」
ギュッとしたものが外に出たかと思うとポンッと目の前に水の塊が現れ、そのままパシャッと下に落ちた。
「おお! 水が……出、た……?」
不意に立ちくらみが起き、その場にバタリと倒れる。
「ぇ? ……あ、あれ? 力が入んにゃい……?」
……ま、まさかと思うが魔力切れってやつですか?
ちょっ、俺は初級魔法1発だけで魔力切れするってのか? 嘘だろ? ねぇ、お願い、嘘だと言っ──
大きな足音が段々と近付き、またもや勢いよくドアが開かれることで俺の思考が遮られる。
「どうした! ……レント!? 大丈夫か!?」
「お、おとうしゃま……?」
……なんかデジャヴだな。
まぁ、助かった。すんごい体だるくて動かないからそのままベッドに……
「おい、何があったんだ?! ……ん? 濡れて……? も、もしかして……!」
あ……やば。バレて……
「転んでビックリしてお漏らししたのか?」
……はい?
「なんだ、よかった。怪我も特にないみたいだし。
レント、次から気をつけろよ?
……ん? 立てないのか? しょうがないなぁ。うし! 俺がおぶってやる! 最近またお前と遊べてないからな!」
「お、おとうしゃま……!」
……ごめんよ、カント。俺は気付いていなかった。寂しい思いをしていたんだな。ここはしっかり頼っておこう。
「ご、ごめんなしゃい。おとうしゃま……」
「なーに、いいってことよ! ……大丈夫か? なんか疲れてるな、レント? 今日は着替えて少しお昼寝しようか。そして後でご飯を皆で食べよう!」
「はい……おとうしゃま、ありがとうございましゅ……」
……なんか少ししょんぼりしてるように見える。
今度目一杯全力で遊ぼう。よし、決めたぞ!
今度思いっきり遊ぼう!
俺成分を沢山補充させてあげよう。
……あ、もう、やべ────
そう決意して、俺はそのまま意識を手放した。
そう簡単には使えないようです。




