紫陽花が鳴いている。
紫陽花が鳴いている。
容赦のない八月の終わりの日差しを浴びて。
紫陽花が鳴いている。
咲く時期を間違えたのだと。
ヒグラシがそれがどうした、と鳴いている。
生まれてくる時期など、まるで賽の目と一緒じゃないかと。
貴様の時代は確かに違うが、
だからといって、花も咲かせず枯れていくのか。
貴様は、他の紫陽花が知らなかった、日差しを知っている。
それだけで、幸福なんじゃないのかと。
ヒグラシは鳴いている。
それは違うよ、と。
紫陽花は鳴いている。
例えこの日差しを知ることが出来たとて。
他の紫陽花はすでに枯れはてた。
ここに在るのは、ただ一輪。
暑い暑いと分かち合う仲間は居ない。
悲劇も喜劇もただ一人きりならば、
それはただの不幸でしかないのだよ……。
紫陽花が鳴いている。
夏の残り火に晒されて。
不意に空が暗くなる。
大きな入道雲が
夕立を連れて来た。
火照った紫陽花に降り注ぐ。
まるで六月の天気のようだ。
紫陽花は鳴いている。
それが、本当に自分の居るべき風景なのか。
それを問う仲間も居ない。