表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

キネマトグラフ

紫陽花が鳴いている。

作者: 水上 遥

 紫陽花が鳴いている。

 容赦のない八月の終わりの日差しを浴びて。

 紫陽花が鳴いている。

 咲く時期を間違えたのだと。

 ヒグラシがそれがどうした、と鳴いている。

 生まれてくる時期など、まるで賽の目と一緒じゃないかと。

 貴様の時代は確かに違うが、

 だからといって、花も咲かせず枯れていくのか。

 貴様は、他の紫陽花が知らなかった、日差しを知っている。

 それだけで、幸福なんじゃないのかと。

 ヒグラシは鳴いている。


 それは違うよ、と。

 紫陽花は鳴いている。

 例えこの日差しを知ることが出来たとて。

 他の紫陽花はすでに枯れはてた。

 ここに在るのは、ただ一輪。

 暑い暑いと分かち合う仲間は居ない。

 悲劇も喜劇もただ一人きりならば、

 それはただの不幸でしかないのだよ……。


 紫陽花が鳴いている。

 夏の残り火に晒されて。


 不意に空が暗くなる。

 大きな入道雲が

 夕立を連れて来た。

 火照った紫陽花に降り注ぐ。

 まるで六月の天気のようだ。

 紫陽花は鳴いている。

 それが、本当に自分の居るべき風景なのか。

 それを問う仲間も居ない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ