表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びの剣と星屑の勇者  作者: タキザワコウ
第一章 〜それぞれの旅立ち〜
13/32

小さな望遠鏡

 カリーナ達はボッツの自宅へ向かう前に、遅めの昼食をとる事にした。

通りの店先には屋台が立ち並び、行き交う人々に声をかけている。食欲をそそる香ばしい匂いが辺りに充満して、朝から空っぽだった四人の胃袋を刺激した。


「ねぇ、あれ美味しそうじゃない? 」

カリーナが指差した屋台には、ねじれた揚げパンに砂糖をまぶしたものをカウンターに山積みしてある。

「なんだよ、お菓子じゃねぇか」

「いいでしょ。お願い」

カリーナは一個だけと指を立てて、レヴィン達に懇願した。


「あんなの食べたら昼飯が食べられなくなるぞ」

子供を諭すようにカルタスが言う。


「甘いものは別腹って良く言うでしょ」

カリーナは頬を膨らませて拗ねたのをみてスピーノは笑った。


「あそこに入ろう」

カルタスが指差したのは行列も無く閑散とした店だった。


「えー、あっちの混んでる店の方が絶対美味しいよ」


「今は悠長に食事をとってる場合じゃないだろ。それに人目につくところは危険だ」


カルタスの意見はもっともだった。レヴィンとスピーノは自分達が逃亡者である事を改めて認識した。しかしカリーナだけは違った。


「でもお昼ご飯くらい落ち着いて味わいたいの!」

カリーナの気迫に押されてカルタスは言葉を失った。

(こいつの食に対する執念が凄まじい事を忘れていた……)


「じゃあ、晩飯はカリーナが選んでいいから。な」

レヴィンの提案にカリーナは口を尖らせて渋々同意した。


「カリーナはまるで子供だな」

からかうスピーノの心には疑問が涌いていた。

(本当にこんなやつが王国の兵士を殺ったのか、何かの間違いじゃ……)



 中心街に戻ったカリーナたちは「ガランダ食堂」という看板を掲げた店に入っていった。

店内は昼間にしては薄暗く、食器の音が響くだけで話し声すらなく静まり返っていた。数人の客が居たが、それぞれ単独でテーブルに座って食事をとっている。


「あ、あの子、さっき私たちを助けてくれた子じゃない? 」

カリーナは小さな声でそう言ってレヴィンを肘でつついた。そこには隅のテーブルで一人食事をとるビッツの姿があった。

さっきの礼を言うため三人が歩み寄ろうとしたそのとき、ビッツと同年代とおぼしき二人の少年がやってきた。


「また今日も一人かよ 」

少年達はビッツのテーブルを囲んだ。

しかしビッツは彼らを見る事無く黙々と食事を口に運んでいる。


「なんだ、無視か?それとも聞こえねぇのか? 」

彼らの中で一番体格の良い少年がテーブルの上に腰をかけたので、ようやくビッツも彼らに目を向けた。


「おまえの父ちゃんまだ帰ってこないのか?」

体格のいい少年はビッツに小声でささやいた。


「帰ってくるはずないだろ。頭がおかしくて捕まったんだから。今頃牢屋の中さ」

もう一人の背の低い少年が、悪意をこめた口調でほくそ笑んだ。


「お前達……」

歩み寄ろうとするレヴィンをカルタスが止めた。

「俺たちが行ったとしても、あいつのプライドを傷つけるだけだ」

確かに自分達が追い払っても、その場しのぎでしかないし、かえってビッツの立場も悪くなるに違いない。レヴィンは拳を握りしめてぐっと耐えた。


「世界が丸いんだって?じゃあ俺たち立ってられねえじゃん」

少年達は大声をだして笑った。


「そうやって笑っとけよ。お前らのイカれた頭じゃ考えたってどうせ分からないからな」

ビッツは平然とした表情でそう言ってのけると、席を立とうとした。


「なんだと!イカれてるのはお前の親父だ!」

少年はそう言ってビッツの胸ぐらを掴んで叫んだ。

「お前も、お前の兄貴もみんなイカれてるだろ!」


「兄ちゃんは関係ない!」

ビッツも少年の胸ぐらを掴み返した。だがとっさにもう一人の少年がビッツの足を払ったので、その場に倒れ込んでしまった。そして体格のいい少年はそのままビッツに馬乗りになった。


「バカは痛い目に遭わさないとわからないからな! 」

少年が拳を振り上げたその時だった。


「あんたたち、いい加減にしなさいよ! 」

カリーナが背後からその拳を受け止めた。


「邪魔するなよ!お前誰なんだよ! 」

少年はカリーナを睨みつけると立ち上がった。


「え、誰?誰って、も、もちろんこの子の知り合いよ! 」

カリーナは動揺を悟られないようわざと語気を強めると、両腕を組んで少年を睨み付けた。


「そっか、お前はいつも女に助けてもらってるのか」

少年は薄ら笑いを浮かべビッツを見下ろした。

「わりぃわりぃ。女が味方についてるなら最初から言えよ。さずがに俺たちも手を出せないや」

その小馬鹿にしたような笑みはカリーナたちの怒りを誘った。しかし一番怒りを覚えていたのはやはりビッツのようだ。彼は歯を食いしばり、少年らを睨み付けていた。


「またな。女の子と仲良くしろよ」

もう一人の少年がそういい残すと、二人は店の外へと出て行った。


「大丈夫? 」

カリーナは床に尻餅をついていたビッツに手を差し伸べたが、ビッツはその手を払いのけると、ズボンの埃を払って立ち上がった。


「あんなやつら、好き勝手に言わせておけばいいんだ。いつか自分達の間違いに気付いて、俺に謝りに来るさ」

彼は急に冷静な口調になった。強がっているというより、本心でそう思っているように見えた。


ビッツはカウンターで清算を済ませると

「もう構わないでくれよ」

そう言い残して、店を出て行った。


「あーあ、余計な事しちゃったな」

スピーノがそう呟いた。

「でもあのまま見過ごす訳にはいかないでしょ」

カリーナは困惑した様子で三人の方を見た。


「ん?何か落ちてるぞ」

レヴィンが床に落ちていたものに気がついて拾い上げた。

それは伸縮式の小さな望遠鏡だった。すでに持ち手の革はすり減り、鏡筒も傷だらけだ。レヴィンは望遠鏡を覗き込んだ。

「あいつのかな」



「このあとあいつの家に行くから届けてやればいい」

カルタスは側の椅子に腰をかけるとボロボロのメニューを手に取った。

「まずは腹ごしらえだな」

スピーノとレヴィンも腰を下ろした。だがカリーナだけは少年が出て行った方向をしばらく見つめていた。



 ボッツの家は沿岸部の漁師らが住まう地域にあった。

どの家も鉄板の屋根が錆びてみすぼらしく、お世辞にも綺麗とはいえない町並みだ。


「ここか」

ボッツの家はその中でも外れの地域にあった。

玄関、と言うのもはばかられる入り口の引戸はすでに傾き、隙間風が吹き込んでいる。

そこから中を覗き込もうとしたスピーノをレヴィンが止めた。


「一応ノックするか」

そう言ってカルタスはドアを叩こうとした。


「そこにいるのは誰だ? 」

中から急に大きな声が聞こえたので、カリーナは驚いて一歩下がった。


「ボッツさんのお宅ですよね」

ほどなくして引戸が開くと、そこには同い年くらいの青年が立っていた。

背が高くてやや細身だが、腕まくりした二の腕はやはり海の男らしくたくましい。

前髪を後ろに流して額を現した髪型は、太くて凛々しい眉毛をより際だたせていた。

そして彼の勝ち気な黒い瞳は、ビッツと似ているようにも思えた。


「何か用か? 」

彼は明らかに不機嫌な態度で、言葉もぶっきらぼうだった。


「昼間、勘違いされて危なかったところを、ビッツ君に助けてもらったんです」

カリーナは彼の威圧感に押されながらも端的に答えた。


「そうか、で、それだけ? 」

それを聞いても彼は表情一つ変えなかった。その表情から面倒くさいという雰囲気がひしひしと伝わってきた。


「あ、それと、そのあとにこれを拾ったんですがビッツ君のではないですか? 」

そう言ってカリーナは望遠鏡を差し出した。


「ああ、あいつのだ渡しとく」

青年は礼も言わず、望遠鏡を手に取るとそのまま扉を閉めようとした。


「ボッツさんに頼みたいことがあるんだ」

レヴィンが急いで要件を伝えた。


「親父に?残念だけどいないよ」

青年は構わず扉を閉めようとする。


「はい。仕立て屋のピコさんから事情は聞きました。実はボッツさんに助けてもらいたかったんです」

カリーナは必死に訴えかけた。


「助ける……どういうことだ?」


「実は王国の奴らに命を狙われている。できれば船でユーノスまで乗せてもらえないだろうか」

カルタスの願いを聞いて、青年はふんと鼻で笑った。

「なんでお前達の為に、俺が危険な橋を渡らないといけないんだ。第一ユーノスまで何日かかるか分かってるのか」


「でもおばば様はボッツさんならきっと力になってくれるって……」


「親父ならな!だけど俺は違う! 」

青年は大声で否定したあと、カリーナ達を睨みつけた。

「俺はあいつみたいに夢ばっか見て、現実を見てないお人好しとは違う……帰ってくれ」

そう言い残すと目一杯の力で扉を閉めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ