共同生活を始めた女
人物まとめ
日向 ゆき(19歳): 不幸な主人公。大人しい大学生。
五月七日 怜(24歳): 刑事。現在は眼鏡を着用している。ゆきと2年前に会ったことがある。冷たい印象をもたせる美男子。
高橋 真奈(20歳): アイドル志望の短大生。黒髪ロングで清楚な雰囲気をもつ。
池辺 愛子(30歳): OL。背が低い、ショートカットの和風美人。
和田 百合絵(27歳): 看護師。スレンダーで背が高めの、茶髪ロングのギャルのような人。
宗 健一(23歳): 写真家。茶髪、高身長の愛嬌のある青年。
盛岡 康(32歳): 消防士。短髪、ゴリラ顔、筋肉マン。
真山 圭吾(28歳): アパレル関係。黒髪を後ろでしばっているオシャレでチャラいイケメン。
橋爪 亮介(35歳): 経営者。黒髪で、日焼けした中年男性。態度がでかい。
樋田 翔(32歳): ツアーガイド。童顔で中肉中背の優しげな男性。
ロイ: 料理人。強面で大柄の茶髪に緑色の瞳の、白人。留学をしていたため、片言だが日本語は話せる。
エドナ: 使用人。ロイの妻。ふくよかな体型の茶髪に茶色の瞳の白人。大人しそうな女性。日本語は全く話せない。
ソールディス(20歳):使用人。ロイとエドナの娘。茶髪に緑色の瞳をした白人。背は小さく、少しぽっちゃりとしている。日本語は少し話せる。
マルガリューテ(21歳):使用人。ソールディスの友人。高めの身長とメリハリのある体に、金髪に碧眼、迫力のある美女。日本語を学んでいるため、比較的流暢な日本語を話せる。第一発見者。
金元 智: 死亡。
ゆきは誰が金元を殺したかどうかなんて、あまり興味はなかった。
だいだい犯人はあの人なんだろうなぁとは思っているが、それは証言を書記している時に偶然分かってしまったからだ。意図的に犯人を特定しようとしたわけではない。
きっと犯行動機は個人的な恨みつらみであり、犯人は金元だけを狙ったのだ。
無理やり、思い込ませていた。
だって、死ぬ前にオーロラを見たいと思って、わざわざ来た海外旅行。
その旅行で、今までの事件のように人が数人死んで、自分の命も危険にさらされる、なんて。
そんなひどいことはないはずだ。
コテージで死ぬ人間は金元が最初で最後なのだ。
そう思わずにはいられなかった。
しかし、『まずわひとり』とかかれた血文字を見て、ゆきは泣きそうになった。
自分を必死に思い込ませていた矢先に打ち砕かれたのだ。
だが、ゆきは泣くのをこらえることが出来た。
心の片隅では“それだけじゃ終わらない”と身構えていたからだ。
血文字を見て、反応はそれぞれだった。
マルガリューテとソールディスは悲鳴をあげ、お互いを抱きしめあっている。エドナは文字が読めない見たいだが、不吉な血文字に怯えており、ロイが慰めるように肩を抱いている。
「なんなんだよ、これは!誰だよ!」橋爪はワナワナと震えて、周囲を睨みつける。
池辺は腰が抜けたのか座り込み、マナは震えながらゆきの服を掴んだ。
同じく真山も「マジこえーよ」といい、突っ立っている盛岡の服を掴む。
「一体どうしたら・・・」と樋田が頭を抱えた。
「うわっ。これ本物の血じゃん」と和田が眉をしかめた。
宗は「ひとりって・・・どういうこと」と呆然と呟いた。
そして、五月七日は、まじまじと包丁を見ていた。
一同は一度、居間に戻る。
すでに早朝の5時。
外は相変わらずの大雪だ。
皆疲れきっていた。
和田は「あー眠い、ねむい」と呟き、盛岡に至っては寝ているかはわからないが目をつぶっている。
「一体、どうするんだよ・・・名探偵さんよぉ」と橋爪が疲れた様子で言う。
「先ほどから言おうか悩んでいたが、俺は探偵じゃない。刑事だ」と五月七日は返す。
「もう探偵でも刑事でもいいから助けてくれよ・・・」橋爪が初めて弱々しい口調で言う。
五月七日は話しはじめる。
「凶器はキッチンにあったナイフで間違えはなさそうだ。となると、犯人はキッチンに行き、ナイフを置いた。その後、部屋に戻り居間に向かったか、直接居間にいる俺たちと合流したか、部屋で寝たフリをしたかのどれかだ」
さらに五月七日とゆきしか知らないことだが、五月七日が持っている、金元が掴んでいた犯人の黒の短い髪の毛。そしてマルガリューテが、犯人の影が食堂に行くのを見たという証言に照らし合わせるとーーー。
まず、黒髪のショートカットは池辺、橋爪、樋田、五月七日。
この4人が犯人候補である。
次に、マルガリューテの証言から、マルガリューテが来る直前まで犯人は居間にいて、キッチンに移動したと考えられる。そして、マルガリューテが悲鳴をあげて、すぐに五月七日と宗が駆けつけた。その後も居間に人々が集まってくる。
マルガリューテが悲鳴をあげてから停電になるまでの間に人々が次々と階段を降りてきたので、犯人は部屋に戻るのは不可能だろう。
つまり、犯人はキッチンから直接居間に来て皆と合流したか、停電になった際に部屋に戻り寝たフリをした可能性が高い。
ここでまた人数が絞れる。
まず、2人で居間に来た人達は、同じ階から合流して来たので、犯人ではないと言えるだろう。
2人で来たもの達は、五月七日と宗、盛岡と真山、ゆきと池辺。
一人で来たのが、樋田と橋爪だ。
おそらくこの2人の、どちらかが犯人だ。
さらにいうと悲鳴が聞こえてから、外の様子を知ろうと耳をすませていたゆきは、犯人がどちらか、分かっている。・・・多分だが。
けどそれをあえて言おうとは思わない。
何故なら、相変わらず外は大雪で助けを求めることが出来ないし、停電もそのままだ。
もしかしたら、6日後の専用バスのお迎えがくるまで、ずっとこのままである可能性がある。
もしここで犯人を特定する発言をしても、犯人が逆上して襲ってくるかもしれない。
そして、何よりも証拠がない。指紋やDNA鑑定ができないのだ。だから、状況から判断して犯人を捕まえるなんて、ゆきにはできない。
五月七日も犯人をある程度、特定しているのだろう。だが、それを言おうとしないということは、おそらく五月七日もゆきと同じ考えを持っているか、又は、他の違うことを危惧しているのだ。
五月七日は言葉を続ける。
「凶器を見つけることは出来たが、犯人を特定することはできなかった。ある程度、推理はしていても、証拠が何ひとつ無いからだ。と、なると、俺たちにできることは、迎えがくるまでの間、お互いに監視をしながら自分の身を守ること、だ」
「おい、お前、刑事のくせにそれでいいのかよ・・・」と橋爪が力なく言う。
「今はプライベートだからな」と五月七日は淡々と言う。
「たしかに、証拠もなく無闇に捕まえたりして、違ったりしたら、捕まえられた人が可哀想だねー」とマナ。
「けど、お互いに監視して自分を守るって、どうしたらいいんだ?」と宗。
「集団行動、集団生活、だな」と五月七日が言う。
その言葉に真っ先に反応したのが和田だった。
「え、むりむり。なんでこのツアーに参加したと思ってるのよ」
「私も、ちょっと、人より神経質で・・・。集団は、難しい、です」と池辺。
「僕も、皆さんを疑いたくないので・・・」と樋田。
「俺は逆に全員信用ならないね。一人のがましだ」と橋爪。
「俺もだ。自分の身は自分で守れる」と盛岡。
「盛岡がいないんじゃ、俺もいいやー」と真山。
マイペースな人々だとは思っていたが、この状況下で、6人が集団行動、集団生活を拒否をしたのに、ゆきはとても驚いた。
一人になることがどれだけ危険か分かっていないのか、分かっていながら一人でいたいのか・・・。
ゆきにはその6人の心境が分からなかった。
「ちなみに、一人は集団でいるよりも狙われやすい。それでもいいのか」と五月七日がまるでゆきの気持ちを代弁したかのように言う。
「えっ、何それ怖い。えー、まじかー。ねぇ、ゴリー、一緒にいよーぜー」と真山。
「なんでだ?」と盛岡。
「なんでってー。ゴリ、こん中で1番強そうなんだもん。チョー強そう。襲われても筋肉の鎧で立ち向かうんでしょ?」
「なんだそれは。・・・まぁ、弱くはない自信はある。だが、お前を守れるかどうかはわからないが、それでいいのか?」
「いいよー。よっしゃー。ゴリ仲間にしたら俺サイキョー」と喜ぶ真山。
どうやら真山と盛岡は一緒に行動することにしたらしい。何故か真山は盛岡に絶対的な信頼を持っていて、盛岡もあまり嫌そうではない。
しかし、他の4人の“単独で行動する”という意思は変わらなかった。
「リスクが分かって決めたのなら、しょうがない」五月七日は4人にそう言った。
つまり、単独は和田、池辺、橋爪、樋田。
真山と盛岡は2人で共に行動をする。
他の8人は集団行動に了承した。
8人で動くのは難しいため2グループに分かれた。
ゆきは、マナ、宗、五月七日の4人で集団行動をすることになり、あとのロイ、エドナ、ソールディス、マルガリューテも4人で集団行動をすることとなった。
「問題は、包丁などの危険な物と、マスターキーの管理方法だ・・・」と五月七日が悩むように呟く。
「皆の見えるところに置いとくとか?」と宗が言う。
「そうしたら、もし犯人がその場にいる人間を殺そうとしたら、簡単に凶器を持たれてしまう」と五月七日。
「あのー、スタッフルームに鍵であける金庫があるよ」とマルガリューテ。
「丁度いいじゃない。金庫で管理すれば?」と和田。
「けど、だれがー?」とマナ。
「金庫の鍵を持つものが犯人であればまた被害者が出るだろうし、犯人じゃなくても犯人が凶器を欲しいがために鍵を持つ者を襲う可能性がある。俺が持っていてもいいが、どうする?」と五月七日。
「もう、それでいいじゃん」と真山が言う。
「俺もそれでいいと思う」と盛岡。
「刑事さんなら安心だわー。さんせー」と和田。
しかし、ゆきは安心できなかった。
「それって、五月七日さんと行動する私たちにも危険が及ぶってことじゃないですか?」
あまり主張をしないゆきが、五月七日を見て、尋ねる。
五月七日の端正な顔立ちが、ゆきに向けられる。
透き通っていて綺麗な瞳がゆきを貫いた。
「大丈夫だ、君は俺が守る」
一瞬何を言われたか分からなかったゆきは、少し固まり、そしてカァッと顔が赤くなるのを実感した。
「ああ、間違えた。君たち、だな」と五月七日が言い直す。
「そ、それはありがたいです・・・」ゆきは小さい声で言った。
そして、実は五月七日はタラシなのか?と心の中で呟いた。
空気を変えるようにロイが口を開く。
「みんな!わすれてるよ。ごはん、どうする?ナイフないと作れないよ!」
「あ」と各々が呟いた。皆、失念していたようだ。
話し合った結果、ロイさんのみ果物ナイフを使用可、ということにした。
何故果物ナイフになったかというと、アーミーナイフは、あまり刃物としては役立たず、食物を切ることができないからだ。
通常時は、金庫にいれておくが、料理をするときは、ロイさんが五月七日に声をかけて五月七日が金庫から果物ナイフを取り出す、ということになった。
ロイさんの元へ行けば、軽食を振舞ってくれるという。
こんな時でも、皆の食事を考えてくれるロイさんがこのコテージの中で一番すごい人ではないか、とゆきは思った。
しかし、ロイが使っている時に、その果物ナイフが犯人に奪われた時が心配だ。
ゆきは、自分のハート型の防犯ブザーをロイに渡し、使い方を教えた。
もし襲われそうになったり、奪われたら、絶対に鳴らすように念を押した。
周りの人には、そんなものまで持っていたのか、と何故か感心された。
あとひとつ、ルールが出来た。
単独の人々は安否が分からなくなる可能性があるため、夜8時になったら全員居間に集まり、安否の確認をする、といったルールだ。
皆、了承した。
そして、話し合うことがなくなり、疲れきった人々は解散することにした。
単独の人たちは各々の部屋に戻る。(その際、五月七日が絶対に鍵をするように忠告をしていた)
真山は盛岡の部屋に荷物を持って行っていた。
ロイ達のグループは、2階のロイとエドナの部屋を使うみたいで、ベッドと荷物を協力して移動をさせていた。
ゆき達のグループは3階のゆきの部屋を使うことにした。単独で行動する女性達に何かあったら、すぐ駆けつけることができるように配慮をして、だ。
マナの部屋のベッドをゆきの部屋にうつす。そして、ゆきの部屋にマナと五月七日と宗の荷物が持ち込まれた。
こうして、変な共同生活が始まったのだった。