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女の話を聞く男(名探偵視点)




精神病質者(サイコパス): 極端な冷酷さ、無慈悲、エゴイズム、感情の欠如、結果至上主義が主な特徴とされている。一見、人当たりの良い、魅力的な人間にみえる。連続殺人犯(シリアルキラー)で有名なテッド・バンディーなどは凶悪犯罪型サイコパスといえる。しかし、ごく普通の人物として私たちの中に紛れ込んでいることが多い。(Wikipedia、サイコパスとは何か?から抜粋)


※この話で登場する組織は実在しますが、人物等はフィクションです。








あの時もそうだった。


山のペンションにて起きた殺人事件。


当時高校生だったゆきだけが、異様に冷静に周囲を眺めていた。


それは、まるで、自分のように・・・。


彼女のことを気にならないはずはなかった。






ゆきは、少し目を離したら消えてしまいそうな、そんな人だった。


あまり多くは語らず、大人しい性格。

痛んでいないので地毛であるのが推測される色素の薄い髪の毛や、白い肌、そして小柄な身体が、ますます儚い雰囲気を助長されていた。



こういう人物は、殺人などを目の当たりにするとひどく脅えそうなイメージが怜にはあった。


しかし、思いのほか、彼女はあまり動揺は見せなかった。

むしろ、誰よりも凛としてしていた。


山のペンションの時もそうだが、今回のこのコテージに起きている事件においても、彼女は人々に“自己紹介”を提案していた。


自己紹介をすることで、人間は仲間意識が出てきて、少しは気を落ち着かせることが出来る。また、周囲の人間を把握し、情報を整理するためにも有効だった。


ゆきがどれを意図して提案したのかは不明だが、どちらにしても聡明であることには違いない。


最初は、ゆきが精神病質者(サイコパス)であり、彼女自身が殺人をしているのではないか、と疑った。


女性にはサイコパスは少ないと言われているが、彼女の人の死に慣れているような振る舞い方が怪しいと思ったのだ。


疑ってみたものの、どう推理をしてみてもゆきが犯人である可能性は極めて低かった。







ツアー客にゆきがいることには最初から気付いていた。


それとなく観察をしていたが、どうみても普通の女の子で、山のペンションの時に感じたものは思い違いだったのかと安心をしていた。


しかし、殺人事件が起きた時、ゆきはやはり、“あの時”のゆきだった。


やはり、そこでも、ゆきがサイコパスで虫をも殺さぬ顔をしていて、その裏で人を殺してたんではないかと疑念が浮かんだが、明らかにそれは考えにくかった。


決定的な証拠はないのだが、推理と状況証拠で、犯人がだいだい分かっているからだ。


だから、彼女は、恐怖などの情緒が少し欠けている聡明な女の子なのだ、と思うようになった。


そうなると、彼女は不幸なことにも、偶然怜と一緒のところに旅をしてしまった結果、殺人事件を2回経験してしまった、ただのかわいそうな女の子だ。


運命共同体ともいえるだろう。


何故か“仲間”として異様に親近感を持ってしまった。


そして、仲間である(怜が勝手に思っているだけだが)ゆきは、誰よりも用心深い。コテージにいる中で最年少に関わらず、危機管理能力が異様に高かった。


人々の命を守らなければ、という重い責任感がある怜には、それに救われた。


自分は殺されないはずだと楽観視する人々の中に、ゆきみたいな人が1人いるだけで、心は軽くなった。



彼女は見た目に反して守られるようなタイプでもないが、そんな危機管理能力が長けている彼女こそ絶対に守ってあげたいと思った。


そう思ったのは刑事としての責任感か、その他の理由なのかは自分でもよく分からない。







そんな、聡明であまり人の死に動じないゆきに、自分の体質について話してみようと思った。


“名探偵のいるところ、必ず事件あり”


怜が行くところには必ず殺人事件があるのだ。


一時期、週刊誌などで話題になった。


そのせいで人々は、遠まきに見るものの、怜に近づかなくなった。


そのことに、怜は確かに寂しく感じた時期はあったが、事実なのだから受け入れる他なかった。週刊誌は嘘をついてはいないのだ。



しかし、彼女はどうなのだろうか。


怜から離れようとするのか、そんなバカな話はあるかと相手にしないのか、それとも人の死を目の当たりにした時のように動じないのか。






ゆきの反応はどちらでもなかった。


頬を桃色に染めて、少し微笑んだのだ。


バカにしている様子でもない。


まるで、嬉しそうな表情だった。


その表情に、怜は不思議に感じたが、話を続けた。



話を聞いたゆきは、サイコパスな殺人鬼のメアリー・ベルの有名な言葉を呟いた。


そして、彼女は、その後に思っても見なかった言葉を言う。


『あなたが・・・怜君が、いなくても、

この事件は絶対に、起きた』


そう、断言したのだ。


そして、その後も、予想外な言葉を怜に投げかけた。


『刑事の、田子さん知ってる?

小さい頃から、お世話になってるの』と。















“田子”とは、エリートがいる捜査一課の、さらにエリートである特殊犯捜査係の警部補だ。


まさにエリートの中のエリートなのだが、田子は一見そこらにいそうなおじさんのような風貌と、気さくさを持っていて、親しまれている。



特殊犯捜査係とは、人質立て篭もり事件、誘拐事件などを担当してる機関だ。


日本においては、あるハイジャック事件が起きてから設置をされるようになった。


他にも、広域にわたる重大事件やテロ事件などの捜査指揮などをし、非常な大きな役割をもつ。


その、田子と、小さい頃からお世話になっている?


一体、どういうことだ?


怜は混乱した。



「親戚か何かか?」


怜が、ゆきに尋ねる。


ゆきは首を横に振った。


「違うよ。あかの他人。だけど、いつも会う度、親戚のおじさんみたいに“大きくなったなぁ、ゆきちゃん”って言ってくれる」


その様子を思い出したのか、クスッと笑う。


「なんで、あかの他人なのに、いつも会うんだ・・・?」


怜には全く予想がつかなかった。


「事件現場に私がいるから、会うの」


ゆきのその言葉に、怜はまた息をのんだ。









ゆきは先ほどの怜のように、生い立ちを静かに語り始めた。


幼稚園の頃の、誘拐事件。


小学校の頃の、小学校人質立てこもり事件。


中学校の頃の、校庭で起きた無差別爆撃テロ事件。


高校の頃の、怜も知っているペンション殺人事件。


そして、大学生になってからの、銀行強盗人質立てこもり事件。


夏休みにあった、新幹線運転士殺人事件。

新幹線運転士殺人事件でも人質になったという。


なるほど。

田子さんとも知り合いであるはずだ、と怜は納得した。



「だからね。怜君がいなくても、この事件は絶対に起きた。

私がいるから」


ゆきが自虐的に、笑った。


怜はゆきのその顔をみて、自分もこんな顔をしていたのか、と思った。



そして、心が痛んだ。


何故なら、彼女の反応が見たいがために怜の生い立ちを話したのだが、そのことで彼女も辛い過去を話さないといけなくなった。


彼女をこんな表情にしたのは、紛れもなく怜のくだらない好奇心のせいだった。


「すまない、君にそんな顔をさせてしまった」


怜が静かに謝ると、ゆきは微笑んだ。


「私、嬉しいの」


「・・・何がだ?」


「田子さんがずっと言ってたの。

“君は自分が不幸だと思っているかもしれない。確かに人より不幸だ。だけどな、上には上がいるんだ。知ってるか?引っ越す度に、引っ越し先で大震災に遭う男の事を。そんな奴がいるくらいだ。君と似たような不幸に遭っている奴が絶対いるさ。頑張って生き延びたら、生涯のうちに、そんな仲間と会えるかも知れないぞ”って」


ゆきは言葉を一旦切る。


そして、怜をじっと見つめた。


「田子さんには失礼だけど、いるわけがないって心の中で思ってたの。

だけど・・・、だけど、田子さんの言う通り、本当に“仲間”がいた。不謹慎だけど、すごく嬉しく感じたの。ああ、私だけじゃないんだなぁって安心した」


そのあと、何故か、ゆきは「ありがとう」と呟いた。



その言葉を聞いて、怜は、心が震えた。


彼女の言葉は、まさに怜の存在をまるごと包むかのようだったからだ。


そして、微笑んでいるゆきを見つめていたら、何故か、目頭が熱くなるのを感じた。






こんな、気持ちになるのは初めてで、怜は戸惑った。


しかし、ゆきから目を離すことは出来なかった。



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