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STEP.15 パルフェ・インパクト

ムゲンテイオー陣営は、とあるレースのVTRを見、唸っていた。



「…スタートしました、おおっと圧倒的一番人気、パルフェヴェリテが逃げます、ぐいぐい後続を引き離しこれは大逃げか」



それはパルフェヴェリテの新馬戦だった。



新馬戦で大逃げ。



無謀とも言えるこの戦法さえ、パルフェヴェリテはパフォーマンスの一環にしてしまう。



「…引き離していますが、騎手は全然追っていませんね」



沙良が言った。



「テンの脚が違うんや、これでもパフェは馬なり同然、正に『天の脚』…」



栄太郎もパルフェヴェリテのテンに感嘆する。




そのまま隊列が特に変わることもなく、レースは平均ペース。



そして後ろの馬がパルフェヴェリテのメッキを剥がそうと動いた瞬間、パルフェヴェリテもスパートを仕掛けた。



スタンドから悲鳴が上がる。



まだまだ5馬身はリードがあるのに、なぜ直線に入ったばかりの今追い出すのか。



が、悲鳴はすぐに歓声に変わる。



パルフェヴェリテの脚が、ピッチを上げていく。



そして、他馬を突き放す。



差は、詰まらない。



「…先頭はパルフェヴェリテ!パルフェヴェリテっ!二番手は…見えません!遥か地平線の彼方!パルフェヴェリテ一人旅!ゴーールイン!パルフェヴェリテが圧倒的支持に答えて一着!」



大差のゴールイン。それだけでも素晴らしいが、更にそれを印象づける要因となったのが。


「え?え?今…パルフェヴェリテ、鞭使ってませんでしたよね?」



「ああ。追っただけやな。流石に次のレースでもムチなしという訳にはいかんやろうが…」



パルフェヴェリテにムチを一切使っていなかったという事実。



圧倒的な力の差を見せ付ける、パフォーマンスとしてはこの上ないデビュー。


「…そして大幅に遅れて二着馬が今ゴール、大差に間違いありませんがざっと…20馬身は引き離していましたでしょうか、恐ろしい馬です、怪物です!」



怪物。正にその一言に尽きる。



パルフェヴェリテのデビューは強烈すぎて、「あいつがロンシャンを走ったら一体どうなるのか」、「来年のダービー馬じゃないのか」といった早すぎる声もちらほらと耳に入る。



「まいったもんやなあ、まさかこんなけったいな馬がムゲンと同世代に居るとはなぁ。後一年ずれてたら…いや、考えるんや。アイツを倒すムゲンのイメージを…」



栄太郎の胸に、一瞬諦めに似た感情がよぎるも、すぐにそれを振り払ってムゲンテイオーを見る。



「…うん、やっぱオレがどうかしとったわ。ムゲンが負ける筈ない。何せこんなに気品と自信、それから威厳に満ちた馬は見たことがあらへん…」


それはテレビの画面越しでは絶対に伝わらない、内なるもの。



「よし、決まった…お前の次のレースは京都の黄菊賞や」



※黄菊賞…京都 芝1800mの500万下条件戦。



「黄菊賞…ちょっと距離が延びますけど、ムゲンなら大丈夫ですね!」



沙良が確信を持った声でいう。



「ああ。それからローテ的にもパフェが出てくることはないやろ。今のムゲンじゃあいつとは勝負にならへん」



珍しく栄太郎が弱気な発言をしたと思いきや。



「対決は三歳になってからや、こっちはこっそりと力を蓄えさせて貰うで」



密かに刃を研ぐ準備を始めていたのだった。



その後パルフェヴェリテは格上挑戦の京王杯二歳ステークスを余裕を持って制覇した。



ムゲンテイオーも黄菊賞で海堂を背にアタマ差の辛勝、と見せかけた楽勝。



「……ん、えらいえらい…」



海堂に首の付け根を優しく叩かれ、ムゲンテイオーは誇らしげに目を細めていた。




「先生!やりましたね、ムゲンが勝ちました!これで朝日杯に出れますよ!」



晴れてオープンクラスとなったムゲンテイオーの走りに興奮しながら、沙良がそう言った。



朝日杯フューチュリティステークス。



二歳馬たちが初めて挑むG1の大舞台だ。


ここの勝者が、王者としてクラシックの主役に立つのである。



だが、栄太郎はこう言う。



「…いや、朝日杯は出ずにホープフルステークスを使おうと思うとる」



「えっ!?どうしてですか」



沙良は驚いた顔をしてそう尋ねる。



「…まだ阪神開催になってからあまり経ってへんからなんとも言えんが、実を言うと朝日杯の勝ち馬がクラシック競走も制した例はナリタブライアンから、ロゴタイプが皐月賞を勝つまで20年近く無かったんや」



「20年…」



「そのロゴタイプも、皐月賞の後は良いとこはあらへんかった。つまりや。ほんまにクラシックを狙う馬はホープフルステークスに流れるんや。だからそっちに出た方がええ」



「成る程…でもクラシックを狙うってことは、パルフェヴェリテもホープフルステークスに出てくるってことはありませんか?」



栄太郎の説明に納得しつつも、最大の驚異パルフェヴェリテの出走を危惧する沙良。



「心配あらへん。京王杯のレース後に、馬主から正式に朝日杯に向かうことが発表されとる。まあ、パフェの一人勝ちやろな」



「そうでしたか、だったら心配いりませんね!勢いに乗って、ホープフルステークス、頂いちゃいましょう!」



「せやな。だけどもさっきも言うたが、ホープフルステークスに出るのはクラシックを見据えた素質馬や。いよいよムゲンも手を抜くわけにはいかんやろな」



「と、いうことは…」



「一回本気で走ってもらうで。クラシック候補たちとどれだけやりあえるのか見ておきたいからな」



「…!じゃあ、私も気合い入れて仕上げて上げないといけませんね!」



栄太郎の言葉で沙良が自らに気合いを入れる。



「おお。100%の仕上がりを期待しとるで」



「はい!」



ムゲンテイオー二歳最後のレースは、G2、ホープフルステークスに決まった。



クラシックを見据えた、距離の経験という点でも、血統的な適正としても問題のないレース選択だ。



だが、ファンの目が集まるのはまずその前、若駒の大舞台・朝日杯フューチュリティステークスである。





12月3週 阪神競馬場 滞在厩舎



「おはよう、パルフェ」



厩務員の声で、額に小さな星のある青鹿毛の馬がゆっくり目を開いた。



「いよいよ朝日杯だ。君はいつも通りやればいい」



厩務員は微笑みながら、パルフェヴェリテにそう言い聞かせる。



「ほら、朝飼いだよ、しっかりたべろ」



飼い葉桶を見ても、厩務員を急かすことはなく、それがしっかりと自分の馬房に取り付けられたのを見てから、パルフェヴェリテは顔を入れて飼い葉を食べ始めるのだ。


「やっぱ、いつ見ても上品だ…それからこの堂々とした振る舞い、俺も見習いたいなぁ…」



厩務員はため息を着き、パルフェヴェリテの仕草に見とれていた。



「ブルル」



その内、パルフェヴェリテが鼻を鳴らす。



「おっと、ごちそうさまか…ありゃ、残してるなぁ、男なんだから、もうちょい食べろよな…って無理だよな、はは、片付けとくからな」



立ち去っていく厩務員を、パルフェヴェリテは申し訳なさそうに見つめていた。




そして午後三時、規定時刻となった阪神競馬場。



そのパドックに、ゼッケン「10」を着けたパルフェヴェリテは堂々と姿を現した。

登場馬整頓 File2


パルフェヴェリテ


牡2 青鹿毛(小星)脚質・逃げ


父ディープインパクト

母ミスボブキャット

母父Storm Cat


戦績2戦2勝(2016年11月末時点)



キズナやデニムアンドルビーに代表される、ディープ×ストームキャット牝馬の配合。


青鹿毛の馬体は祖父・サンデーサイレンスの様だが、気性は大人しく、肝が据わっている。


今のところは2戦ともスタートからテンの違いで先頭に立ち、大差を付けて圧勝している。


その血統背景、強さから2017年クラシックの主役の呼び声も高い。

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