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コンプレックスな反逆者たち  作者: ゾンビ―鈴木
第三章・竜と狩猟の世界編
88/114

二つの知らせ

突然ですが、少々回想が……

それでは、どうぞ

――――――――――シアンが聖地に留まっていた頃――――――――――


  Side:歩


 いやーまさか長い人生の早いうちにこのような経験をするなんてね~。

 人生、ホントこの先なにが起こるかわからないってもんよ。


「ほい、アユム」

「ん? なんだ?」

「本来ならこういう事はそう簡単には許されることではない。同じここの住人にはもちろん、よそ者などもってのほかじゃ」

「うむ」

「だが、お前は我らに多大な恩がある。お前であり、一度限りだからこそ許されたことだ。心して行けよ」

「いやー本当にありがとうございます、長老」


 ここは、おなじみドデカイ竜の骨を中心とした人間の集落。

 断崖絶壁の岩山の頂上だなんて面倒な所にある、竜が踏み込めない『聖地』と呼ばれたところ。

 おれっちはその集落の中の建物の外で、長老っつー人間の中のお偉いさんと共に、ある場所へと向かっていた。

 先ほどの会話のとおり、普段なら許されないところだ。


「さて、ついたぞ」

「…………おお」


 集落の中を歩いて着いた所は、おれっちが想像していたよりも美しいところだった。

 聖地の中心である巨大な竜の骨の近くにそれはあった。

 竜とか原始人とかそういった時代にはやや似合わない建物である。


 その特徴、まさに美しく妖しい。

 他の建物のような無骨な組み立てとは違うきちんとした曲線が主な様式。

 屋根に飾られたいわくものっぽい仮面。

 入り口から漂うはお香のような香り。


 いかにもそれらしいところへ着いたな。


「長老。ここが……」

「ああ、ここが我らの誇り……ステイア様の住まう所じゃ!」


 興奮するように長老は言っているがおれっちにはただこの建物の妖しい雰囲気に見惚れていた。


 ……さて、いきなりすぎるこの状況にいったい何なのかわからないよな。

 と言う訳で説明しよう!


 謎の原始時代っぽいところへ彷徨った現代っ子なおれっちこと宇城うじょうあゆむは、元の世界に帰る手掛かりを得るため、この集落に何かないかと探っているところだ。

 なんっつーかいろいろと珍しいものがあったけどつい先日、中央の竜の骨の近くに巫女シャーマンっつー女がいるらしく長老に『どうか彼女に合わせてください!』と、故郷伝統の土下座まで披露してようやく許してもらった。

 いやだって、おれっちやととがここに来ることになった摩訶不思議穴のような非現実っぽいものを何か知っているっぽいし……


 とまあ、なんだかんだで現在建物の目の前まで来たんだけど……


「しばし待て。確認に行ってくる」


 と、おれっちを置いて先に建物の中に入っていった。

 そして、しばらくすると……


「…………? なに?」


 ん?

 なんか建物の中から声が聞こえてくるが……

 片方は……長老だよな。


「……なんですと!? そのようなことをする必要があるのですか!?」


 ……おいおい、なんだなんだ?


「しかし……それではあなた様が…………!」


 もう片方の声は聞こえないが……巫女さんだよな。

 あ、いや、こっちではシャーマンか。


「……はい、わかりました。失礼します」


 おや、話は終わったようだな。

 なんだか長老でも敬語で喋るっていったい……

 あ、長老が出てきた。


「……アユム」


 ……うわ、不機嫌だ。

 顔にしわがめっちゃ寄ってる。


「ここから先はお前一人だけだ。お前だけでステイア様に会いに行きなさい」

「……え?」


 おれっちだけって……

 ……てっきり、長老も同伴するんかと思ったんだが……


「ステイア様はお前と一対一で話し合いをしたいそうじゃ。なんとも……遺憾ながら……」


 ……おいおい。

 長老、なんかすごく悔しそう。


「いいか!」

「うお!?」

「我らが誇りのステイア様になにかあったら許してはおけないからな!」

「お……おう……」

「失礼な言葉とか言うんじゃないぞ!」

「お……う……」

「来やすく触ったりとかするんじゃないぞ!!」

「…………」

「あと、なれなれしく呼び捨てで名前を呼ぶんじゃないぞ!!」

「…………」


 ……釘刺しすぎだろ長老。

 もしかしてそのシャーマンって結構繊細?


「まったく……なぜステイア様はいつもいつも儂に顔を合わそうともせず帰れ帰れなんて……」


 おーい長老。小声で言ってるつもりでも丸聞こえだぞ。

 あ、行ってしまった。なんか背中が寂しそう。

 多分あれはいじけてるな。構ってほしい的な……


「…………まあ、行くとするか」


 おれっちは目の前にある、可憐でいてどこか妖しい建物の中に入っていった。



――――――――――――――現在――――――――――――――――



 Side:藍


 タイミングがいいか悪いか、突如現れたアユムの口からは信じられない言葉が吐き出された。


「三日後、人間側が再び翼人に攻めるとのことだ。しかも今度は本気の本気だ」


 先に悪い知らせから言うそうだが、その内容はあんまりなものだった。


「なんだと……!?」

「また……またあいつらが人竜族を殺しにいくというの……!?」

「そう。おれっちには黙っているつもりだろうが、盗み聞きしちゃってね」


 隣でおすわりをするでかい犬の背中を、変わった形状の籠手を着けた手で撫でながら、うんざりするようにアユムは詳細を言う。


「いい加減決着でもつけたいのか、ここ数日間狩りとった竜の死骸を素材にすげー装備を作ってねえ……」


 竜の死骸……!?

 あの硬くて大きい生き物で武器を造るのかよ……!


「人数も結構多いし、どいつもこいつも強そうな奴ばっか集めて……あれは本当にマジの方だな」

「……奴ら、そうまでしてあいつらが憎いか……!」


 なんだよ……

 いくらなんでもそんなの……


「シアン、落ち着け」

「けど……」

「まだ事態が起こった訳ではない。とりあえず最後までアユムの言うことを聞け」


 ……それはそうだけどさ…………

 ……いや、今言ったところでしょうがないか。


「おっ! おっさん、ちゃんとおれっちの名前呼んでくれてんじゃん! そうだよやっぱり……」

「話を続けろ」


 話の途中で喜ぶアユムだが、マゼンタはバッサリと切り捨てて、続きを促した。

 ちぇ、とアユムは不満気ながらも続きを話してくれた。


「いやーまったくもって予想外だよ。よりにもよっておれっちが狩って剥ぎ取った貴重な素材で作った武器をそんなことに使うんだからよぉ」

「ん?」

「おれっちはそんなことのために狩りを手伝ったわけじゃないってのに」


 ……ちょっと待て。


「おい……要するにおまえの所為でこうなったということなのか?」

「え? いやいや……自分で言うのはなんだが、確かにおれっちのおかげで狩ることができた竜はいるし、そのおかげで強い武器はできるわ、さらに強い竜は狩りやすくなるわで安泰かと思ったのだが……」


 ……まあいい。

 ここでこいつをどうした所で、八つ当たりになっちまうな。


「それにどっちかっつーとおたくらの存在もある」

「……あたしたちが?」

「ああ」


 ……そうか。

 オレたちも仮面男と戦っていたから……


「とある人間の戦士曰く、『人竜族の中に見かけない奴らがいる。その中に馬鹿力の凶暴娘がいる』とのことで……」

「…………」


 イ、イエロー…………心なしか震えているような……

 うわー……拳を握ってプルプルしてるよ…………


「と、いうわけでここまでは悪い知らせだ」

「……おお」


 なんかよくわかんないまま締められて終わってしまった。

 ということはここからがいい知らせということになるのか。

 オレも、イエローは期待を込めた声で言う。


「じゃあここからの話は期待してていいんだね」

「…………」


 …………あれ?

 反応がない。


「……おい、なんで黙る?」

「…………いやー」


 アユムはもごもごと口を動かして、どこか気まずそうに……


「理論上ならそれはいい情報かもしれないけど……それを実現させるにはそれなりの頑張りが必要で……」

「はっきり言え」


 ったく、煮え切らないな。

 どういうことだ?


「……はいはい。実はある筋から一度入ると出てこれない謎の穴の情報が出てきた」

「「「!?」」」


 まさか…………!?


歪んだ空間の力場(ゲート・スポット)か……!」

「は? デート・スポット?」


 固有名詞を知らないのかよくわからなさそうなアユム。

 なんだその単語。


「デートじゃなくてゲート。つまり、オレ達やお前がここへ迷い込むことになった黒い穴のある場所の事だ」

「へー。おたくらそう言う風に呼んでるんだ」


 ……理解が速くて助かる。

 アユムも同じ経緯でここに来たのだろう、


「で、まあ改めて言うがそのゲートなんとからしきものの情報を得ましてね。よかったら一緒に帰らないかなーって……」

「……待て」


 ……どこからそんな情報を聴いたんだ?

 なんて疑問は誰も訊かず、マゼンタはアユムが何かを言う前に先に訊いた。


「それは……期限付きのものか?」

「へ? 時間制限の事? いやー別にそんなことはないと思おうぜ」

「そうか……」


 まあ……そうだよな……

 オレ達にはまだやるべきことがある。


「……悪いがアユム。俺達は今すぐ帰るわけにはいかないんだ」

「え?」


 アユムが一瞬何を言っているだと呆ける。


「人間と人竜族の争いを……殺伐な殺し合いを止めないといけない」


 マゼンタ……

 リュチェと約束したしな。


「ある少女が、これ以上自分の家族が殺し合いに出てほしくないと願っている。いつ親が死ぬのかと思うと安心できない状態だ」


 リュチェ……

 父親、過激だったな……


「悪いが歪んだ空間の力場(ゲート・スポット)は教えてもらうが、俺たちはもう少しだけここに留まることに……」

「…………ふふっ!」


 すると、アユムの口端が上がり、ほんのわずかに笑い出した。


「……なんだ?」

「……いやあ、おっさんがそう言ってくれることは分かってる。その上でゲートについて教えるのさ」

「「「え?」」」


 その上でって……どういうこと?


「なんせおっさん。じつはそのゲートなんちゃらってのはな、案外双方のためになるかも知れないんだぜ」

「?」


 ……なに?


「突然だけど、人間と翼人が争うことになった事の発端は聖地と呼ばれる所の奪い合いだよね」

「? そうね。それが今になってかなり大きくなってしまったけど……」


 なんだ?

 なんでここでいきなりそんな話を?

 そういえばこいつも人間には怪我してほしくないとか言ってたが……


「では、事の発端となる聖地をどうにかすればいい」

「?」


 なに……?

 どうにかすればって……


「そもそも聖地とは、ある一つの巨大で神秘的な伝説の竜の死骸が何らかの力を発し、その地を中心とした大地を神格化したものだ」

「ほう……伝説の竜と来たか。大層な話だな」

「だろ? そのおかげで竜を寄せ付けない地と化したのだが……」


 アユムはなんだか大げさな感じに手を振ったりして言う。


「人竜族も人間も、お互い安全に生きるためには聖地が必要。しかし土地は一個しかないし、共生なんてもってのほか! 今すぐにはできないだろう!」


 ……なんか勿体つけた喋りをするなこいつ。

 早くしろよ。


「だが、もしもう一つ聖地はないにしても…………それになりえる竜がいるとしたら?」

「「!?」」


 え? え? どういうこと?

 それって……


「……まさか、作るつもりなのか?」


 恐る恐るマゼンタが訊くと……


「……ピンポーン。そういうこと」


 ……いや、意味が解らないんだが。


「事実。ある筋だとここから遠いが、ある場所に伝説級の竜、《ムシュフシュ》と呼ばれる竜がいるのだが……」


 ちょっと待て。だからある筋ってなんだよ。

 オレが捕まっているときにそんな話聴いた事ないんだが……


「待て待て待て、ちょっと待って!」

「どうしたの? 金髪ねーちゃん」


 マゼンタはもう何をするか察してそうだし、イエローももう何をするのかわかってそうだ。

 しかしイエローははっきりと言葉にするため確認をするそうだ。


「まさか、あんたの言いたいことって……」


 おそるおそる訊くとアユムは真剣な顔になって、


「そう、事の発端である聖地の奪い合い。……ならばもうひとつ聖地を創り、そこに翼人を移せばいいんじゃねえか?」

「「「…………!!」」」


 ……おいおい、なんて作戦だよ。

 けどまあ……確かに人竜族にも専用の聖地があればもう奪還する必要はないし……


「いや、そう簡単にはいかない」


 ……マゼンタ?

 なんか不安がありそうだけど……


「なんだ? 倒すべき竜がどれほど強いかわからないかってことか? まあだから理論上は可能で実現には頑張りが必要って言うけど……」

「違う。そうじゃない」


 …………?

 なにが言いたいんだ……?


「人間も、人竜族も、もはや聖地云々では済まされないくらい激しくなっている。仮にもうひとつ聖地があったとしてそれで争い事が収まると思っているのか?」

「え? じゃあ、仮にあたし達がその竜を狩って人竜族専用の聖地を創っても、問題は解決しないってこと?」


 マゼンタの異にイエローが続けるとアユムが額に手を当てて、


「……あー…………まあ、そうだよな。ここに限らず、人間ってのはどこまでも欲が深いって言う話を聴いたけど……」


 そうか……

 ……確かに、あの夜の襲撃は聖地をもつ人間側から攻めてきていたな。

 もし、新しい聖地があったとしてもあの出来事が起きないとは限らない。


「けど、人間の中にだってこういう事はもう終わらせないといけない人だってたくさんいる」

「それを言うなら人竜族にもいる。第一、人間側は三日後に人竜族を攻めに行くのだろ?」


 悪い知らせといったが、そっちの方だってどうにかしないと……


「……それに関してはおれっちに任せてくれ」

「え?」


 まかせるって……


「もとからこのことについてはおれっちが解決するつもりだ。悪い知らせとは言ったが、一応警戒はしてくれってことだ。……起きろ、とと」


 そう言うとアユムはいつの間にか隣で寝転んでいるでかい犬の背中を叩いて起こした。

 でかい犬がのろのろと大きい体を起こす。


「……バウッ?」

「よし起きた。……あ、そうそう。話を戻すがお前等の言うゲート・スポット? についての事なんだが、開ける方法はたったの二つだ」


 アユムはでかい犬の背中に跨る。

 そろそろ戻るつもりのようだな。


「一つは、聖地にある竜の亡骸の前である筋に頼んで開けてもらう事」


 え? そんな方法なの?

 だからある筋って誰だよ。


「そしてもう一つは、新しい伝説級の竜を倒した途端、死骸から勝手に少しの間だけでてくるそうだ」

「「「!?」」」

「ま、前者の方はおたくら人間に敵視されているから困難だろう」


 ……つまりどの道、その伝説級の竜を倒せと?

 なんて無茶な……


「んじゃ、そっちの方は頼んだぜ。新天地への引っ越しの説得とか色々メンドそうだけど頼むよ」

「説得…………」


 あれ? イエローお前何でそんなにげんなりしているんだ?


「いやだな……もう一回話し合うの……」

「「…………」」


 イエロー、何かあったんだな。

 訊いていいかどうかわからんが……

 気が沈んでいるイエローに構わずアユムは言う。


「正直、こういう問題は一朝一夕でどうにかなる問題じゃない。時間をかけて何とかすることだ。まあおれっちの場合はいつでも帰れる状態だから、問題解決までここにいてやるよ」

「アユム……」


 お前……ここまで人間の事を思って……


「少年」

「ん? なんだ?」


 マゼンタは最後にアユムを引きとめて、低く重みのある言葉で言う。


「死ぬな。気を付けて行け」

「……縁起でもないこと言うなよおっさん」


 嫌そうに頭を振ってるし……

 だが、言葉自体はしっかりと聴いた上で、


「けどまあ、おっさんたちこそお気をつけて……行くぞ! とと!」

「バウッ!」


 アユムのかけ声にでかい犬は向こうへと走って行った。


「…………」

「…………」

「…………」


 ……さてと、

 歪んだ空間の力場(ゲート・スポット)やら、新たな聖域やらでやるべき事が見えたな。


「それじゃあ、どうするの。マゼンタ」

「決まっている」


 イエローの確認にマゼンタは静かに答えた。


「まずは説得だ。少女の父親と話をする」


 ……おいおい。

 これはまた難易度の高い選択を……


「リュチェちゃんのお父さん……」

「いいのか? あれは結構厄介そうだぞ」

「構わん」


 だが、マゼンタは退かないようだ。


「あんな頑固な男説得できなければ、どの道始まらないからな」


 そう言うと、早速オレ達はあの洞窟の方へ向かって行ったのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――



  Side:歩


 さてと、言いたいことはちゃーんといったし、向こうの方はあいつ等が何とかしてくれるでしょ。

 となると、こっち側の問題はおれっちがなんとかしなくては。


「くぅ~~~ん」

「ん? とと?」


 走りながらも弱そうに鳴いている。

 この様子は……


「心配しているのか?」

「ワゥ」


 そうか……お前も心配か……

 そうだよな。正直おれっちのやろうとしていることはかなり危ない橋だ。

 失敗したらおれっち……ただじゃすまないよな。


「……けどな、とと」

「クゥン?」


 あんだけあいつ等に……おっさんや金髪ねーちゃんたちに大見得切ったんだ。

 あとシアン君もな。

 人間側のおっさんたちにはもう仮面をつけて戦う必要はないんだ。

 

 そして……


「……心配いてくれるのは嬉しい。だったらととも一緒に頑張ろうぜ!」

「ウ~~~ワン!」

「よし! その意気だ!」


 もう闘ってほしくないと願う子はこっちもいる!


「だったらとにかく今は走れ、とと!」

「バウォ~ン!」

「いろいろと回りに行くぞ!」

「バウゥ!」


 それに頼まれもしたんだ!

 だからこそ、おれっちは行くぜ!

ちなみにアユムが一緒に帰らないかと言ったのは遠回しな確認です。

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