表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

夜陰の音

作者: Eisei3
掲載日:2026/04/09




 ” ぱさっ、 … ぱさっ、 … ぱさ… ”


 頭の中に、そう(かす)かな音が、一定の周期(リズム)で聞こえている。

 ” ぱさっ、 … ぱさっ… ”


 

 (おぼろ)げな(ゆめ)の中から意識を取り戻すと、私は目をあけた。

 だが、目の前には夜闇しか見えない。

 

 ” ぱさっ… ” …

 微かな音は続く。 ” ぱさっ" ” ぱさっ" ” ぱさっ” …

 押し黙った夜闇の中に、そう、乾いた音だけが規則的に響いている。


 外から射し込む光も無い部屋の中で、私の眼には何も映らない。目を開ける前と同じ、ただの黒い闇だけが広がっている。

 数回瞬きをする。が、何れも同じ闇だけしか見えない。…いや。違う色の闇かもしれないが… 多分、気のせいなんだろう。



 「 ()()()() ! … 」

 はっきりと戻ってきた意識の底で、私はベッドの上に横になったままそう呟く。


 その微かな音は、ベッドの足元の上の方、丁度、和室の鴨居に神棚が祀られている辺りから聞こえてくる。

 ” ぱさっ… ”

 やはり、規則的にその音は続く。


 ” ぱさっ” ……


 この部屋は、亡くなった同居していたお袋(はは)が住んでいた、六畳の和室の部屋だった。


 相変わらず、部屋の中は闇に閉ざされたままで、開いた私の目にも何も映らない。

 私はベッドの上で横たわり、緊張に身を固くし、固まったままでいた。

 恐怖が背中をぞわぞわと、僅かに震わせる。


 「 ()()

 呼吸が(たか)ぶり、荒ぶった自分の鼻息だけが、耳の奥に響く。


 

 やがて、意を決した私は、呼吸を整えると身を(ひるがえ)し、ベッド脇のナイトスタンドのスイッチを押した。

 天井の木目調の模様が、スタンドの電球の光に照らされ、黄色く闇の中から浮かび上がる。

 テーブルの上の、丸い目覚まし時計の針は丁度、午前二時を指していた。


 

 足先に広がる薄暗闇の中に、鴨居の上に祀られている神棚が目に入る。神棚の手前に渡されたしめ縄と紙垂(しで)、それに両脇の白い榊立(さかきたて)にお供えされた真榊(まさかき)の濃い緑色の葉が見えている。

 

 天井と、鴨居で仕切られた四方の白い壁との間は、ナイトスタンドの小さな電球の弱い光では届き切らず、天井と壁の間にはぼんやりと、黒く暗い闇の影が残って見える。


 その光と闇の境目の間を、()()()()が " ()()() "  …いた。












































 








 









 それは、蝙蝠(コウモリ)だった。

 コウモリは天井の僅か下を、六畳の部屋の四方の壁に沿ってぐるぐると、黒く薄い翼をせわしなく動かしながらも音もなく、ただ静かに飛翔して(舞って)いる。

 

 ” ぱさっ” ” ぱさっ” ” ぱさっ”

 天井の壁際をぐるっと飛びながら、その羽ばたく翼の先が神棚の榊の葉に触れるたび、コウモリは部屋の中に ” ぱさっ” という乾いた音を響かせる。 

  


 それは、多分『アブラコウモリ』だったのだろう。

 部屋の窓に取り付けられた雨戸のシャッターの中に、丸い小さな毛玉の様に丸まってくっ付いているのを見たことがあった。

 いつも、窓枠の下に小さくて長細い糞が落ちていたし、夕暮れ時、庭の上を虫を追って飛翔している(飛んでいる)のを見かけていたから。



 私はベッドに横たわったまま、コウモリが頭上を飛び回るその光景を、呆然としたままただ見つめていた。


 アブラコウモリの体自体は、かなり小さかった。だが、両の翼を広げ、羽ばたき飛翔する姿はかなりの大きさに見えた。なおさら、薄暗闇の中、ベッドの上に横たわり見上げる私の目には。

 それは、その音もなく舞う姿の不気味さからか、私の心の中に、確かな恐怖を感じさせられるほどの。 

 

 コウモリの飛翔は、全くの()()だった。翼先(つばさき)が、榊の葉に触れて立つ ” ぱさっ” という乾いた音を除いては。それが返って、私の中の恐怖心を煽り立ててもいた。

 正直、頭のすぐ上を飛び回り続けるコウモリが、いつ自分を目掛け飛んでくるかと、恐怖心にひやひやしたままだったのだが。


 覚悟を決めた私は、夏掛けを跳ね除け飛び起きると、天井の丸い蛍光灯カバーから垂れるスイッチの(ひも)を引いた。

 途端に和室の中は、眩く白い光に包まれる。


 ベッドから飛び起きた私は、床の畳に姿勢を低くしながら窓際の障子を開くと、カーテンと縁側のサッシ戸を開ける。

 そして、そこにそのままうずくまると、コウモリが外へと飛び去るのを待った。


 だがコウモリは、中々部屋から飛び去ろうとはしない。

 相変わらず、静かな飛翔を続けながらぐるぐると、和室の天井近くを飛んでいる。

 時折、” ぱさっ” ” ぱさっ” という音だけをさせて。


 私は恐怖心を抑えながらも、長柄の(ほうき)を天井に向けて振り回す。

 しかし、コウモリは箒を上手く避けながら、ひらひらと舞い続ける。


 

 だが、やがてコウモリは、縁側との境の低い鴨居をくぐり出ると、音もなく暗い夜闇の中へと吸い込まれるように飛び去っていった。


 外の闇を透かして見る。

 縁側の向こうには、駐車場脇の街灯に照らされる、ぼんやりとしたただの闇しかなかった。

 

 動くものは、何も無かった。

 ただ、外からは、湿った風が吹き込んできただけだった。


 (了)






 お読み頂き、ありがとうございました。


 ある夏の深夜、わが家で実際にあった出来事でした。

 田舎だからでしょうか、家の周りは『アブラコウモリ』が多くて、窓のシャッターの戸袋の下にはコウモリの糞が常に …。

 

 コウモリの、”音もない飛翔”。実際に真夜中、しかも直近で見せられるとただ恐怖しかありませんでした。(心霊でなくて良かったのですが、正直、怪異だと、「やられた!」と思いました(笑))


 そして、自分に飛び掛かってきたらどうしようと …。


 いつ、どうやって家の中に入ってきたんでしょうかね? 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ