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剣の記憶-影王-  作者: 青之屋
●剣の記憶-影王-●
35/40

大祭1日前:羅愛参上!

  羅愛は、城の隠し通路を通り、誰にも見つからないように城中を走った。

 普段は宝の持ち腐れとしか思えない隠し通路も、このような緊急事態ならば役に立つ代物だ。

 ふいに、細くて真っ暗な通路の先に光が見えた。暗い場所に数分しかいないにも関わらず、明るい光が目に沁みる。

 

「まっぶしぃ~」


 目を細めて当たりを見渡し、敵がいないかどうか確認する。

 正門で偽者の自分が暴れているためか、予想通り誰もいなかった。

 しかし、腑に落ちない。

 簡単に事が進みすぎだ。敵側は、ユーロ国一番の知恵を持ち賢者と噂されている、ユタカがいるのだ。

 軍事と剣技においては、羅愛が優れていると評価されているが、何時でもユタカに勝っているとは思ってはいなかった。ユタカと模擬試合をしても、いつも勝つのは羅愛の方なのにだ。

 いつも本気ではないような、力を抑えているような感じがヒシヒシと伝わっていた。それが、羅愛と対自している時はとくに、手加減というものを密かにしているような気がしてならない。

 冷静に思い起こせば、あの夜だって羅愛を殺そうと思えば殺せたのだ。いや、あの夜に限らず、殺そうと思えばいつでも殺せただろう。

 何かユタカに計画があり、ワザワザ遠回り的なことをしているような気がしてならない。

 いつでも殺せる人間を生かし、泳がしているような気がする。


「どっちにしろ、アタシとユタカは敵なのは変わらないけどね」

 

 城の武器庫に足を運び、音を立てないように神経を使いながら重い扉を開ける。

 羅愛は薄暗い倉庫に足を踏み込んだ。

 様々な武器が並んでいる中に、探している物が簡単に目に入る。

 それは、よく乗り回している2輪車。

 2輪車はエネルギー補給のため、様々なキューブに繋がれて止められている。一本一本キューブを外し、不備や意図的な改造がなかったか確認していく。


「荒らされた形跡なし、いじられた形跡もなし」


 羅愛を殺す方法は何通りもある。

 その一つとして、この愛車を不備にすることだ。そうすると、事故に見せかけて殺すことができよう。

 

「アタシも馬鹿じゃないから、そんな方法は見え透いている」


 だから、こうして丹念に愛車を調べているのだ。


「無駄な事はしない主義らしいね。アイツらしいけど、たまには無駄に賭けてみようとは思わなかったのかしら?」


 二輪車に跨ると、エンジンを鳴り響かせる。もちろん、エンジン音も正常である。


「さて、解決に向かって発進進行~。なんてね?」


 誰もいないが、わざと明るく独り言を言い放ち愛車を走らせる。

 武器庫を出て、近くの城の窓硝子を割って城の中に進入する。廊下をそのまま走らせれば、何事か兵士や城使えが野次馬根性で出てくる。


「引っ込んでなさい! 万が一アタシの行き先を邪魔するならば、撥ね飛ばすからね!」


 これは、脅しなのではない。

 羅愛は、やると言ったらやるタイプだ。それが、出てきたのが味方軍だとしてもだ。

 

「ほらほらほら、羅愛・イシュターナがお通りだよぉぉぉぉぉぉぉぉ。数メートル先の自給女、そこどかないと撥ね飛ばすよぉぉぉぉぉぉぉ」

「うわわわ、羅愛お姉様! ワタクシですってワタクシ! 城の中で暴走に走らないでくださいましな」


 よく見ると、数メートル先にいた自給女はティンクルだ。

 急ブレーキをかけると、けたたましい音が鳴り響く。物理の法則で羅愛の身体は前へとつんのめり、もう少しで愛車から先方へ放り投げられそうになった。


「ゲストは無事に解放したのか?」

「えぇ、無事に解放しましたわ。そもそも、おじー様が傍についていた時点で手が出せなかったでしょうけどね」

「あの人は本当にお年寄りなのかなぁ……」


 セバンは、バリツという体術の達人だ。

 

「ワタクシ達も敵を殲滅させる方に回りますので、羅愛お姉様は早く茶番劇を終わらせてくださいましな」

「お願いね。よし、敵の頭を叩きに行くかぁ」


 羅愛は、合を入れる代わりに愛車のエンジン音を派手に鳴らす。


「ちょ、羅愛お姉様! 城の中で乗り回していたら、空気が汚れますわ」


 そんな文句は無視し、愛車を暴走的に再び走らす。


「ほらほらほら、そこ野次馬! ぼさっとしていると撥ね飛ばすわよ?」


 羅愛を倒そうと思ってなのか、興味本位なのか、それとも馬鹿なのか? 羅愛の進行通路に出てくる輩は多かった。

 それを、また人格が変わったように怒鳴りつけ忠告する。

 城を二輪車で走っていると、その繰り返しだった。目的地につく頃には、少々疲れが出てきた。


「ぜーはーぜーはー、同じことを何回も叫ばせるなよぉ~」


 羅愛は息切れを起こした。

 一呼吸置いて、次すべき事を考える。

 羅愛は、廊下の窓の外を身を乗り出して見る。窓外の風景は、近くに塔がギチギチの位置で立っているために良くはない。目線を下に下ろすと、塔に設置されている窓が見えた。

 

「ユタカ発見」


 その窓から中の人の様子が見えている。

 塔の現代の主は、シャーハットだ。こちらが形成逆転をすれば、シャーハットとユタカはこの塔に篭り作戦を練り直すだろうと睨んだ。結果は、睨んだ通りに動いてくれたわけだ。

 羅愛がこうして中の様子を探っているにも関わらず、中の二人はこちらに気付く気配もない。

 というのも、ユタカとシャーハットは何やら言い争いをしている。何故わかるか? というと、ユタカがシャーハットに剣を向けているからだ。

 

「約束が違う、契約違反でお前は死ね。なんて、言っているわけじゃないわよね? アタシに続いてシャーハットまで裏切るつもりか?」


 もし、ユタカが本気でシャーハットを殺そうとするならば、この勝負はユタカの勝利になるだろう。

 シャーハットが武術に優れているという噂も聞かない。それに、シャーハットはかなりの高齢であるため、ユタカよりも力があるとは思えない。

 近くに部下もいなさそうだし、二人だけならば決着は直につくであろう。


「シャーハットも傘下にする人間の見極めが甘かったわねぇ」


 ケリがつくまで、中の様子を伺っていよう。

 今ここで出てきて2人を相手するよりも、生き残りの1人を相手する方が楽だ。

 まぁ、その生き残りはユタカに決定なんだけど、勝手に勝者を決め込んだ瞬間だった――


「はぁ~? 何、あれ? あれ、ありですか? ちょっとちょっと、蜘蛛人間じゃないんだからぁ~。気持悪い」


 シャーハットが、いよいよ殺されようとした時だった。

 シャーハットの背中から、腕が生えるように2本出てきてユタカの剣を弾き飛ばしたのは。

 羅愛も驚いたが、一番驚いたのはその場で相手をしているユタカ本人だろう。


「あれですか? 人造人間っていう人造機能の部分をつけた人種。あれは、困ったことに違法使用者よねぇ」


 深い溜息をついた。

 世の中どうしうもない輩は大勢いるが、シャーハットはどうしようもないを越している。

 本来の目的は、事故による身体部位の切断や不機能になった人に、代用のモノを付け加えるためのものだ。しかし、シャーハットの目的は戦闘目的。


「嫌になっちゃうな。素晴らしい尊い旧時代の技術を、戦闘目的という野蛮な事に利用している輩ってね」


 ユタカが悪戦苦闘している。

 自分の身体をいじった化け物相手では、悪戦苦闘も無理はない。

 

「まぁ――」


 羅愛は顎に手をやり考えた。


「化け物相手するのも楽しいかな?」


 考えた結果、緊張感の欠片もない遊びにいくような考えが出てくる。


「ユタカばっかり、化け物を相手するチャンスがあるなんてずるーい。というわけで、突入――!」


 愛車の二輪車に跨ると、エンジンを最大限にして窓の外へと迷わず突っ込む。

 ここは6階だ。6階の窓の外へ突っ込むには、自然の原理として重力に沿って物体は落下するのが道理だ。しかし、羅愛の場合は道理が通用しなかった。

 なんと、窓の外へと突っ込んだ瞬間、二輪車から翼のような部分が出てきたのだ。

 羅愛は、空を二輪車で走らせる。

 そして、二輪車の前輪で突き破るように塔の窓硝子を割る。景気のいい音が鳴った。そのまま窓から滑り込むように部屋へ侵入した後、部屋の地面へとバイクごと華麗なる着地をしてみる。

 案外上手く着地でき、気分がいい。

 気分がいいついでに、部屋中を見渡して決め台詞を言ってみる事にした。


「やっほ~、元気? 羅愛・イシュターナ参上っ!」



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