なら姫
むかしむかしあるところに二つの小さな国がありました。ひとつは小さなお城と広くて豊かな田畑と森が広がり、もうひとつは大きなお城とやせた農地が広がっておりました。
そして小さなお城には領民思いの優しいお殿様が住んでおられました。領民も野良仕事に精を出し、みな豊かな暮らしを営んでおりました。大きなお城の方には欲深く意地悪なお殿様が住んでおりました。領民はやせた土地にまく肥料もないほど貧しく、びくびくして暮らしておりました。
淡い緑の葉が一斉に噴き出す新緑の季節、小さいお城のお殿様にお姫様が誕生いたしました。お殿様はこの娘が丈夫で長生きし、いつまで美しいようにと、堅くて丈夫で木目の美しいナラの木から名前をいただき、「なら姫」と名付けました。お殿様はこのお姫様をたいそう可愛がられました。
なら姫は健やかにそして美しく育ちました。
「座れば牡丹立てば芍薬歩く姿はゆりのはな」とは正にこのお姫様のためのほめ言葉のようです。
ただ、このお姫様にはひとつ問題がございました。おならです。(つまり、「屁」です)
お顔立ちもよく上品だけれど、おならはこの世のものとは思えないほどくさい・・・ということはありません。何せ上品で洗練された食べ物を食するのですから、おならも臭いわけがありません。むしろかぐわしい香りが漂いました。ではなぜ?
問題は食べ物にありました。ふつうに食事をしておれば姫のおならはかわいいものでした。
美しい姫がうっかり解き放ってしまったおならはその音もかわいらしく、「ぷっ」とささやきました。そして新緑の森森を通り抜ける風のように爽やかな香りが漂うのでした。
また、いわゆる透かしっ屁もありました。ふつう透かしっ屁というものは強烈に臭いものです。しかしお姫様の透かしっ屁の後にはお付きの者がぞろぞろと付いていくのですぐにそれと分かりました。たとえ気付かれないようにこっそりいたしましてもそれはお姫様の甘い香りを振りまき、すぐに姫の透かしっ屁と分かりました。よって透かしっ屁が漂う近くにいる者同士でなすり合いや知らんぷりを決め込む必要はありません。
けれども、このお姫様に絶対に食べさせてはいけないものが3つありました。それはそれらの食べ物によっておならがとてつもないことになったからです。
けれどもそれらの食べ物はお姫様の大好物でもありました。
サツマイモ、大根、そして柿です。
あるとき、お姫様のお食事に料理番が誤って大根のお味噌汁をお出ししてしまいました。しばらくすると、それはもう大変なことになりました。お姫様のおならは天守閣の三重櫓のてっぺんにあるシャチホコを見事に吹き飛ばしてしまったのです。
ドッカーン!
領民は何事が起きたのかとびっくりしましたが、近くの火山の噴火ではないようです。吹き飛ばされたシャチホコは遠くの漁村まで飛んでいきました。そこの村人は海からではなく空から魚が降ってきたとたいそう驚いたそうです。
大根を食されたときのお姫様のおならにはすごい威力ありました。そのおならの威力は大型の大砲に匹敵するもので、ありとあらゆるものを吹き飛ばしてしまう凄まじさでした。
そこで困ったお殿様はお姫様に大根を食べることも食べさせることも禁止してしまいました。お姫様は大変悲しみました。でも、しかたありません。このままではやがてお城がボロボロになってしまいますから・・・。大根っ屁はふつうかなり臭いおならの代名詞です。しかしお姫様の場合の大根っ屁は大砲のようなパワーをもつおならでございました。
またあるときには、村人がお姫様の大好物だと知って焼き芋を差し入れてくださいました。サツマイモが大好きだったお姫様はこっそりとそれらを食べてしましました。すると、しばらくして
ドーン!シュルシュルシュル!
お姫様は天に向かって一直線、白い雲を引きながらどんどん上昇していきました。田畑もだんだん小さくなり、お城もやがて点になったころ、お姫様は厚い雲を突き抜けて、ふわりと雲の上に落ちました。飛んできた穴からは領地が全て見渡すことが出来ました。お芋っ屁はまるでロケットのようでございました。
びっくりしたのは、雲の上のいたカミナリ様です。あやうくトラのおパンツが脱げ落ちるところでした。あわてておパンツを引きずりあげると、背中のポン・デ・リングのような太鼓の輪をゴロゴロと鳴らしました。
ところがふと足下を見るとこりゃびっくり!なんと美しい娘がちょこんと雲の上に座っております。
お姫様は三つ指をついて頭を下げ、突然雲の上に飛んできてしまったことを詫びます。なんと礼儀正しくすてきな娘でございましょう。しかも器量よし。カミナリ様の両目はハートのまま、このお姫様に釘付けとなってしまいました。ぜひ自分のお嫁さんになってほしいと頼みます。お姫様は舌をペロッとお口の左側に出し、顔を傾けウィンクしました。カミナリ様は見えない矢でハートを射貫かれてしまいました。しかし、お姫様はお気持ちは有り難いが、私も一国の姫なのでお国に戻らなければならないことを伝えました。
カミナリ様はたまらず背中のポン・デ・リングのような太鼓の輪をゴロゴロと鳴らしました。お姫様のお腹もふたたびゴロゴロとなりました。すると、ふたたびドッカーンとお姫様は今度は地面めがてシュルシュルシュルと一直線に飛んでいきました。カミナリ様が押さえようとしましたが無駄でした。カミナリ様は遠くからゴロゴロと、何かこまったことがあったらまたおいでと言っておいででございます。
お姫様はふたたび地上に戻りました。田畑では村人たちが何事もなかったように野良仕事に精を出していました。青い空には天まで続く二本の白い雲がのびておりました。お芋ッ屁はふつう豪快な音のするおならの代名詞です。でも、お姫様の場合のお芋ッ屁は空を飛び、遠くまで運んでくれるロケットのようなパワーをもつおならでございました。
しかし、このことを知ったお殿様はたいへんびっくりいたしました。もし、姫がどこか遠くへ飛んでいって帰ってこなかったら・・・。お殿様はお姫様に今後一切サツマイモを食べてはいけないと申し渡しました。
そしてもう一つは柿。柿もまた厳禁でした。
なら姫の国では日々豊かで平和な日々が続いておりました。
しかし、あるとき、隣のいじわるで欲の深いお殿様が、この豊かな領地をねたんで自分のものにしたい考えました。小さいお城も大きいお城も両方ともお殿様が住んでいらっしゃるので、区別するためにこの隣のいじわるで強欲なお殿様を、そのおん旗に描かれた文字「風珍華山」からとって「風珍様」とお呼びすることにいたしましょう。
風珍様は兵を率いて小さなお城を攻めようと準備をいたしました。武器を集めるとともにひきょうにもお姫様を人質にしようというのです。
お姫様はときどきお城の外に出かけておりました。貧しい者や身寄りのない子どもたちに食べ物や着る物を届けるためでございます。村の者はお姫様に感謝し、たいへん慕っておりました。
この日も村のはずれまでお供の者とたくさんの食べ物と着る物をお持ちになり、出かけておりました。
そこへ現れたのが風珍様の手下ども。黒い装束に黒い覆面のいわゆる忍者でございます。お姫様の一行を取り囲むとお姫様たちをあっという間にぐるぐる巻きにし、荷馬車に放り込み、大きなお城へと連れさってしまいました。
風珍様はお姫様を見るとそのあまりの美しさに見とれてしまいました。地下牢に閉じ込めるはずでございましたが、天守閣の自分のそばにおくことにいたしました。お姫様は縄で縛られ、天井から吊されました。亀甲縛りという特別な縛り方をされているため、逃れる術はありません。
風珍様は目と口だけの黒い覆面をまとわれました。縛られ、吊り下げられている可愛そうなお姫様を小突きます。また、意地悪にもお姫様の足の裏や脇腹をくすぐります。お姫様はくすぐったがり、身をよじってもだえます。風珍様はよだれを流しながらさらにひどくくすぐります。縛られている姫の身体に縄がギリギリと食い込みます。風珍様はよだれをそででふきながら満足そうにお姫様を眺めました。そしてそれを何回も繰り返したのでございます。そしてその様子をチクタク(※動画サイト)にアップすると一緒につかまえたお付きの者に文を持たせて解放いたしました。
「チクタクを見ろ!そして姫にもっとひどいことをされたくなければ、隣のお殿様の言うことを聞け」という内容です。覆面をしていますが、隣のお殿様本人で風珍様だとバレバレでございます。
文には次のことが書かれていました。
一 お前の領地を半分よこせ
二 お前んとこの武器や兵をなくせ
三 お前んとこの姫を隣のお殿様に嫁がせろ
お殿様はびっくりしましたが、お姫様が人質にとられている以上どうしようもありません。また、がんばっている農民たちをあの悪辣な風珍様に渡すわけには参りません。あの風珍様はなにをするか分かりません。きっと村人たちは酷い目にあうことでしょう。そして、言うことm聞いたとしてもお姫様はもっとひどいことをされ、お城にも攻めてくるはずです。お殿様はう~んとうなりました。万事休すです。濃いお茶を急須から注ぐや、ぐいっと一服飲み干しました。
さて、なら姫ですが、とらえられてから何も食べておりません。風珍様の領地は悪政のため、とても貧しい村でした。大根や芋が大切な食べ物です。そう、お姫様のために運ばれてきたのは、大根とさつま芋でした。大好物の大根とさつま芋とあってお姫様はとても喜びました。もう何年も食べておりません。一口ずつ味わいながら全部食べさせてもらいました。(縛られていますから・・・)
すると姫の顔がみるみる赤くふくれてきました。そして次の瞬間、
ドッカーン!
風珍様の顔をかすめて天守閣の壁に大きな穴が開きました。木くずや細かい埃が舞っています。大穴からは城下の田畑がよく見えます、
「へーェェ!」命拾いはしたものの風珍様は腰がぬけて立つことが出来ません。四つんばいで逃げようとします。風珍様の着物は先ほどの爆発で穴があき、お尻が丸見えとなっております。それでも風珍様は逃げようと必死です。
しかし、姫の顔がまたもや真っ赤にふくれていき、次の瞬間、
ドッカーン!
二発目が発射されました。今度は反対側の壁が大きく吹き飛びました。またもやもうもうとした煙やほこりと木くずが舞っています。ほこりがおさまると、お城の向こう側にはいくさを始めようと大砲や鉄砲、刀や槍、弓矢などが所狭しと集められておるのが見えました。
ドッカーン!
姫の三発目はそれらの武器を天高く吹き飛ばしてしまいました。それらはまるで空に放り投げられた蟻たちの群れがバラバラと地面に落ちてくるようでした。風致様の集められた武器はほとんどお釈迦様になりました。それらはもう人をあやめることはおできにならないでしょう。チーン。
続いてお姫様が違ったおならを放ちました。
ドーン!シュルシュル!
お姫様は天守閣を打ち破り、白い雲を引きながら天高く舞い上がり、いつぞやと同じく再び雲の上に落ちました。
再び現れたお姫様にカミナリ様は大喜び! あやうくトラのおパンツが脱げ落ちるところでした。あわてておパンツを引きずりあげると、背中のポン・デ・リングのような太鼓の輪をゴロゴロと鳴らしました。
矢のような稲妻は地上めがけてあちこち落ちていきました。稲妻は風珍様の丸出しのお尻も直撃しました。お尻はお猿さんのように真っ赤になりました。そして、四つんばいのまま、ぴょんぴょん跳びはねる様子は本当にお猿さんのようでした。
はたと見るとお姫様はひどいかっこうでした。亀甲に縛りあげられているお姫様をみてカミナリ様は驚き、悲しみ、そして怒りました。背中のポン・デ・リングのような太鼓を再び狂ったようにガラガラと打ち鳴らしました。
再び地上は至るところにカミナリが落ち、それはもうにぎやかでした。甲冑を身にまとった武将たちもふんどし一枚の足軽もみな、自分のおへそをかかえて逃げ惑っています。
カミナリ様はお姫様の亀甲縛りをほどいてやりました。お姫様は縄をほどいていただいたお礼と、風珍様たちを懲らしめてくださったことに感謝し、カミナリ様のほっぺにキスしました。カミナリ様は鼻血を吹き出し、全身が真っ赤になると、その赤い色は一生抜けることはありませんでした。(言い忘れましたが、この時までカミナリ様の色はふつうでした・・・)
お姫様はカミナリ様といっしょにゴロゴロしだしました。
お姫様は次の瞬間、カミナリ様に手を振りながらドーンと白い雲を引き、元いた懐かしいお城めがけて飛び立ちました。カミナリ様は涙のかわりに鼻血を出しながらお姫様を見送りました。
お姫様はお城めがけて一直線に飛んでいくはずでございましたが、風珍様のところのお芋は痩せていたので、きっとパワーが若干足りなかったのでございましょう。途中の村のかやぶき屋根の上に落ちてしまいました。ここはまだ風珍様の領地です。
絶対に逃がすなと風珍様が差し向けた手下どもが大勢押しかけてくるのが見えました。
お姫様は絶対絶命!でもこんなときでもお腹がすいてしかたありません。
村人が見かねて柿の木から実を数個もぎ取って姫に献上いたしました。姫は美味しそうに柿の実をいただくと村人にていねいにお礼を述べました。すると姫は自ら手下たちがやってくるやせた田畑の上に立ちました。そしてシラッと透かしっ屁をいたしました。透かしっ屁は風に流され、領地の田畑全体に広がっていきました。厳禁の柿を食べた姫。
姫を見つけた手下どもは火縄銃に弾をこめると姫にねらいを定めました。そして、火縄の先を吹いて火縄を赤々と燃え上がらせた時でした。火は火縄を離れ、ぼおぉぉっとその勢いを増しながら四方八方に広がっていきました。手下どもは燃えさかる炎に巻き込まれないよう、蜘蛛の子を散らすようにテンデバラバラに逃げていきました。炎はナパーム弾のように風珍様のお城はもちろん、領地の田畑をことごとく焼き払いました。火気(柿)厳禁!
こうしてお姫様は自分のお城に無事に逃げ帰ることができました。しかし、村人たちの田畑をことごとく焼き払ってしまったことにたいそう胸を痛められました。
ところがお殿様はニコニコしながら心配するな、良いことをしたとおっしゃいます。そして、今年の分だけ、みなに収穫を分けてやろうというのです。
やがて、春になり、となりの国でも野良仕事が始まるとその年は大豊作となったのです。雑草やその種が焼き払われ、野菜や芋の病気の元も消毒され、焼き尽くされた草木の灰はすばらしい肥料となりました。
豊かになり、力をつけた村人たちは悪事ばかりはたらいている風珍様を追い出し、なら姫のお殿様を迎え入れました。
ふたつの国はやがてひとつになり、幸せに暮らしました。そして、秋祭りではいつしかこんな歌が歌われるようになりました。
なら姫 なら姫 おなら姫
大根食べれば 波動砲
悪い 殿様 ぶっ飛ばせ
なら姫 なら姫 おなら姫
お芋を食べれば ロケット噴射
お空の 彼方へ 飛んでいけ
なら姫 なら姫 おなら姫
柿を食べれば 野焼きの開始
ナパーム 豊作 火気厳禁
なら姫 なら姫 おなら姫
大根 お芋に 透かしっ屁
大砲 ロケット ナパーム弾
この作品はあるコンクール用に書いたものですが、お気に召されるようでしたので、フリーで少しでも多くの方の中で楽しんでもらえるとうれしいと思い、投稿した次第です。
『由美子の読書感想文』もよろしくお願いいたします。




