第2話 力の制御と村の危機
翌朝、俺――ライルは村の宿で目を覚ます。木のベッドが軋む音、窓から差し込む朝日。異世界の生活は新鮮だ。昨日、冒険者ギルドで薬草集めのクエストを終えたが、ゴブリンを一撃で倒した噂が村に広まりつつあるらしい。宿の女将が朝食を運んできた時、チラチラと俺を見る目が気になった。
「坊ちゃん、ほんとに10歳かい? ゴブリンを一撃で倒すなんて、ただ者じゃねえな」
俺は苦笑し、パンをかじる。「運が良かっただけですよ。力、抑えたつもりだったんですけど」
女将は笑いながら去ったが、このままじゃ「強すぎる転生者」として目立ってしまう。ネイビーシールズ時代、目立たず任務を遂行するのが鉄則だった。力を制御しないと、女神の言う「平和をもたらす」どころか、村人に恐れられるだけだ。
朝食後、ギルドに向かう。村の通りは賑やかで、農夫や商人が忙しく動いている。ギルドの扉を開けると、受付のエルフ耳の女性――名前はリナだと昨日知った――が笑顔で迎える。
「おはよう、ライル。昨日は見事だったわね。次のクエスト、受ける?」
「何か簡単なやつを。目立たないやつで」
リナは少し考える。「じゃあ、村の北にある畑の害獣退治はどう? 巨大なモグラみたいな魔物、ディッグラットが出没してるの。農作物を荒らすから、困ってるのよ」
ディッグラットか。ゴブリンより弱そう。力を抑える練習にはちょうどいい。「了解。引き受けます」
クエストの詳細を受け取り、畑に向かう。道中、ステータスを確認する。
【名前:ライル】
【レベル:1】
【力:100】
【耐久:80】
【敏捷:120】
【スキル:超人的身体強化、戦闘適応、魔法適性(初級)】
力100は相変わらずバグってる。普通の人間が10なら、俺のパンチはトラック並みだ。シールズの訓練で培った格闘術や射撃技術が、この「超人的身体強化」と合わさると、制御が難しい。魔法適性もあるらしいが、まだ使い方が分からない。
畑に到着。農夫のおじさんが、土が盛り上がった跡を指さす。「あそこだ! ディッグラットが潜ってる。気をつけな、でかいぞ!」
地面が揺れ、土が爆発するように割れる。出てきたのは、牛ほどの大きさのモグラ。赤い目、鋭い爪。確かにでかい。ディッグラットが唸り、俺に突進してくる。
「よし、力を抑えるぞ」
俺は深呼吸し、シールズの訓練を思い出す。最小限の力で最大の効果を。ディッグラットの動きを観察。突進のタイミングで横にステップ。軽く掌底を当てる。バチン! ディッグラットは数メートル吹き飛び、地面に倒れる。
「よし、うまくいった……か?」
だが、ディッグラットはすぐに立ち上がり、怒り狂ったように再び突進。やっぱり一撃で倒すのは無理か。次は少し強めに。拳を握り、腹にパンチ。ゴフッ! という音とともに、ディッグラットが気絶。死ななかった。力の加減、だいぶ掴めてきた。
農夫が駆け寄る。「す、すげえ! ディッグラットを気絶させるなんて!」
「いや、やりすぎないように気をつけただけです」
報酬の銅貨10枚を受け取り、ギルドに戻る。リナが目を輝かせる。「ライル、すごいじゃない! ディッグラットを殺さず気絶させたって。力の制御、できる子なのね」
「まあ、ちょっと慣れてきたかな」
その夜、村に異変が起きる。宿で寝ようとした時、遠くで叫び声。窓から見ると、村の外れで火の手が上がっている。急いで外に出る。村人たちが慌てて走り回る。
「魔物の群れだ! ゴブリンとオークの混成部隊が襲ってきた!」
オーク? ゴブリンより強いってことか。衛兵たちが門で応戦しているが、数が多すぎる。俺はギルドに走り、リナに状況を聞く。
「ライル、まずいわ。魔物の群れは魔王軍の斥候よ。村を壊滅させる気かもしれない。衛兵だけじゃ持ちこたえられない!」
「俺にできることは?」
リナは真剣な目。「あなたなら、魔物を食い止められるかも。でも、危険よ」
「危険は慣れてる。シールズ時代、テロリストの拠点を壊滅させたことだってある」
リナは目を丸くするが、すぐに頷く。「じゃあ、門の防衛を頼むわ。冒険者たちも集まるはず」
門に到着。衛兵たちが必死に戦う中、ゴブリン10匹とオーク3匹が押し寄せる。オークは2メートル以上、筋肉の塊。斧を振り回す。俺は力を抑えつつ、戦闘適応スキルを意識。体が自然に動く。
「来い!」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。俺は軽くかわし、手刀で首を狙う。気絶。次にオーク。斧が振り下ろされるが、シールズの訓練で培った反応速度で回避。膝裏に蹴りを入れ、バランスを崩す。倒れたところに軽いパンチ。オークが気絶。
「よし、これでいける」
だが、油断した瞬間、背後から別のオークの斧が。避けきれず、肩に浅い傷。痛みが走るが、HPは480/500。たいしたことない。振り返り、オークの顎にアッパーを叩き込む。気絶。
戦闘が終わり、村人たちが集まる。衛兵のリーダーが俺に頭を下げる。「ガキ……いや、ライル、ありがとう。君がいなかったら村は全滅だった」
「大げさですよ。力を抑えたつもりなんですけど」
村人たちの目が、感謝と同時に少し怯えている。噂がさらに広がりそうだ。リナが駆け寄る。「ライル、すごいわ! でも、傷! 大丈夫?」
「これくらい、シールズ時代なら朝メシ前だ」
リナは笑う。「あなた、ほんとに10歳? なんか、普通じゃないわね」
その夜、宿に戻り、傷を布で巻く。力の制御はだいぶ上達したが、まだ完璧じゃない。魔王軍の斥候が来たってことは、この村も安全じゃない。俺の力、どこまで隠すべきか。いや、隠しすぎても、この世界を救えない。
ステータスを見ると、レベルが2に上がっていた。戦闘経験で成長したらしい。新しいスキルはまだないが、魔法適性を試してみたい。明日はギルドで魔法について聞いてみよう。
村の夜は静かだ。でも、遠くで魔物の咆哮が聞こえる。この世界での戦いは、まだ始まったばかりだ。
(続く)