第6話:優等生!彼の名は四神 戈宝(しかみ かほう)
☆前回のあらすじ☆
《選ばれし魂を持つ者……通称"クリアル"を探してきて欲しいとルビーに頼まれた鷹は報酬目当てでそれ承諾した。
現実世界に戻りクリアルと思わしき眼鏡の男の子を見つけた鷹はアルファとベットに反転召喚をお願いした。さぁどうなる》
第6話:優等生!彼の名は四神 戈宝
「(あの眼鏡のイケメン君にするぞ。お前ら準備はいいか!)」
「「(は、はい!)」」
アルファとベット2人分の返事が小さく聞こえた。
俺はそのあと、木陰からそのベンチに座っている眼鏡の男の子の前に姿を現す。
そして、口を開いた。
「き、君ぃ。名前は?」
(なんか……びびっちまって適当に名前聞いちゃった……)
その質問にその子はドン引きしていた。
そりゃそうだ。
襤褸一枚の服装のショタが名前を聞いてくるなんて"夢"か何かだと思うだろう。それが普通だろう。
だがしかし、少し普通ではない反応をその子はした。
ドン引きしていたその子は眼鏡をクイっとしてから話し出す。
「えーと……僕の名前は四神 戈宝。君は……一体……?」
名前は一応言うんだ……そう俺が驚いたすぐあと、
アルファとベットが木陰から迅速に出てきてベットの方が叫ぶ。
「鷹様!さっそく行きますよ!」
「え……と、これはなんのドッキリですか?」
その子はのっぺらぼうでも見たような顔でそう驚いた。
無理もない。いきなり西洋風ファンタジーの格好をした男2人と襤褸一枚のショタに囲まれたら誰だってこうなる。
俺はそれに俯瞰したような態度で言った。
「ま、そうなるよね……ごめんね驚かせちゃって。さ、アルファとベット。やっちゃって」
「「はい!!」」
すると、アルファ達は反転召喚の準備に取り掛かる。
さっき名前を聞いたから分かるが、四神君は恐る恐るといった風に身構えていた。
(正直可哀想だな……よし、ここは安心させることを言おう)
「心配しなくても大丈夫だ。今よりいい世界に連れて行ってやる」
「な、なんのことですか?って!なんですかこの蒼い光は……!」
足元を見てそう叫ぶのは勿論その四神君だ。
どうやらアルファとベットの反転召喚に使う魔法陣の展開が完了したらしい。
数秒後、2人分の声が辺りに響く。
「異界より、現世に蘇れ……反転召喚!!」
その後、俺が前に召喚されたのと同じように四神君は異世界へと転送された。
「成功……だな」
俺は小さくそう呟く。そして面白おかしく笑った。
(これで賞金50000ジュアル……ゲット!しかもお宝まで……)
そのおかしく笑っていた俺を不審に思ったのかアルファが話しかけてきた。
ちなみにアルファは剣士の格好をしている方だ。
「鷹様……大丈夫ですか?頭とか」
「あ、ああ。大丈夫だ。ごめんごめん。側から見たら頭おかしな奴になってたな俺」
(若干尖ったことを言われてビビったが……まぁ気にしない)
すぐに気を取り直し、俺達は唱える。
「「「クリアライズ!!」」」
眼を開けると現実世界に行く前にクリアライズと唱えた場所である城の大扉の前に居た。
(時刻は17時辺りか)
俺は時間をそう推察する。
「「鷹様……!お疲れ様でした」」
アルファとベットがそうお辞儀をしている。
俺はそれに軽やかに返した。
「ああ。お疲れ様。じゃあ城に戻るか。ルビーの奴に成功したこと言わなきゃ」
そのあと、俺はアルファとベットと一緒に城に戻った。
広間の中央で待っていたのかルビーとオルナちゃんが手を振っている。
「おー待たせたな!無事に成功させたぜ?」
俺は笑顔でそう言った。
手でグットマークを作る。
オルナちゃんは「良かった……」と呟き、ルビーは「ありがとう」と感謝の言葉を言った。
(ま、500万円のためなら容易いし……)
その頃……大都市ジュエルリスの貴族街では……
「ここは……どこです……?僕は一体……」
1人の赤髪の少年が豪華な4畳半の部屋の中で呟く。
少年は姿鏡の前に立ち驚愕の声を上げた。
「こ、これは一体どういうことです!」
少年は……いや彼の名前は、四神 戈宝。
その姿鏡の前に映るのはさっきまでの四神戈宝ではなかった。
先ほどの四神は黒髪で黒い制服を着て、黒縁眼鏡をかけていた。
しかし今鏡に映るのは赤髪の高級そうな貴族服を着た11歳くらいの男の子だ。
ちょっと吊り目なのが特徴的な美少年であった。
「そういえばさっきいつものベンチで僕は変な人達に囲まれて……そしたらゲームでよくみる魔法陣が足元に展開されて気づいたらここに来てしまっていました……」
あまりに現実味のない事が起きてパニックになる頭を必死に抱える四神。
(こんな事が起きるはずがないです……!異世界に来てしまったとでもいうのですか?)
彼は思考をそう巡らす。
そして気になる点があった。
(この少年の体は一体?)
異世界転生でもなければ異世界転移でもない。
まさか異世界の住人への憑依?あるいは魂の入れ替えか?
と推察をした四神。
しかし答えはこうだった。
「くっ……考えても分からないですね」
彼は慣れないその少年の体でひとまず情報収集をしようと考えた。
4畳半の部屋の高級そうな部屋の扉が開く。
彼はその扉の方角を向いた。
扉から出てきたのは1人のメイド服を着た可愛らしい女性だった。
「アルカ坊ちゃま!いえ間違えました。アルカ様!ご飯の用意が出来ました」
「え?」
四神はそのメイドに頓珍漢な答えをする。
「どうしたんですかアルカ様。いつもなら坊ちゃま
という呼び方に怒るのですが…………あと、まだお着替えを済ませていないのですね」
「着替えですか?」
「は、はい。スクールの制服ですけど……」
アルカという少年はどうやらスクールへ通っているらしい。
それを理解した四神はメイドへ質問をする。
「その制服はどちらへ?」
「へ?忘れたのですか?いえ……そんなことはないはず……ま、いいです!えーと、そこのタンスです!」
「ありがとうございます」
「アルカ様が感謝……!?」
場面は切り替わり鷹はルビーの部屋で悩んでいた。
ちなみに鷹はルビーに「確実に四神はクリアルだ」と根拠含めて報告している。
そして先に報酬を貰いたいと言って、ルビーはそれを承諾している。
(報酬を貰うのは確定だとしてそれからどうしようか……オルナちゃんと離れるのは嫌だしなぁ)
「どうしたんだい?鷹さん。悩んだ顔して」
「それが……もし俺がこのまま報酬を貰ってお宝も頂いちゃったらさ……もうルビーにとって俺は用済みなわけじゃん?そしたらオルナちゃんとはもう会えないのかなって。いやもちろんルビーにも会えないしなって思ってさ」
「そうだね……用済みって言い方はちょっとどうかと思うけど……そうなると思うよ。僕達には当分会えなくなるだろうね。新しいクリアルと共に大魔王討伐に向かわなきゃだし」
そうルビーは静かに言った。
ちなみにこのルビーの部屋にはルビーと俺だけしかいない。
オルナちゃんはこのお城にある別の部屋で休んでいるらしい。
俺はその静寂の部屋でまた口を開く。
「ま、大魔王討伐後に好きなだけ口説くとするか……」
俺は小さくそう呟いた。
「ん?」
ルビーはそれが聞こえていない様子だった。
「それより……もうじきアルカ君と入れ替わったであろう戈宝君を探さないといけないから……」
どうやらルビーは急いでいるらしい。
仕方ない報酬を貰った後にじっくり悩むとしよう。
「ああ。ごめんごめん。さ、じゃあ報酬を貰うとしようかな」
「うん」
ルビーはその俺に頷いた後、何やら高級そうな箱に入った札束と、綺麗に光る指輪を俺の前に差し出した。
「ん?この指輪がそのお城にあるお宝?」
「ああそうだ。巨大な大穴"パルス"から著名な探窟家が遥か昔に取ってきたとされる。名前は"アビスリング"
売れば1000万にはなる代物だよ」
「1000万!?しかもなんかヤバそうな経歴持ち!」
(これは……なんてラッキーだ)
俺は思わず顔がニヤける。
「で!その指輪の効果ってなんなんだ?付けると筋力パワーアップのバフ効果とか?呪いを打ち消す効果があるとか!?」
「バフ効果?それはよく分からないけど……生物の特徴を借りる効果があるんだ」
「生物の特徴?」
「ああ。生物っていうのはつまり魔物やら動物やらの"生物"のこと。その特徴を奪うみたいな物かな」
よく分からないけど……察するに例えばチーターなら速さに定評がある。
その速さを使えるみたいな物だろう。
俺はそう推測した。
(割と良さげなお宝だな。しかも使えなきゃ売ってしまえばいい)
ふふふ。これは異世界ライフ楽しくなってきたな。
「あと言い忘れてたけどアビスリングは未知の物なんだ」
「未知の物?」
「ああ。アビスリングの記録書は所々破れていて読めないんだ。だから"生物の特徴を借りる"って記載しか判らないのが現状だ。他にも効果があるかもしれないからそれだけは言っておくよ。危険な物ではないと思うけど」
「ふ、ふーん。説明ありがとうな」
俺はルビーにそう礼を言った。
「さて、僕はそろそろ戈宝君に会わないとだから……それじゃあまたね」
「待って!オルナちゃんはどうするんだ?あの部屋に置いたまま?」
「ああ。オルナも連れて行こうかと思うけど……どうかしたかい?」
「いや……」
(どうするんだ俺……ここで別れたらもう当分会えないぞ!でもルビーについて行ったら大魔王討伐の旅に同行させられそうだしそれも嫌だな)
俺はなるべく面倒なトラブルは避けたいタイプだった。
ましてや大魔王討伐への道なんて嫌に決まっている。
流石にオルナちゃんも居るとはいえルビーに着いていくのはやめておいた。
「何でもない!達者でな!」
俺はそのテンプレ染みたお別れのセリフを告げ、ルビーと別れるのであった……
「おっとその前にオルナちゃんに挨拶しておこう」
俺はそう思い立ってオルナちゃんが借りているであろう部屋に行く。
ルビーの部屋から出た後の廊下の一番奥にある部屋にオルナちゃんはいる。
その部屋の扉をトントントンとノックするとオルナちゃんが「はーい、どちら様ですか?」と聞いてきた。
「俺だよ鷹だよ」
そう俺が言うとガチャリと扉が開いた。
「鷹さん!ど、どうしたんですか?」
オルナちゃんは不思議そうにそう聞いてきた。
俺は完結に答える。
「ああ。お別れを告げに来たんだ。大魔王討伐まで会えなくなるらしいし……」
「あ!そういうことですか……ですが……大魔王にもし負けてしまったら……」
オルナちゃんは少し寂しげにそう言った。
俺はそのオルナちゃんを安心させるように言った。
「……大丈夫。勇者は大魔王を倒すのが鉄則。負けイベじゃないんだから大丈夫だ。何言ってるか分からないだろうけどとにかくルビー達なら大丈夫なんだよ」
「そうですかね。でもなんかそんな気がしてきました!」
「ああ。大丈夫だ」
(ま、まぁクリアルと勇者はちょっと違う気もするが同じようなもんだろ)
俺は適当にそう思っている。
(というか、リベラ村にどう帰ろうか?)
そう思ってオルナちゃんに質問する。
「ところで……リベラ村にはどう帰ればいいの?あの魔導機シーホースを使うのか?」
「あ、それはですね…………」
次回予告!
リベラ村まで帰るために色々と作業を進める中、街に突如現れたゴブリンと出会ってしまう鷹。
何が起きるというのか!
次回タイトル「カルロの才能」