第5話:予言の書を読めるのはお前しかいない
☆前回のあらすじ☆
《王都アルストに着いた鷹は、ルビーの仲間の1人である"フリー"の料理店に行って食事をした。
その後、鷹はオルナちゃんとルビーと一緒にルビーの部屋に向かうことに》
第5話:予言の書を読めるのはお前しかいない
螺旋階段を登り切ると、所々に絵が飾ってある豪華な装飾の廊下が見えた。
その廊下はドアが何個も並んでいる。
その中の一つであるドアの前にピンクのツインテールのメイド服の子が上品に立っていた。
「ルビー様、ようやくお目当ての方をお連れしたのですね」
「うん。そうだね。でも生憎、クリアルじゃなかったよ」
「そうでしたか……」
(なんの会話だろ?クリアルってなんだ?)
俺はその2人の会話に疑問の顔を浮かべていた。
「おっと、ごめんごめん。さ、この僕の部屋に入って」
そうルビーが言った後、そのメイド服の子が後ろを向きドアを丁寧に開けてくれた。
俺達三人は、ルビーの部屋に入る。
部屋の内装は、7畳半くらいでまぁまぁ広く、中央に大きなベッドがある。
勉強机が左奥に設置してあり、シャンデリアが天井の中央に煌びやかに光っていた。
ルビーは部屋の中央にあるベッドの前に立つと俺たちに向かって口を開く。
「オルナには言ってなかったけど……実は予言の書が昨日手に入ったんだ」
そのルビーにオルナちゃんが驚きながら言った。
「え!?本当!?あの"大魔王スーグ"の手下、ピサロスから盗まれた予言の書?」
「ああそうだ。それで……その内容なんだけど……結論から言えば"異世界"にクリアルがいるって話だ」
ルビーが落ち着いた口調でそう言った。
「い、異世界!?」
そして、オルナちゃんが驚いたよう反応する。
オルナちゃんとルビーの話についていけない俺は割り込むように言った。
「な、なんの話だ?予言の書?ピサロス?」
ルビーがその俺に反応する。
「あ、ごめん。カルロ無視しちゃって……予言の書っていうのはこの世界の貴重なお宝の事なんだ」
「へ〜なるほどね。オルナちゃんが言ってたピサロスって言うのは?」
その俺の言葉にはオルナちゃんが返答してくれた。
「ピサロスは"大魔王スーグ"の手下の魔物だよ。私達が見つけた予言の書を横取りしたんだよ!」
オルナちゃんは少し怒ったような顔でそう言った。何というか……プンプン!って感じになってて正直萌えた。
そのオルナちゃんの後、俺が話し出す。
「なるほどな……で、ルビー。本題はなんなわけ?
予言の書とピサロスがどう俺に関係してくるわけ?」
「あ、ああ……その本題なんだが。結論から言うと、カルロには元いた世界に一旦戻って貰いたいんだよね……」
「え!?」
俺は驚きのあまり声を上げた。その後にオルナちゃんが「元いた世界……?」という風に首を傾げていた。
(無理もない……オルナちゃんは俺が現実世界から来た事を知らないわけだからね)
そしてルビーは続ける。
「驚くのも無理ないよね突然こんな事言って。
あ、あとオルナには言ってなかったね……カルロの正体は……"異世界の人"なんだ」
「い、異世界の人……!?そんな……」
驚くオルナちゃんを見ながらルビーは止まらず話す。
「アルファとベットの"反転召喚"で魂を入れ替えたんだよ。農民のカルロ君と、異世界の住人である
26歳男性、皇王鷹さんとね!」
「そ、そういうことね。26歳男性、皇王鷹さん……?それがカルロ君の中身の人なの?」
「ああ。にわかには信じられないけどそうなんだよ」
(ついにオルナちゃんに俺の正体が明かされたか……仕方ないけど)
ルビーのその話の後、オルナちゃんは状況を飲み込むためか、黙り込んだ。
俺はさっきのルビーの話。
また現実世界に戻るって話を聞いて内心嫌だと思っていた。
「ルビー、その…‥理由を聞かせてくれないか?なんで俺がまた元の世界に?」
「それは……"予言の書"が理由なんだ。これを見て欲しい」
ルビーはそういうと手に持っていた薄い書を渡してきた。
俺は1ページ目を開き少し読んだ。
「なんだこれ……"汝が大魔王に匹敵する選ばれし魂を持つ者を望むのなら……異世界より誕生した黒髪の男に会うべし"……」
それを読んだ後、俺は少し考え込み、大きな声で言い放つ。
「ま、まさかこの選ばれし魂を持つ者って俺のことか!"異世界より誕生した黒髪の男"って記載の通り黒髪だし俺」
その発言にルビーは俺がそう言うと分かっていたかのように返答する。
「残念ながら君はその選ばれし者じゃなかったんだ。それと4ページを見て欲しい」
(なんだよ…‥俺って選ばれし者じゃなかったのか……)
そう落胆しながら俺は予言の書のページをペラペラとめくる。
何やら地図がある。どうやら東京都の地図っぽい。なぜ異世界にこんな地図が?
それは置いといて、地図には赤いマークが記入されていた。そこは、現実世界で有名な名門校「青夢国立高等学校」だった。
「この地図……俺が元いた世界の場所が書かれているけど…‥これがどうしたの?」
「文字はちゃんと読めるかい?」
「ああ。おもっいっきり」
その俺の発言の後、ルビーの顔が晴れやかになる。
「やっぱり……!良かったぁ。実はこの地図、この世界の人間が読んでも靄が掛かってしまって読めなかったんだ。異世界の人間ならどうやら読めるらしいね!」
その後、ルビーは必死に懇願するかのように言い放つ。
「だから君に頼みたい……!
異世界…‥というか君からしたら元いた世界だね。
その元いた世界に戻り、選ばれし魂を持つ者……通称"クリアル"の黒髪の男を探してきて欲しいんだ」
クリアルという言葉を聞いて俺はあのルビーと初めて会った時のことを思い出した。
アルカの野郎が"クリアル"って言ってたけど、クリアルってのは予言の書の記載からすると、"大魔王に匹敵する選ばれし魂を持つ者"のことを指すわけか……
なるほど……まさにルビーは選ばれし者だったわけか。
ってそれは置いといて、やっぱり現実世界に戻らなきゃ行けない展開なわけね……
俺はまた現実世界に戻る覚悟を決める。
(やってやろうじゃねぇの"クリアル探し"
成功したら報酬だってあるだろうし……あ、報酬の事はあとでルビーに言おう。今はとにかく返答しよう)
そう思って口を開こうとしたらルビーが続けて話し出す。
「もちろん成功報酬はあるよ!賞金50000ジュアルあげるし、何かお城にあるお宝を授けよう!」
「ま、マジかよ!賞金!キタコレ!いやでも50000ジュアルって何円?」
(50000ジュアルって事は……考えてもやっぱり分からん!)
「ん?あ、そっか君のいた世界とこちらの世界の金銭レートは違うのか……えっと……どう例えようかな」
ルビーは困ったようにそう首を捻っていた。
「えーとなんだ。取り敢えず実物見せて」
その後俺の発言にルビーは応えてくれた。
今俺の目の前には大量の紙幣が並び明らかにこれは大金だと分かった。
(そのうち金銭レートだって自然と覚えるだろ)
内なる不安をそう書き消し俺は宣言した。
「ルビー。やります!そのお願い聞きます!」
「なんか報酬を見せたらすっごい食い付き良くなったような…………ま、いいや。ありがとう!助かるよ本当に。じゃあ具体的な手順を今から説明するね」
そのルビーの発言の後、オルナちゃんが心配するように話し出す。
「カルロ君……あ、違った。鷹さん!本当に異世界に行くの?もしかしたら戻って来れないかも知れないよ!まだ私別れたくないよ……なんなら私も行く!」
存外に彼女は……オルナちゃんは俺を気に入ってくれてたみたいで俺は思わず顔がニヤけそうになった。
思わずその欲求を抑えた。
ルビーはそのオルナちゃんに向かって安心させるような口振りで言った。
「オルナ。その心配は無用だよ。現に異世界に向かったアルファとベットは無事に帰ってきているし。それとオルナはクリアルだから異世界に行けないよ」
そしてそのルビーにオルナちゃんは返答する。
「アルファとベット……ってあの優秀な召喚士の?
それとクリアルは異世界に行けないんだ……じゃあルビーも行けないってこと?」
「うん。そうそのアルファとベットの2人さ。
あと、もちろん僕もクリアルだから異世界には行けない。そう予言の書の6ページに記載されていたんだ」
その後、数秒の沈黙が流れた。
俺はその空気を破壊すべく口を開く。
「オルナちゃん。ダイジョーブだよ俺は。ルビーがそう言ってるんだから間違いないって!」
そう言ったらオルナちゃんは少し勇気付けられたように答えた。
「は、はい。ルビーを信じます……!それじゃ私は邪魔になると思うので部屋から出ますね……」
これから説明の流れになるのを察したのかオルナちゃんは部屋から出て行った。
俺としてはそばに居て欲しかったんだけど……
その後、ルビーが口を開いた。
「別に邪魔にはならないけど行っちゃった……
えーと、じゃあ鷹さん。これからの流れを説明させてもらいます!」
「あ、敬語はいらないよ。なんかもうさっきのルビーの口調に慣れちゃったから」
「あ……そうかな。分かったよ」
そしてその後のルビーの説明はかなり長引いた。
悪いけど手短に説明したいと思う。
・予言の書の4ページ目には地図があり、記載された赤いマークの所にクリアルはいるらしい。
・予言の書の5ページには赤いマークの場所の詳細が描かれていた。そこには食事用ベンチと書かれ、そのベンチの写真があった。
・アルスト自警団と呼ばれる王都アルストの自警団員である優秀な召喚士アルファとベットと同行することになった。
・クリアライズと唱えれば現実世界に戻れること。
随分と長いな……
簡単に要約すると、現実世界に戻ってアルファとベットの得意魔法である"反転召喚"で現実世界にいる黒髪のクリアルの男の魂とこちらの世界の"誰かの魂"を入れ替えるって話だ。
ん?誰かの魂……?
俺はそこで悪いことを思いついてしまう。
(あの悪ガキ貴族アルカの野郎の身体を使えばよくね?アイツが消えれば農作業だってスムーズになるだろう……決めた!)
「ルビー。一つ提案があるんだが……」
「うん?何だい?」
「反転召喚の際に使う人間だが……ルビーが俺を助けた時に居たあの赤髪の少年。"アルカ"にしないか?魔法の腕もあって強いだろうし」
「あ、あの子か。でもあの子は貴族だから……そういえばなぜカルロ君を選択したのか言ってなかったね」
(この流れは否定される流れか?というか確かに
なぜカルロにしたんだろう?どうせ魂を入れ替えるならもっと強い人間にすれば良くね?なぜ農民モブキャラにした?)
そう疑問に思いルビーに返答する。
「何でカルロにしたんだ?というか……そもそもなぜ魂を入れ替えるような真似をいちいちしたんだ?普通に実物を連れてくれば良くね?」
「うーん……反転召喚で連れてきた理由はやっぱ大魔王に見つかりずらいと思ってね。そのまま連れてきちゃうと大魔王に勘付かれるだろうしフェイク的な意味合いだね。カルロ君にした理由は正直、急いでいたから頭が回らず適当にカルロ君したっていう方が的確かな……」
そう続けてルビーはちょっと考え込んだ後、決意したように俺に言った。
「確かに今思えば貴族だろうと関係ないね。分かったよ君を信じて魂の器はアルカ君にしよう。アルカ君の詳細は調べておくよ」
(ふん……!決まったぜ……ざまぁみろアルカ)
俺は少し悪い顔になりながら答える。
「分かった。じゃあそれをアルファとベットに伝えといてくれ。で、いつ頃やる?」
「分かった伝えておくよ。それと、いつやるのかだけど……この後の3時間後でもいいかい?」
「意外と早いな!ま、いいやOK」
その後の顛末はスムーズに進んだ。
アルカの居場所である都市「ジュエルリス」の貴族街を調べ上げたルビーはそれをアルファとベットに伝えたらしい。
どうやら反転召喚の条件として対象者にマナを放出してマーキングする必要があるとか。
そして、2時間後アルファとベットが王都アルストに帰ってきた。結果、アルカへのマーキングは成功したらしい。
「無事に終わりましたルビー様!」
「ご苦労だったね」
正直ルビーの目の前に立つアルファとベットの姿に若干驚いた。
(西洋の剣士の姿の男と魔法のローブを被った男……)
こいつらは俺がこの世界に来る前に魔法陣をかけられたあのモブ顔のアイツらだったからだ。
(当たり前だけどやっぱコイツらだったのか……)
俺はちょっと警戒してしまったが、理性でそれを抑えた。
「それでは、鷹様!クリアライズとお答え下さい!すぐにあちらの世界へ向かいましょう!」
「お前ら俺を強引に連れて行ったくせに気前がいいねぇ。OK!いくぜ」
俺はそう言った後、城の大扉の前で俺達は激しく唱えた。
「「「クリアライズ!!」」」
白い光がアルファとベットと俺を包み込んだ。
次の瞬間、瞑った目を開けると……
「はっ……!ここはヨルノ水族館」
俺はそう言って無事に現実世界に戻ったことを理解した。時刻は16時近くと言ったところか。
「鷹様……その学校というのはどちらにあるのですか?」
「あぁ。こっからなら割と近い。歩きで10分ほどかな。ってかお前ら、その格好で出歩くのヤバいな」
当たり前だがアルファとベットは西洋ファンタジーのコスプレイヤーみたいな格好をしている。
「お前らもそうだが俺もヤバいな」
当たり前だが俺は襤褸一枚で外を出歩くショタだ。
(こりゃ参ったな……一般人に見つからないように隠れていこう)
俺はそう決めて2人にあまり人には見つからないようにと釘を刺しておいた。
そのまま見つからないように木とか草とかに隠れながら俺達は目的地である"青夢高校"へと向かった。
そして、やっと着いた。
「よし!お前らご苦労。さて予言の書を開きまして……」
俺は予言の書の地図にある赤いマークの場所である食事用ベンチをチラ見する。
この正門からの距離は15mほど。
俺はそのベンチを指差しアルファとベットに言い放つ。
「お前ら次はあそこまで頑張るぞ。よし」
「は〜い……」
そう腑抜けた声を上げる2人。
(後少しだ…‥頑張ってくれ)
俺は心の中でそう思いつつ遂にベンチに着いた。
「誰もいないな……」
そう呟いたと同時に人の気配を感じ俺達はすぐ近くの木陰に隠れる。
すると、そのベンチに座ったのは四角い黒縁眼鏡をかけた明らかに頭の良さそうな男の子だった。
年齢は15歳ほど。
黒髪で黒の制服を身に纏い、弁当箱を静かに開けている。
(間違いないこいつ……"クリアル"だ)
そう思わずにはいられなかった。
なぜならその子を見てもモブのオーラが微塵も感じられないのだ。
しかも15歳の風貌をしているのだ。
15歳といえばルビーもそうだしオルナちゃんもそうだ。
俺が見てきたクリアルの共通点として"15歳"というのが挙げられる。
(よし、決めた。こいつに決定)
俺はそう思いアルファとベットに小声で言い放つ。
「(あの眼鏡のイケメン君にするぞ。お前ら準備はいいか!)」
「「(は、はい!)」」
次回予告!
クリアルと思わしき男の子を見つけた鷹はアルファとベットに反転召喚をお願いする。
反転召喚は見事に成功し、また異世界へと戻る鷹達であった。
悪ガキ貴族アルカへと入れ替わった眼鏡の男の子は果たしてクリアルなのか!
次回タイトル「優等生!彼の名は四神 戈宝」