第94話 偽たくあん聖女⑧
「同じ顔、か。間違いなさそうだな」
「変わり身早いですね、兄さん」
「誰が兄さんだ」
さっきまでのキラキラオーラと人の良さそうなふんわり笑顔どこに行った!?
「アメリアとお前はよく似ていたから、おそらくその偽たくあん聖女は彼女で間違いないだろう」
私とアメリアは確かによく似ている。
ただ違うのは、瞳の色。
私はお父様譲りのアメジスト色だけれど、彼女はお母様譲りのピンク色をしているから。
「よく似ていた、ということは私も可憐で可愛らしいということですね、ラズロフ様」
「なぜそうなる」
「……『私にはやはり、可憐で可愛らしいアメリアの方がふさわしかったのだ』とか言ってたくせに」
「っ……お前根にもって……!!」
追放された時に言われた言葉は一言一句違うことなく覚えていますが何か。
「とにかく!! もうしばらく聞き込みをして、出没地域を割り出すぞ」
「はい!!」
──それから私たちは、たくあん聖女の被害者たちをしらみ潰しに当たっていった。
皆揃って、記事のたくあん聖女によく似ていたから本物だと言っていたけれど、本物である私を見ても特に反応を示してはくれない。
まぁ、服装も今は乗馬ができるように乗馬服のパンツスタイルだし、髪も邪魔にならないように食堂で働く時にいつもしているポニーテールスタイルだし、無理もないかもしれないけれど。
私がたくあん聖女として正式に記事になったのは二度。
一度目は聖女だと陛下がお触れを出した時。
二度目は、私がクロードさんと結婚した時。
そのどちらの絵姿も、髪を下ろし、白いドレスを纏った状態のものだったはず。人の認識能力も、なかなか役に立たないものだ。
そしてあらかた聞き込みを終えた私たちは、研究施設地域にあるカフェで軽食をいただきながらこれまでの話をまとめていた。
「たくあん聖女のたくあんを食べて腹を壊し入院したものが6人。夜道でたくあん聖女にたくあんで殴られたのが4人。すれ違いざまにたくあん聖女に口にたくあんを突っ込まれて顎を外したのが1人。……この口にたくあん突っ込んだの、本当にお前じゃないんだな?」
じっとりとした目で私をまっすぐ見るラズロフ様。
私、疑われてる!?
「あ、当たり前です!! ここにきたの、今日が初めてなんですから!!」
「……」
うぅっ……前科が私の無実の証明を邪魔してくる。
「まぁいい。この被害者たちが被害にあった場所をまとめていくと──ここ、か」
地図をなぞりながら確認していくと、それらは全て一つの場所を指していた。
「──研究施設【“旧”植物棟】……」
中央施設の端っこに位置する、研究施設の中でも今は使われていない、昔植物研究所だった施設。
その周辺での目撃情報が相次いでいる。
使われていないから人も来ることはない。
それでも雨風を凌ぐこともできるし、植物研究に使用していたさまざまな植物はまだ残っているという。
あの子のスキルが【育成】ならば、植物がたくさんある場所は宝物庫のようなもの。
確かに潜伏するには絶好の場所かもしれない。
「いってみます?」
「そうだな。だがまずは食べてからだ。食べながら、少し身体を休めろ」
言いながらショコリエパンをちぎりながら優雅に食事をするラズロフ様は、まさに元王太子と言われても納得してしまうほどに上品な食事の仕方だ。
「そうですね。私もお腹すいちゃいました」
そう言って目の前のショコリエパンに手を伸ばす。
半分にちぎると、ちぎったところからほんのり白い湯気が出てきてそれに食欲をそそられる。
口の中に入れると優しい甘さが口いっぱいに広がり、私は思わず頬を緩めて微笑んだ。
「美味しい……!!」
クロードさん、しっかり食べているだろうか?
早く一緒に、温かいご飯を食べたい。
1日の何気ないことを話し合って、笑い合いたい。
私がそんなことを思ったその時だった──。
「え……」
「?」
頭上から戸惑ったような声がして、ふと顔を上げてみると──。
「リ、ゼ……?」
「クロードさん!?」
愛しの旦那様がそこにいた──。