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第93話 偽たくあん聖女⑦

「着いたな」

「ここがブックデルの王都、メモリ──」


 国境を抜け、2町を超えてたどり着いた王都メモリ。

 馬を街に入る前のうまやに預けてきた私たちは、早速王都の中心まで歩いてきた。


 大きな建物がドン、ドン、ドン、と街の中央に集結していて威圧感がすごい。

 白く巨大な建物は無機質で、どこか冷たく人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。

 おそらくあれら全てが研究施設なのだろう。

 白衣を羽織ったっ人々がその巨大な箱の中へと吸い込まれるように入っていく。


「噂の発信源はすべて王都だという話だ。とりあえずたくあん被害者に実際に会ってみるぞ」

「たくあん被害者……」

 なんか嫌だ。


「まずは住宅街の方で聞き込みするぞ。さすがに誰が被害者でどこにいるかまで、俺は把握できていないからな」

 そう言って中央に背をむけ、住宅街の方へと歩いていくラズロフ様の後を「ま、待ってください」と急いで追う。



 ──中心部から住宅街に行くにつれて少しは温かみのありそうな家が立ち並ぶのだろうかと思っていた私の読みは甘かった。


 四角い。

 白い。

 なんだこれは。


 おそらく全てが一軒家なのだろうけれど、そのどれもが角張っていて真っ白い。フルティアやベジタルのような色鮮やかな色を想像していたから、この光景は驚きだ。


「ブックデルの人々は、研究や学問、知識の向上を1番大切にしている。だから、住まいにこだわる者は少ないのだろう」

「そ、そうなんですか……」


 あぁでも、カデナ王太子もそんな感じだったわね。

 自分の知的好奇心を満たすことが最優先、みたいな……。


「とりあえず店をあたるか」

「そうですね」

 いきなり住宅にお邪魔して聞き込んでもただの不審者だ。


「ごめんくださーい」

 すぐ側の果物店へと入ると、奥の方から垂れ目がちの綺麗な女性が姿を表した。

 妊娠中なのだろうか。

 大きなお腹を摩りながら私たちの方へと歩いてくる。


「はい。何かお探しですか?」

「あ、えっと。偽物──「ばか!!」痛ぁっ〜!!」

 私が本題に入ろうとすると、後ろからラズロフ様に思い切り後頭部を叩かれた。

 何をするんですか!! と振り返る私を無視して、ラズロフ様はいつもの不機嫌そうな難しい顔を封印し、爽やかな笑顔を浮かべ、女性に話しかけた。


「すみません。僕たちは西の街ノートンの出身でして、この街でたくあん聖女を見たという話を聞いてやってきたんですが、聖女様がどこにいるかご存知でしょうか?」

誰これ……。


「たくあん聖女、ですか?」

「えぇ。実は僕たち兄妹の母がずっと病で臥せっていまして……。どんな医者にも治すことができず、困っていたのです。たくあん聖女がいるのでしたら、ぜひその聖なるたくあんで母を治していただきたくて」


 無駄にキラキラしたオーラを放ちながらスラスラと嘘を並べるこの男は本当にあのラズロフ様なのだろうか。

 ていうか兄妹って……。

 そんな初対面の怪しげな男の言うことなんて信じるわけ──「まぁ……そうなの。お気の毒に……」──信じた!?


 な、なぜ……。

 あれか。

 イケメンは正義というやつか。


「でもおすすめはしないわ。たくあん聖女なんて名ばかりで、実際はたくあんなんて意味わからない食べ物で人を殴ったり、たくあんを食べた子達はお腹を壊すことになったり、散々なんだから」


「!! その、実際に被害に遭われた方がいるんですか? 噂が一人歩きしたのではなく?」


「えぇ。お向かいのお肉屋さんのご主人も、夜道でたくあん聖女に殴られたらしいわ。お隣の娘さんだって、学校帰りにたくあん聖女から渡されたたくあんを食べて、お腹を壊して病院に運ばれたんだもの。かくいう私だって……」


 言いながら視線をお腹へと移し、お姉さんは言葉を続ける。


「今妊娠中でね。偶然たくあん聖女に会えて私もたくあんをいただいたの。お腹の子にご利益があるかもしれないって。そうしたらお腹をこわしてしまって、危うく早産になってしまうところで、昨日退院したばかりなのよ」

「早産に!?」


 大変なことだ。

 でもそんなこと、私、してない。

 濡れ衣だわ。


「それは本当にたくあん聖女だったんですか? 偽物とかじゃ……」

「おいリゼリア」

「本物よ!! だって、記事に載っていた絵姿のお顔と同じだったもの!!」

「!!」


 記事の絵と同じ顔……。

 この世で私と同じような顔をしている人間を、私は1人だけ知っている。

「アメリア……」

「……。……お話、ありがとうございました。僕たちはもう少したくあん聖女について調べてみます。赤ちゃん、無事に産まれることを祈ってますね。行こう、リゼリア」

 人の良さそうな笑顔を貼り付けてラズロフ様が私の手を引く。


「あなたたちのお母様も、元気になるように祈ってるわ」

 そう言って力なく微笑む女性に会釈をして、私たちは店を出た。


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