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第84話 新婚とはなんぞ⑥

 1日目は2人で海で遊び、海辺のレストランで夕食を食べてから宿に入った私たち。


 とても高級感のある宿はどう見ても王室御用達です、と言った雰囲気で、聞けばここは王太子殿下が『せっかくの2人きりの新婚旅行だから特別室を用意してもらったよ』と、殿下自らが予約をいれてくれたらしい。


 その夜は長旅で疲れていたのか、お風呂に入った後、ベッドに座ってクロードさんがお風呂から上がるのを待っているうちに、睡魔が襲ってきた私は、クロードさんが戻ってくるのを待つことなく、1人で眠ってしまったのだった。




「……」

「あの、リゼ?」

「……うぅ……」

「大丈夫?」

「面目ない……」


 クロードさんを待たずに眠ってしまっていたという罪悪感で、朝から1人反省中の私。

 せっかくの旅行なのに。

 旦那様を放って1人で眠ってしまうだなんて……!!

 しかも朝起きたらきちんと布団の中に入ってたということは、クロードさんがわざわざ布団に入れてくれたってことよね!?

 何迷惑かけてるの私ー!!


「よくわからないけど、ほら、元気出して。今日は一緒にガラス工房に行くんだろう?」


 そうだ。

 今日はこのチェリアンの名産であるガラス工房にお邪魔することになっている。そこでガラスを焼いてペアグラスを作るのが、私のこの旅行での楽しみの一つでもある。

 東の国では、何かペアのものを持つと、お相手とずっと仲良くいられるっていう言い伝えもあるようだし、今回は私がクロードさんのものを、クロードさんが私のものをお互いに作るということになった。

 素敵なペアグラスを作って、クロードさんとの仲を深めたいところだ。


 よし、気を取り直していくわよ……!!



 ──と、意気込んでいたんだけども……。



「な……なぜだ……!!」

「リゼ、確か紫色のガラスと黄色のガラスを合わせたんだよね?」

 コクリと無言で頷き、目の前の出来上がった物体に目を向ける。


 紫色のグラスに黄色のガラスを熱で溶かし柄をつけていくのだけれど、もたもたしすぎて溶け合い、淀んだドドメ色に変化してしまった。

 柄をつけていた時にはまだ黄色も残っていたはずだけれど、冷却時間で軽食をいただいている間に同化が進んでしまったようだった。

 対してクロードさんが作った私のグラスは、黄色のグラスに紫のガラスを溶かした柄がとても綺麗についていて、見事な出来上がりだ。


 忘れていた。

 私、ものすっごい不器用だったんだ……!!

 ドレス選び以外の美的感覚もそもそもあまりない方だし、大雑把だし。

 私に最も向いていない体験じゃないか……!!


「ごめんなさい……。私、聖女なのに、なんかものすごい禍々しいものが誕生してしまいました……」

 これじゃ聖女のグラスというよりも魔王のグラスだ。

 しゅんと肩を落として謝罪を述べる。

 あぁもう!! 素敵なグラスを作って仲を深めるんじゃなかったの!?

 私のばかぁぁぁあ!!


「大丈夫だよ、リゼさん。見て」

 そう言ってクロードさんは私が作ったグラスを光にかざした。

 するとドドメ色の禍々しさを放っていたグラスが、ほんのり薄紫色になって透明感のある色に変わった。

 普通に見た時には気泡まみれでゴポゴポとしていた表面も、透かしてみれば薄紫色の夜空に浮かぶ星のようにも見える。


「ね? 綺麗だろう? ありがとう、リゼ。大切にするよ」

「クロードさん……」


 あぁ、本当、クロードさんはいつも私の心を救ってくれる。

 私は何も返せていないのに……。


「さ、そろそろ宿の方へ戻ろうか。今日の夕食は部屋でゆっくり取れるように用意してもらってるから」

 そっと肩を抱いて私を慰めるように優しく声をかけてくれるクロードさんに、私はまた無言で頷くと、彼と一緒に宿へと戻っていった。



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