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第83話 新婚とはなんぞ⑤


「さ……サクサクする……!!」

 近くに馬車を停め、浜辺に降りた私たち。

 初めての砂浜を踏む感触に、私は感動しっぱなしだ。


 歩いては軽く沈み、歩いては軽く沈み。

 普段歩き慣れた石畳や土とはまったく違う感触。

 サクサクほろほろのクッキーの上を歩いているみたい。

 すごい。すごいわ。


「ははっ。本当だね!! 噂には聞いてたけど、すごく面白い感触だ。リゼ、転けないように手を繋ごう」

 そう言ってクロードさんによって攫われた私の右手。

「っ……」

 突然の温かい感触に鼓動が跳ねる。


 だめよリゼリア。

 しっかりしなさい。

 この旅行で私、クロードさんにやることがあるでしょう?

 クロードさんに私の気持ちを、ちゃんと行動で示さないと……!!

 そのためには、この程度で翻弄されてちゃだめだわ!!


「何1人で百面相してんの?」

「ひゃ!?」


 考えている間に私の目の前にはクロードさんの綺麗な顔が迫っていて、驚いた私は思わず飛び退くように後ずさった。


「く、くくく、クロードさん!?」

「はは、慌てすぎ。でも、あなたのこんな楽しそうな姿を見てると、やっぱり来てよかったって思えるな」


 ううっ……クロードさんの笑顔が眩しい。


「そうだ。少し海に触れてみようか。海は舐めるとしょっぱいらしいし、それも試してみよう」

「海が……しょっぱい!?」


 ナニソレ!?

 試してみたい……!!

 誘惑に駆られた私は、クロードさんの手を引いてよろよろしながら砂浜を歩き、海辺へと向かった。


 食堂のお仕事中のような膝丈のスカートにしていてよかった。

 貴族のように長いドレススカートだったらすぐにだめになっていたわね。

 あぁでも、タイツは履くべきじゃなかったかも。

 すぐに濡れてしまいそう。


 目の前の寄せては返す波を見つめて考えていると、クロードさんが私の手を離し、突然砂浜へと座り込んだ。

 そして何と彼はブーツと靴下を脱ぎ、自分の長いズボンを膝まで捲り上げ始めたのだ。

「クロードさん!?」

 驚いて声をかければ、クロードさんは「来たからには思い切り楽しまないとね」とニヤリと笑って浅瀬へと裸足で入っていった。


「うわっ。冷たっ!! でもすごく気持ちいいよ!!」

 振り返って私に笑いかけてくれるクロードさん。


 そうね……!!

 せっかく来たんだもの。楽しまないと!!


 私は砂浜に座ると、ブーツを脱ぎ捨て、クロードさんを背にしてタイツを脱ぎ裸足になる。


 砂が足の指の間にググッと入り込んで、なんだか不思議な感触……!!

 ゆっくりと歩きながら、海の水に足をつけると、ひんやりと冷たい感触にキュッと目を瞑る。

「本当ですね。とっても気持ち良いです……!!」

 こんなところで膝下から素肌を思い切り晒すのはとても恥ずかしいけれど、この感覚は一度体験してみる価値があるわ……!!


 それに──。


「ほんのりソルティエの匂いがします」

 そのことに気づいた私は、そっと海の水に指をつけ、指についたそれをぺろりと舐めた。


「!! クロードさん!! ソルティエです……!! すごい……!! これがソルティエになる前の状態なんですね……!! これ自体もお料理に使えたりするんでしょうか……!!」

 

 海の水を元にして作っていることは知っていたけれど、実際に出回っているのは粉の状態になったソルティエだけだ。

 本当に海の水からできているのね……!!

 もうこれで煮たらそれだけで味がつくんじゃない?


「リゼは本当に真面目で研究熱心だね」

 くすくす笑いながらクロードさんが言って、私ははっと我に帰る。


 真面目……!!

 何やってんの私……!!

 今はクロードさんとの時間を大切にするんでしょう!?

 仕事のことを考えちゃだめー!!


「あぁでも、そのまま料理には使わないほうがいいかもね。塩みが強すぎてソルティエの味一色になっちゃうだろうから」

「そ、そう、なんです、か……」


 いけない。

 仕事のことは忘れよう。

 脱!! 仕事脳!!


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