第81話 新婚とはなんぞ③
「そう、新婚旅行に……」
「はい。お互い忙しすぎたので、数日ゆっくりしてきたいと思います」
穏やかな木漏れ日が差し込むガゼボで、私とレイラ様は2人だけでお茶会をする。
今2人目を妊娠中のレイラ様は、1人目の時のあまり食べることのできない悪阻とは違い、今回は食べていないと気持ち悪くなるタイプの悪阻らしく、目の前のテーブルの上には大量のケーキや果物、軽食類が並んでいる。
クロードさんは今、お兄様である王太子殿下の所へ数日留守にすることを伝えに行っていて、その間私は手土産のショコリエたくあんを持ってレイラ様を訪ねた。
いつもならば一歳になったばかりのお姫様であるメイ姫が一緒なのだけれど、今日は王妃様と朝からお出かけしているようだ。
「そうね。あなたたち、ちょっと働きすぎだもの。少しゆっくりしたほうがいいわ」
レイラ様から見ても私たちって働きすぎなのね。
もともとベジタル王国にいた時も休みなく王妃教育やら次期王太子妃としての公務参加やらで忙しくしていたから、あまり自分が働きすぎていたという自覚がない。
むしろ鞭で打たれる可能性もないし、不機嫌な婚約者もいないから、今の生活がよっぽど楽だとも思っているくらいだ。
ただ……。
「リゼ? どうしたの?」
私の心のうちが顔に出ていたのか、レイラ様が心配した様子で私の顔を覗き込んだ。
「あ、えぇ……。私自身、あまり働きすぎていたという自覚がないんです。ベジタルにいた頃はこれ以上に働いていましたし、身体に疲れは感じないんです。ただ……」
「ただ?」
「……クロードさんに捨てられないか心配です」
体力的にこの忙しさは全然苦ではない。
だけど、忙しさでクロードさんとの時間がなかなかしっかりと取ることができないことは、私も気になっていた。
「皆さん口を揃えて、クロードさんが私を捨てるようなことは絶対ないと言うけれど、クロードさんの優しさに甘えきっていてはダメだと思うんです。なのに、じゃぁどうしたらいいのかが私にはわからなくて……」
恋愛初心者の私にはクロードさんに何をしてあげればいいのか全くわからない。
それを考えた時、1番に思い浮かぶのはたくあんで何かを作ってあげよう、だし、完全に仕事中毒者の思考になっている。
「彼に関しては全くその心配はないと思うけれど……リゼは気になるのね? ……なら、こういうのはどうかしら?」
顔貸して、と前のめりになって顔を至近距離に近づけてこそこそと内緒話のように語られたそれは、私に取ってはものすごいハードルの高いもので……。
「ね? これならきっとクロード様も喜んでくれると思うわ」
普段冗談を言わないレイラ様がいつにも増して大真面目な顔でそういうのだから、これは本気なのだろう。
少し勇気がいるけれど、それでクロードさんが喜んでくれるなら……。
「……わかりました……!! 不詳リゼリア・グラスディル。クロードさんを喜ばせるために、頑張ってみせます……!!」
「そんなに意気込むようなことかしら……」
レイラ様のアイデアを実行するため気合を入れた私は、それからクロードさんが迎えに来るまでの間、レイラ様としばしのお茶会を楽しんだのだった。