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第79話 新婚とはなんぞ①


「リゼ、あんた、1週間うちに来るの禁止ね」


 この間の友好国晩餐会から帰ってすぐのこと。

 私がいつものように出勤すると、クララさんに突然冒頭の言葉を突きつけられた。


 なんで!?

 私、何かしてしまったかしら?

 特に最近何か失敗したようなこともなかったのに……。

 はっ。もしかして、最近クロードさんとの時間を多く取るため、定時になると閉店作業をハイスピードで行って帰ってたから、何かやり忘れでもあっただろうか?


「あ、あの、何か私、やらかしてしまいましたか?」

 恐る恐る目の前の海坊主──、いや、義兄クララさんに尋ねれば、彼は真剣な表情で私を見下ろし、そして──。


「私としたことがすっかり忘れてたのよ」

「へ?」

 忘れてた? クララさんが? 一体何を?


「あんた、結婚して1ヶ月よね?」

「は、はい」

「結婚式の翌日に仕事を休んだのは当然として、あんた、翌々日から何してた?」

「翌々日? えっと、ここで食堂を……」


 翌日は結婚式の翌日ということでお休みをもらった私は、一日クロードさんと甘く穏やかな時間を過ごした。

 その翌日には普段通り出勤したはず。


「そうよね。聖女の仕事で駆り出される以外は、平日はほぼ毎日うちで働いてたわよね。なんならここが休みの日も聖女の仕事に駆り出されてたりしたわよね」


 第二王子と聖女の結婚の話は大々的に国外にも知れ渡り、結婚式後から聖女への依頼が多く寄せられた。

 なんでも、幸せの絶頂にいる聖女のたくあんはよりご利益があるとかなんとかいう話が広まったせいらしいが、それゆえに休日でも他国に駆り出されたりもしていた。


「で、この間までは友好国晩餐会の準備でフルティアとベジタルの往復の日、と……」

「そうですね。最近少し忙しかったので、早く帰ってクロードさんとの時間を作ろうと思って急いで閉店作業をしていたので、何かミスがあったのならごめんなさい」


 私が理由を話して頭を下げると、頭上から「はぁ〜〜〜〜〜……」と深くて長いため息が降ってきた。


「それよ」

「はい、ですから」

「ミスじゃないわよ」

「え?」


 違うの?

 じゃぁ一体どれ!?

 私が訳もわからず首を傾げると、再びクララさんはため息を吐いてから呆れたように私に言った。


「あんた、わかってる!? あんた今、俗に言う新婚なのよ!? し・ん・こ・ん!! どこの世界に結婚式翌日を休んだだけで通常通り、いえ、それ以上の仕事をこなす新妻がいんのよ!? もっと数日屋敷にこもってイチャコラするぐらいしなさいよおバカァァァァっ!!」


 いや数日屋敷にこもってイチャコラって……もしやったとしても怒るくせに何を言ってるんだこの義兄は。


 だけど確かに、私たちが結婚してから2人でゆっくりと過ごした時間って限られてるのよね。

 友好国晩餐会の時にクロードさんと話をして、ここ数日は急いで帰っているから前よりは夜ゆっくりと食事をして話をする時間があるけれど、それでもやっぱり少ないのは少ないだろうと思う。

 何より、私たちは2人で丸1日休日をゆっくりと過ごしたことすらない。

 ……あれ?

 私たち、結婚した、のよね?


 今更ながらに疑問に思えてきた私に、クララさんは本日1番の特大のため息をこぼす。


「まぁ、私も神殿長もそこらへんになかなか気付けずにあんたに仕事させすぎたって言うのは悪かったけど……。いいこと? あんたとクロードに1週間あげる。あんたたち、その間神殿も神殿食堂も出入り禁止だからね!!」


「エェッ!? い、いや、聖女の仕事やクロードさんだって聖騎士のお仕事が……」

「だから、聖女業も急ぎのものは今入っていないし、聖騎士業だって、騎士が死ぬ気で働けば1週間ぐらいなんてことないのよ!! たまにはクロードに頼らずに、他の聖騎士と騎士だけで働かせればいいのっ!!」


 フルティアの聖騎士はクロードさんの他に2人しかいない。

 力もクロードさんが並外れて強い光魔法の力を持っているから、彼に依頼が集中し、クロードさん1人で1日に数件の依頼を同時にこなすこともあるというから、彼自身の負担も大変なものだろう。

 それでも毎日笑顔でここに昼食を食べにきてくれたり、夜はここにまで迎えにきてくれたり、疲れているところを全く見せなクロードさんはすごいと思う。


 だから、クロードさんが休めるのなら、1週間休みをもらうのもいいかもしれない。


「……わかりました。私、ちゃんとクロードさんを休ませます!! クロードさんにはいつまでも元気でいてもらいたいですものね!!」


「……多分私が考えてることと違うけど……まぁいいわ。1週間、しっかり休みなさい」


 こうして私とクロードさんは、1週間強制的に仕事を休むことになったのだ。




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