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第76話 友好国晩餐会④


「……と、いうことなので、入ってくださって結構ですよ、クロードさん、ラズロフ様」


私が開け放たれた扉に向かってそう言うと、罰が悪そうな顔をして、先に会場に行ったはずのクロードさんとラズロフ様が扉の影から姿を表した。


「気づいてたの?」

「えぇ。王妃教育の賜物です」


様々な気配を読むこと、察知する能力は幼い頃から鍛え上げられた。

たとえ気配を消したとしても、相当意識して消さねば私にはわかってしまうだろう。


「私と話をするようにあなたに言ってくださったのは、ラズロフ様でしょう? そしてクロードさんも、それを知っていた。違いますか?」


 私が問うと、目の前の男たちは2人揃って目を大きく見開いた。

 やっぱり。図星か。

 小さな違和感がゆっくりと解消されていく。


「カロン様とラズロフ様がここにきた時、クロードさんは『なんでこのタイミングなんだ……』と言っていました。きっとラズロフ様はクロードさんに、私とカロン様を2人で話せるようにと事前に話を通していたんでしょう。普通だったら『なんでここに』が正解のはずだもの。だけど2人で話す機会をいつ儲けるかまでは決めていなかった。だからあの反応になったんですよね」


私が並べた言葉は全て大正解だったのだろう。

クロードさんもラズロフさんも気まずげに視線を伏せてしまった。


全く、この二人組は。

仲がいいのか悪いのか。

息が合うのか合わないのか。


「……カロンに突然重責を負わせてしまったのは私だ。あの立場がこの上なく重いというのは、私はよく知っていたのに、己の身勝手な責任の取り方で、あいつに押し付けた。あいつがその立場に、変わっていくものに戸惑い悩んでいることには気づいていた。だから一度、お前と話をさせてやりたかったんだ」


ラズロフ様は私に視線を合わすことなく、苦しげな表情を浮かべながらそう言った。

彼はきっと、ずっと悔やんできたのだろう。

自分のせいでなんの罪もない、穏やかにひっそりと暮らしていけば良かったはずのカロン様を今の立場にしてしまったということを。

もしかするとラズロフ様は、これまで背負ってきたものを捨てる代わりに、もっと重いものを背負ってしまったのかもしれない。


「って言われちゃ、断れないよね」

やれやれ、とため息をつきながらクロードさんが苦笑いして隣のラズロフ様を見た。


「俺としても、カロン殿のことは少し気にしていたから、ちょうど良かったんだ。彼、貿易の話し合いで会う時、いつもものっすごい気まずそうにしてたからね。『自分なんかがこの会議を取り仕切っていいのだろうか』って思ってるのが伝わってきて可哀想なくらいだったし。でもリゼのおかげで、きっと少しずつ彼も変わっていくだろうさ。何せ、彼には『全く、全然、ちっとも素直じゃない、可愛くない性格をした』義兄がついているんだからさ」


「貴様ら……」

ラズロフ様が低く唸る。

やっぱりそこも聞こえていたのね。


「ま、まぁ、カロン様も少し吹っ切れた様子でしたし、これからのことはラズロフ様、神官としてもお忙しいでしょうが、カロン様のこと、見守ってさしあげてくださいね」

「……無論だ」


神官として普段は神殿で子どもたちに勉強を教えているラズロフ様は、かなり無愛想でかなり口が悪いが、教え方も上手く面倒見の良い先生なのだと噂で聞く。

彼ならカロン様の相談役としても先生としても、どちらもしっかりとこなしてくれるだろう。


「さて、それでは私たちもそろそろ会場に参りましょう。ベアル様や王太子殿下が待ってます」

私もまだベアル様にお会いできていないし。


「そうだね。じゃ、行こうか、俺のたくあん聖女様」


「その呼び名、健在なんですね……」



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