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第74話 友好国晩餐会②


「すまんな」

「え?」

「結婚してすぐに、こんな面倒なことに付き合わせて」


 正面を向いたまま私に視線を向けることなく、ただ歩きながら淡々とくり出されたその言葉に、私は思わずラズロフ様を凝視してしまった。

 だって、彼からそんな私を気遣う言葉が出るなんて思わなかったんだもの。

 それだけ彼が変わったということなのか。

 いや、元々この方はこういう方だった。

 ただ元に戻っただけ、か。


 それがなんだか嬉しくて、私はラズロフ様に向かって微笑んだ。

「大丈夫ですよ。3国の友好条約が締結されたのは素晴らしいことですもの。その記念の晩餐会に一役買わせていただけるなら、光栄なことです」


 私の母国であるベジタル王国。

 クロードさんの母国であるフルティア王国。

 そしてベアル様の国であるベアロボス。


 どの国も、私にとって大切な人たちが暮らす国だ。

 私の大好きな3国が友好条約で結ばれた記念の晩餐会のお役に立てる。

 こんなに嬉しいことはない。


「……ふっ。一役どころか。お前はこの条約締結の立役者だろう。お前がいなければ、この国が変わることも、条約が成されることもなかった。礼を言う。ありがとう、リゼリア」


 どうしよう。

 ラズロフ様がしおらしすぎて怖い……!!


「おいお前、今失礼なこと考えてただろう」

「へ!? い、いえ、何も。……あ、そうだ!! 結婚式では素敵なローゼリアのお花をありがとうございました。とっても綺麗で、香りも良くて……。それにカードも。とてもうれしかったです」


 結婚式。

 控室にそっと届けられたローゼリアの花束。

 そしてそれに添えられた「幸せになれ」の一言が書かれたカード。

 どちらも私の心を暖かくさせたのは、ずっと心に残っている。


「……もうやらんがな」

「ふふ、はい」


 あぁ、私、こういうのなんていうか知ってる。

 ツンデレ、って言うのよね。

 本人に言ったら絶対怒られるだろうから言わない。



 そんな話をしながら到着したベジタル王国の厨房。

 複数の料理人たちが、フルティア王国から派遣された料理人の指導のもと、朝からせっせと仕込みをしている。

 

 ベジタル王国の厨房がこんなに活気付いているのを見るのは初めてかもしれない。

 今までは決められた葉物野菜を決められたごく簡単な方法でしか調理することもなく、料理人たちの活気もなかった。

 食材が増え、調理法が増えることで、料理人たちの士気も上がり、もっと美味しいものを作りたいという意欲にもつながっていく。

 うん、良い傾向だ。


「お前たち」

 ラズロフ様が料理人たちに声をかけると、彼らは一度手を止めて、こちらへと集まってきた。


「フルティア王国の者はよく知っていると思うが、フルティアの聖女リゼリア・グラスディル公爵夫人だ。事前に話していた通り、彼女にベアル王太子の食事と、たくあん料理を一品担当してもらうことになっている。皆、よろしく頼む」


 あらためてグラスディル公爵夫人だと紹介されると、ものすごく照れる。

 本当にクロードさんの妻になったんだよね、私。

 正直公爵夫人らしいことは未だ何もしていないのだけれど。


 朝起きて公爵家から神殿食堂に行き、クララさんやセレさんと一緒に食堂で働いて、夜は迎えにきたクロードさんと一緒に公爵家に帰り、彼と共に眠る日々。

 時々聖女としての仕事の依頼が入ってそちらにいくこともあるけれど、あとは前までとそこまで変わることがない。


 もちろん、公爵夫人として、これからお茶会を開いたりパーティの切り盛りはしなくてはならないだろうし、夜会があれば出席することになるだろうけれど、まだ結婚して1ヶ月。

 しかも社交シーズンではない今、その必要がない。


「皆さん、今日はよろしくお願いしますね。皆さんの心のこもったお料理で、3国の友好に花を添えましょう!!」

 私が挨拶をすると、料理人たちの威勢のいい声で返事が返ってくる。

 気合は十分だ。


「では、私はカロン達の方へ行くから、あとは頼んだ。終わったらそこのベルで人を呼んで、部屋に案内してもらって晩餐の準備をするといい。お前が持ってきたドレス類は部屋に一式運ばせている」

「はい。ありがとうございます、ラズロフ様」


 私が笑顔でお礼を言うと、ラズロフ様は少しだけ困ったように眉を下げて、手をひらひらと振ってから厨房を後にした。


「よし!! 美味しい料理を作るわよ!! 【たくあん錬成】──!!」


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