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第62話 私を信じて


「なっ……!! 自分が何を言っているのかわかっているの!? あんなに可愛がってきたのに!!」

 違う。

 この人たちが本当の意味で可愛がってきたのはアメリアの方だ。


「この恩知らず!!」

 違う。

 育ててもらった恩は知っている。ただ関係の終わりとともに砂のようにサラサラとこぼれ落ちてしまっただけで。


「お母様悲しいわ!! あなたなんて……産まなければよかった!!」

「っ……!!」

 母親だった人から放たれたその言葉は刃となって、私に残っていた一欠片の実母への思いに傷をつける。

 欠片すらもズタボロになった思いは、小さくなって消えていく。


 あぁなんだ。

 なんにもなくなったじゃぁないか。

 私の中から彼らへの想いが全て消え去ったその時──。


「そこまでにしていただこうか」

 言葉を失った私の前に、白いマントを羽織った背中が立ちはだかった。


「クロードさん……」

 彼の名を呼ぶと、クロードさんは一瞬だけ私を振り返ってからふわりと笑った。


「部外者は放っておいてくれ!!」

「そういうわけにはいかん。俺の可愛いリゼさんがひどいことを言われて黙っていられるほど、俺は平和ボケしていないし薄情な人間ではない。あぁ、挨拶がまだだったな。俺はフルティアの第二王子、クロード。リゼさんの婚約者だ」


「第二王子!? 婚約者!?」

 これまでずっと黙っていたピンク──アメリアが声をあげる。

「あぁ。正式な婚約式はまだだが、帰ったらそうなる予定だ」

 クロードさんの言葉にアメリアの大きな目が私をぎろりと捉える。

「なんで……何であんたが!! 私は未だ婚約者にもしてもらえないのに何でこの面白みのない女が……!!」

 

 ん?

 まだ婚約してないの?

 あの婚約破棄の時にはもうすでに出来上がってる感じだったけれど……。

 どういうこと?


「リゼさんは他の誰よりも優しく美しく気高く、そして──とっても面白い人だよ。媚びるしか能のない君よりもずっとね」

 クロードさんの声色が低く響き、サファイア色の瞳が鋭く細められる。

「っ……」

「アメリア落ち着きなさい。リゼリア、お前には王太子殿下より命令が下っている。逃げずに私たちに従いなさい」

「命令?」

 アメリアを庇うようにして父だった人が言う。


「あぁ。リゼリアをラズロフ王太子殿下の元へ連れていくようにと。逆らうことは許されない」

「は!?」

「ラズロフ!?」

 クロードさんと私の声が重なる。

 あぁだからこの人たちは私を(おだ)ててでも連れていきたかったのね。

 他ならない王太子の命令だものね。


「……わかりました」

「リゼさん、俺もいくよ」

「殿下はリゼリア1人をご所望です」

 私は物か何かか。

 この人たちにとってはそうなんだろうけれど。


「そんなバカなこと──」

「いいですよ」

「リゼさん!?」


 どうせここにくるならば彼とも話をつけなければいけないと思っていたから。

 話をしてこよう。

 元婚約者に。

 あなたが追放した元婚約者は、こんなにいい女だぞって言ってやらなきゃ。

 クララさんの言葉が思い出される。

 私、やってやりますからね、クララさん!!


「おぉさすが我が娘!!」

 じゃないってば。

「では早速この馬車で城に」

「わかりました」

 城までこの3人と一緒なのは憂鬱だけれど、仕方がない。

 私は馬車へと足を進める。


「リゼ!!」

「リゼリア殿!!」

「リゼちゃん!!」

 皆が私を呼び止める声に私は「大丈夫です。すぐに戻ります」と笑顔を向けた。


「あ……」

 小さく声を上げた私は、足の向きをかえてクロードさんに向かって歩き出し──ぎゅっ──と彼を抱きしめた。


「リゼ……さん?」

 そのまま私はクロードさんにだけ聴こえるように、彼に囁いた。

「クロードさん、私は大丈夫だから、今のうちにカロン第二王子殿下を助けてあげてください」

「だが……!!」

「クロードさん──私を信じて」

「っ……リゼさん……。……わかったよ」


 私はもう一度彼に微笑むと、家族だった者たちと煌びやかな馬車に乗り込み、通い慣れた城へと向かった──。


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