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第61話 仮初の家族


「ふぅ。大体目処が立ってきましたね」

 夕日が沈み始めた頃、王都のほぼ全ての人に食事を行き渡らせることができた。


 パーン、パンパンッ──!!

「お、他の地域も順調みたいだ」

 さっきから立て続けにいろんな方向で綺麗な打ち上げ花火が上がっている。

 今ので9つ目。

 ベジタル王国の地域は11個。

「あと2地域か」

「はい。もう少しですね」

 自分の地域が終わった隊が他の隊と合流したり、ベジタル王国の国民の協力もあったからこその、このスピード感なんだろう。

 皆、ありがとう。

 心の中で今もなお各地で頑張ってくれる皆へとお礼を言う。


「リゼリア様、フルティアの王子様、本当にありがとうございました」

「おかげで衰弱しきっていた者たちも元気になりました。本当に……なんとお礼を言っていいのか……」

 涙ぐむ国民に私は笑顔を返して応える。

「元気になってよかったわ。フルティアの皆のおかげよ。私だけじゃこんな一日でできなかったし、ベジタル王国に行くことすら躊躇(ためら)っていたと思うもの」

 挫けずにいられたのも。

 歪まずにいられたのも。

 追放されて今まで色んな人の助けがあったから。

「リゼリア様がお幸せそうでよかった」

「ありがとう。心配かけてしまったわね」

 あんなに澱んでいた街の空気が、今は笑顔で溢れてる。

 【たくあん錬成スキル】を授かることができて、本当によかった。

 今なら素直にそう思える。


 パーン、パンパンッ!!

 パンッ、パンパンッ!!

 2箇所同時に上がる花火。


「!! 終わった……!!」

「やったね、リゼさん」

「はい!!」

 本当に一日で終わっちゃった……!!

 フルティアの皆や記者さんたち、ベアル様たちモフモフ隊のおかげだわ。


「おーいリゼー!!」

 遠くで声と共に荷馬車から顔を出して手を振るのは──アイネ!!

 後方から他の荷馬車も続々と広場に到着する。

 さすが騎士団最速の荷馬車ね。

 地方からでもこんなに早く集合できるなんて。


「ご苦労様、皆。問題はなかったか?」

「はい殿下。最初は戸惑っていましたが、リゼリア嬢の声が録音された聖石のおかげで、すんなりと話は通りましたよ」

 ジェイドさんが馬車から降りると私に一枚の紙切れを手渡す。

「これ、街の女の子がリゼリア嬢にと」

「私に?」

 何かしら?

 四つ折りにされた紙切れを開くと、よれた字で「ごちそうさまでした」と一言書いてあった。

 なんだか胸がぽかぽかする。

 辛い思い出に塗り替えられていたこのベジタル王国だったけれど、それだけじゃなかったのよね、ここでの思い出って。

 私がその紙を胸に抱いたその時だった。


「リゼリア!!」

 聞き覚えのある野太い声に、思わずびくりと肩がゆれる。


 奥の通りから華美な装飾がなされた馬車が広場に侵入すると、中央の噴水をぐるりと回ってすぐ近くで停車した。

 そして中からアメジスト色の瞳の男性と、すらっとした美しいプラチナブロンドの髪をまとめ上げた女性、そしてピンクのフリルがたくさんついた女性が出てきた。

 私はこの3人をよく知っている。

 もう二度と会うこともないと思っていた人たち。


「あぁリゼリア!! こんなにみすぼらしい格好をして……!! かわいそうに私のリゼリア!!」

「でも元気そうでよかったわ……!! お母様もお父様も、アメリアだってとても心配していたのよ?」

 そう言って私をぎゅうぎゅうと抱きしめる男と女。

 それを2人の後ろで憎々しげに眉を顰めて見守るピンク。

 とても心配してたような顔ではないんだけれど……。


「……お久しぶりです。カスタローネ公爵、公爵夫人、公爵令嬢」

 自分でも驚くほどの冷たい声が私から流れ出た。

 でも、もっと震えるかと思ってた。

 もしもう一度あの人たちをに会うなら、冷静ではいられないと。

 でも多分、今私にあるのは恐れでも悲しみでもなんでもない。

 ──無だ。


「夫人だなんて……。他人行儀な……。お母様でしょう?? 私の可愛いリゼリア」

「あら? 私、カスタローネの門を潜るのを禁止されましたし、この国の貴族名鑑からも削除されていましたけど? というより、【他人行儀】ではなく、【他人】ですもの」

 何を言っているのかしら、この方達。

 ボケ始めるには早くない?

「そ、そんなこと……。あれは殿下が勝手にしたことだ。私たちはいつもお前の身を案じていた!!」

「役立たずのことを?」

「うぐっ……」

 言葉に詰まるってことは、覚えているってことよね、自分の言った言葉。

「そ、そんなひどいこと……」

「言っていないと? あぁ、言った側は覚えていなくても、言われた側は覚えてるってありますもんね。私、一言一句違わずに覚えてますよ、あの日のことは。だって、今まで信じていたものが全て私に背を向けた日ですもの」


 とても傷ついたし、悲しかった。

 父母は私を愛してくれていると信じていたもの。

 1人放り出されて、ドレスとヒールで歩き続けて。

 あの時倒れていた美形──クロードさんを拾わなければ、一人ぼっちで精神がどうにかなっていたわ。


「ですが、私、今はそんなに気にしていません」

「リゼリア……!! あぁ、さすが私の娘だ!! 愛情をかけて育ててきた私たちの気持ちをわかってくれたんだね?」

 なんて調子のいい。

「いえ。私はもう、あなた方の娘ではないからですよ。私はリゼリア・ラッセンディル。私の家族はクラウス・ラッセンディルただ1人です」


 兄なのか姉なのか父なのか母なのか。

 そこはひどく曖昧でよくわからないけれど……。

 それでもクララさんは本当に家族のように私を見守ってくれている。

 だから私、いらないわ。

 


 そんな仮初かりそめの家族なんて。


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