第60話 強力な助っ人
翌朝私たちは国境を越え、ベジタル王国へと入国した。
フルティアの国王陛下がベジタル王国へと連絡をしてくれていたことで、国境はすんなりと通ることができた。
この日国境を守っていたのは、私がこの国を出た時にいた騎士たちと同じ方達で、私の無事をとても喜んでくれ、この国を助けに来たことを感謝していた。
私たちは彼らにもたくあん料理を配ると、ジェイドさんやアイネや記者さんたち、フルティアの皆とは別れ、各自担当の地域へと向かった。
私とクロードさん隊の担当は、ベジタル王国の中心にある王都。
「この広場を拠点にしましょう」
私たちは王都の中央広場へ着くや否や、すぐにテントを張り、簡易調理場を設置し、持ってきた料理を準備した。
「あれ? あの人……リゼリア・カスタローネ公爵令嬢じゃないか!?」
私に気づいた人たちが声をあげる。
「本当だ!! リゼリア様だ!!」
「なんでここに!?」
「カスタローネ家と王家に復讐に来たんだ!!」
「俺たちも一緒に戦うぞ!!」
待てぇぇぇいっ!!!!
何物騒なこと言ってるのこの人たち!?
私、そんな復讐とか考えるようなイメージなのかしら……。
一度ゆっくりと息を吐き出し、大きく息を吸って呼吸を整えると、私は群衆に向かって声を張り上げた。
「リゼリア・ラッセンディルです。私は今、フルティアで幸せに暮らしております。皆さん、ご心配くださりありがとうございます。今日は、この国の危機と知って、フルティアの第二王子殿下と参上いたしました!!」
私の言葉に1人、また1人、何事かと家から出てくる。
あっという間に広場はたくさんの人で埋め尽くされた。
その中には私が政策を手伝ううちに仲良くなった人の姿も。
「これは聖なるたくあんで作った食事です。病を治し、力を回復してくれるでしょう。衰弱している人には、たくあん入りの胃に優しいお粥も用意しています。皆さん、並んで受け取ってくださいね」
ざわめきが大きくなる。
皆戸惑ってるみたい。
「この国を助けに来てくれたのか?」
「この国はあなたにとんでもない仕打ちをしたのになぜ……?」
あぁ、そういうこと。
そんなこと彼らには関係ないというのに。
「確かに、私はあの人たちがしたことを許すことはできません。でも、それとこれとは別。私の聖女としての力が【たくあん錬成】だったのは、きっとこの時のためだと思うんです。──この国の食事は偏りすぎている。いつこの状態になってもおかしくはなかった。だから女神様は、私にこの力を授けたのだと思うんです。なら、今使わずしていつ使うのでしょう? さぁ皆、早く食べて。動ける人は動けない人にも運んであげて。数は十分にあるし、足りなければここで調理するわ!!」
私の呼びかけに、人々は戸惑いながらも列を作っていく。
やっぱりまだ不安そうな表情だけれどとにかく受け取って食べてもらわないと。
私は容器に入れた【混ぜ焼き】を。
クロードさんはたくあんとキャベジンのお粥を器によそって配る。
時々目が合うと、にっこりと微笑んでくれるのが少しくすぐったい。
「なんだこれは……!!」
「すごい……!! なんだか力が湧いてくる」
「こんな食べ物初めて……!!」
よかった。お口にあったみたいね。
ベジタル王国にはあまり馴染みのない匂いも、【混ぜ焼き】として他のものと一緒に混ぜて焼いたり、ペーストしてお粥に閉じ込めることで緩和されてるだろうし。
ベアル様の時の知恵が役に立ったわ。
少しずつ張りのある声が溢れ始め、動ける人は弱った人のへとお粥を持って行ったり、ショコリエたくあんを配る手伝いをしてくれたりと、助け合いの輪が広がっていく。
王都は一日でなんとかなりそうね。
皆のおかげだわ。
でも、他の地域は大丈夫かしら?
あらかた目処が立ったら、合図に空に花火が上がるはずなんだけど……。
このままじゃ何日かかるか……。
「クロードさん、この隊を二つに分けましょうか。他の地域が遅れてしまうかもしれない」
「そうだね。仕方ない。人数が減って少し大変にはなるけれど、手遅れになる前に配っておきたいしね」
1隊あたりの負担が増えるけれど、人命には変えられない。
私とクロードさんが頷きあい、彼が指示を出そうとしたその時──。
「私たちも手伝うよ」
穏やかな低い声が広場に響いた。
え? 誰?
声とともに人だかりがどんどん割れていき、やがて姿を表したのは、人よりも頭1つ分とびでたモフモフ集団。
「ベアル様!!」
「ベアル殿!!」
1ヶ月ほど前に帰国された隣国ベアロボスの第一王子。
いや、ついこの間立太子され、今や王太子となったベアル様が大勢の屈強なモフモフたちを引き連れているではないか。
何このモフモフ集団。
眼福……。
「クロード殿。リゼリア嬢。その節はありがとうございました」
丸い黄金の瞳が三日月型に細められる。
「あ、あぁ。いや、ベアル殿、どうしてここに……?」
クロードさんも戸惑っているみたい。
ベアロボスはベジタル王国とはほぼ関わりのない国だったはずだものね。
「どうしてって……。言ったでしょう? フルティアが危険な時、そして、リゼリア嬢が大変な時には、必ず助けに行きます、と。今がその時です」
「ベアル様……。ありがとうございます……!!」
まさかの強力な助っ人たちの登場に心が震える。
とてもありがたい。
国や文化は違っても、助け合いの輪って広がっていくものなのね。
皆の想いを噛み締めながら、私たちはひたすら国民に食事を配り続けた。