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第58話 旅立ち


「リゼさん、キャベジンたくさん買ってきたよ。追加の穀物粉とケイメスの卵も外に届いてるよ。どうしたらいい?」

「クロードさん!! ありがとうございます。半分は中へ、もう半分は馬車の荷台へお願いします」

「わかったよ。 皆!! 半分は中まで頼む!!」

「あいよー!!」

 台車に大量のキャベジンを乗せて食堂へと持って入ったクロードさんに続いて、穀物粉や卵を乗せた台車が次々に運ばれてくる。


「アンセさん!! トマさん、トゥナさん、イアンさんも……!!」

 皆見慣れたこの店の常連さんばかり。

「今日はお店休みになったのに、どうして……?」


「なんか大変そうなことやってるからさ、手伝いに来たんだよ!!」

「リゼちゃんの母国を助けに行くって聞いちゃ、黙ってられねぇよ」

「他の奴らも、時間のあるやつらは皆、外で騎士団の荷馬車に荷物積み込んだりするの手伝ってるぜ」


 街の皆が……?

「リゼちゃん!! 料理手伝いに来たよ!! なんでも言っておくれ!!」

「包丁なら任せて!!」

 奥様方まで……。


「なんで……」

 ベジタルのことは、彼らには関係ないことなのに……。

「いやなんでって、俺たちのリゼちゃんが困ってるんだから、助けるのは当たり前だろう?」

「あたしたち皆、リゼちゃんが来てから毎日元気に暮らせてるんだよ。公爵家の令嬢で聖女様だってのに、いつも通り偉ぶることなく明るく元気にご飯を作ってくれる……。そんなあんたが、皆大好きなんだよ」


「みなさん……」

 なんてあったかいんだろう。

 追放されて、クロードさんを拾って、フルティアに来て、本当に良かった。


「必ず帰ってきてくだされ。リゼさんとクロード殿下のお子を抱くまでは、私は死ねんのでな」

「なっ……!? お子!?」

 赤ん坊を取り上げて70年の医者ジーナおばあさんの爆弾発言に、言葉を失う。

 なんで私とクロードさん!?

 まだお付き合いも何もしてないのに……!!

 皆そんな生暖かい眼差しでこっちを見るのはやめてぇぇ!!


「ハハッ。帰ってきたら頑張るから、長生きしてくれよ?」

「ちょ、クロードさん!?」

 何を頑張るの!?


「あんたたちー!! ショコリエたくあん大量に出来上がって箱に詰めたから、馬車に乗せてー!! 包丁使える人間は、こっちでキャベジン刻んでくれるー?」

 ぬるんと厨房から顔を出した海坊主──クララさんに「任せとけ!!」と威勢のいい声をあげ、男性たちが箱を運び出し始める。

 女性たちもキャベジンを切るのに加勢してくれると、あっという間にキャベジンの山が出来上がった。


 千切りにしてさらに細かく刻まれたキャベジンを、レジィやセレさんが穀物粉と水、ケイメスの卵を混ぜてくれた生地に入れて、さらに混ぜる。

 その中に小さく刻んだ肉と聖なるたくあんを投入して、もう一度混ぜ合わせる。5人がかりで全てのボウルの生地を混ぜると、すぐに大量の生地が完成した。


 食堂の机を繋げて巨大な鉄板を乗せ、油を引いて熱して、あらかた暖まったらその上にぽたっと握り拳サイズで生地を垂らしていく。

 ふつふつしたら裏返して……っと。

 うん、いい感じ。


「荷物、だいたい積み終わったよ。あ、いい匂いだね。何を作ってるの?」

 クロードさんが突然背後からひょっこりと顔を覗かせる。

「ひゃっ!? びっくりした……!!」

「ごめんごめん、で、これは何?」

 悪びれることのない謝り方をしてから、再び視線を鉄板の上に移す。


「【混ぜ焼き】です」

「【混ぜ焼き】? 俺が知ってるものと少し違うね」


 それもそうだ。

 今作っている【混ぜ焼き】は、この神殿食堂で出しているいつもの【混ぜ焼き】とは少し違う。

 いつもは薄く伸ばしたケイメスの卵の生地の上に炒めたキャベジンなどの野菜やバラ肉、麺類、魚粉を加え、ひっくり返して焼き上げ、ソースなどをかけてからたくあんを(いろど)りに散らして食べているのだけど、今回は全て生地に混ぜ合わせてから一口サイズにして焼いている。


「こっちの方が食べやすいかと思いまして。国民がどんな状態かもわからないので、手軽に食べられる一口サイズの【混ぜ焼き】と、衰弱しきってい方にはキャベジンとたくあんをミキサーでペースト状にして混ぜたおかゆ、それと元気が出るおやつ的な存在として、たくあんショコリエを持っていくつもりです」


 量が足りなかった時のために炊き出しができるよう、あらかじめ材料を切ったものを保冷庫に入れて、騎士団の荷馬車へ乗せてもらっているし調理器具も全て騎士団の遠征用のものをお借りすることになっている。


「なるほど。だから肉も小さくしていたんだね。さすが俺のリゼさん。そこまで考えていたなんて、恐れ入ったよ」

「ふふ、ありがとうございます。あとは人手ですね。ベジタル全域にこれらを配るとなると、やっぱり人手が足りませんし、何日かかることか……」

「そうだね。街の人たちが結構な人数一緒に来てくれることになっているけれど、それでも足りない。かといって、うちの騎士団から全員出すわけにもいかないし……」


 話をしながら焼き上がったものたちを皆で容器に移して冷ます。

 あっという間に【混ぜ焼き】が完成した。

 やっぱり皆でやると早いわ。


「リゼー!! 周辺の記者仲間集めてきたよ!!」

「アイネ!!」

 仲間を引き連れてアイネが食堂に入ってくる。

 すごい……こんなにたくさん……!!

 これが皆アイネが声をかけて連れてきてくれた人たち……!!


「ありがとうアイネ……!! 助かるわ!!」

「いいよ、お礼なんて。あんたには世話になったんだしさ。それより、この聖石に一言頼むよ!!」

 アイネが取り出したのは、たくさんの音声記録用の聖石。

 キラキラと赤く光った聖石は、記者の仕事の必需品でもある。


「えっと、どういう……?」

「あたしたちだけで食料を配っても、信用してもらえるかわからないだろう? だから、これは自分が錬成した聖なるたくあんだから、安心して食べろって一言言って欲しいんだ。これを持って食料配布すば、国民も信頼しやすいはず。なんたってあんたは、国民に人気の高い元カスタローネ公爵令嬢で、今や聖女様だからね」


 すごい……。

 そこまで考えてなかったわ。

 さすが信用第一の国際記者ね。

 私はすぐに聖石に言葉を吹き込む。

 皆が安心して食べてくれますようにと願いをこめながら。


 そうこうしているうちに全ての食料を積み終わり、あっという間に出発の時間になった。


「セレさん、クララさんや孤児院の食事のこと、よろしくお願いしますね」

「はい、任せてください」

 ふんわりと微笑むセレさんに安心して微笑み返と、「リゼ、レジィも行く!!」とスカートの裾をレジィが引いた。


「レジィはここでクララさんたちのお手伝いをお願い。クララさんとセレさんだけじゃ大変だから」

 しゃがんでレジィの頬についた【混ぜ焼き】の生地をハンカチで拭う。

 一生懸命混ぜてくれたレジィのためにも、頑張らなきゃ。


「そぉよぉ!! か弱い私たちだけで店を切り盛りするのなんて無理なんだから、あんたも手伝いなさい!!」

「でた!! 海坊主!!」


 ……か弱い……?


「リゼ殿。騎士団や手伝いの街の者たち、記者、全員乗りました」

「ありがとうございます、ジェイドさん」


「あぁ待ってリゼ」

 背後でクララさんが私を呼び止める。

 なんだろう?


「あんた、十分いい女なんだから、自信持ちなさい。なんならラズロフに一発お見舞いしてやんなさいな」

 悪戯っぽく笑って私の頭をぽんぽんと撫でるクララさん。

 一発って……。

 クララさんらしいわ。


 私は「はい!! 機会があれば」と笑顔で返事をして、私たちは馬車に乗り込むとベジタル王国へと旅立った。



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